平凡な俺にチートが落ちてきたんで蹴り飛ばしたらブーメランになって戻ってきてぶっ刺さるとか聞いてねえぞ!!ふざけた神に断固抗議を申し立てる!…で、神ってどこにいんだよっ?!
俺の名前は天野ユウ。
どこにでもいる高校生。
成績は中の下、運動もそこそこ、友達もまあまあ。
夢は「平凡に生きて、平凡に死ぬこと」
そんな俺の前に、ある日突然、空から神が降ってきた。
「やあ!君にチートをあげよう!」
金髪ロン毛、白いローブ、テンション高め。
いかにも“神”って感じの男が、俺に向かってキラキラした玉を差し出してきた。
「いえ、けっこうです」
「そんなこと言うなし!!!」
神は玉を投げてきた。
俺は、反射的にそれを蹴り飛ばした。
「ほかのやつにやれっての!!!」
玉は空の果てへと飛んでいった。
俺は神に背を向けて歩き出した。
——その瞬間。
「どぼくぎゅぇっ!!!」
背中に何かがぶっ刺さった。
振り返ると、神が親指を立てていた。
「はい刺さったー!じゃーね!」
俺はその場に崩れ落ちた。
そして気づいたら——おかしなチートをだな?!
・魔法使いたい放題
・金噴出し放題
・驚異的な身体能力
・沈着冷静
・容姿端麗
・頭脳明晰
・古今無双
・奇想天外
……なんだよこれ!!
俺はただ、平凡に生きたかっただけなのに!!!
翌朝、いつものように目覚めた俺は、まず鏡を見て絶望した。
「誰だよ、このイケメン…」
顔が整いすぎて、もはや人間味がない。
しかも、明らかに人が変わっているのに親も犬も猫もクラスメイトも…全く気にしていない。
俺が歩くだけで女子が振り返る。
「天野くんって、なんか……神秘的」
「天野様、今日も麗しい……」
昨日まで普通に話してたツレどもが距離をとる。
「天野くん…憧れる」
「おい、俺が天野様と一緒に飯を食うんだよ!」
違う!
俺は…そんなキャラじゃない!
授業では、教科書を開かずに答えがわかる。
体育では、ボールが勝手にゴールに吸い込まれる。
財布からは金貨がジャラジャラ出てくる。
「……これ、完全にバグってるだろ」
俺は神に抗議することを決意した。
「ふざけた神に断固抗議を申し立てる! 出て来いよ!!」
だが、神はどこにもいない。
空を見ても、祈っても、叫んでも、返事はない。
「……神って、どこにいんだよっ?!」
俺は、チートを解除する方法を探す旅に出ることにした。
目指すは、神々の領域。
スキルで調べたら、《エーテル界》というらしい。
広がり続ける場所で、大きさ・時間という概念がない場所のようだ。
平凡を取り戻すための、俺の戦いが始まった。
《エーテル界》への道は、チートのおかげで簡単だった。
空を飛び、次元を越え、神々の門を叩く。
「出てこい!俺にチートを押し付けたやつ!!」
現れたのは、あの金髪ロン毛の神——名は《ゼルフィス》というようだ。
「おお、君か!チート、気に入ってくれたかい?」
「返品だ!!」
俺は叫んだ。
「俺は、平凡に生きたいだけなんだよ!!!」
ゼルフィスは首をかしげる。
「でも、君は“平凡”の中で苦しんでいたじゃないか。だから、救ってあげたんだよ」
「苦しんでたかもしれないけど、それでも俺は、自分の力で生きてたんだ。チートなんて、俺の人生を乗っ取るだけだろうが!」
いつの間にか集まって来ていた神々がざわついた。
「人間が、チートを拒むだと……?」
「これは、前代未聞……」
ゼルフィスは静かに言った。
「ならば、君の意志を尊重しよう。チートを返上する儀式を行うが——代償は、“神々の記憶”だ」
「記憶?」
「君のことを覚えている者は、誰もいなくなる。君は、本当に“平凡”になる」
俺は迷った。
でも、決めた。
「それでいい。俺は、俺の人生を生きたい」
儀式は無事終わった。
俺のチートは消えた。
魔法も、金も、身体能力も、すべて元通り。
学校に戻ると、誰も俺のことを覚えていなかった。
「天野……?ああ、いたっけそんなやつ」
それでいい。
俺は、ようやく“普通”に戻れた。
授業は難しいし、体育は疲れるし、財布は軽い。
でも、俺は笑っていた。
「これが、俺の人生だ」
ある日、ゼルフィスがこっそり現れた。
「君の選択、神々の間でも話題になってるよ」
「……勝手に話題にすんな」
ゼルフィスはむくれた俺を見て、笑った。
「君の“平凡を選ぶ勇気”は、ある意味、神々を超えたんだ。それは、確かに…素晴らしい事、誰も成し遂げなかった偉業でね…」
俺は肩をすくめた。
「なんだよそれw 俺は英雄じゃないっての。ただの平凡な高校生さ」
——これは、チートを拒み、平凡を選んだ男の物語。
そして、誰よりも“自分らしく”生きた英雄譚。




