すんげぇがんばって世界救ったのにエンディング後に手のひら返しとかマジですか、そっちがその気ならこっちは全部無に返しますけど…?全俺の恨み、ありがたく受け止めやがれ!
異世界に召喚された高校生・神代ユウは、魔王を討ち滅ぼし世界を救った英雄だ。
炎を操る魔法、神速の剣技、そして仲間との絆。
すべてを駆使して、二年にわたる長い戦いを終え、王に報告をした、その翌日。
王城の玉座に呼び出されたユウは、王から告げられた。
「悪いんだけど、今すぐ元の世界に帰ってくんない?」
理由はこうだ。
「力のあるやつはこの世界にはいらん」
「人気のあるやつはこの世界にはいらん」
魔王討伐の功績は王や貴族の手柄として語られ、ユウは“危険因子”として追放されるらしい。
仲間たちは沈黙し、誰一人として彼を庇わなかった。
ユウは唖然とした。
「へえ……そういう態度、取っちゃうんだ」
静かに笑ったユウは…、王城を後にした。
その背中を見送った者たちは、誰も気づかなかった。
彼の瞳が、深い闇に染まっていたことに。
追放されたユウは、辺境の廃村に身を隠すことにした。
彼の心は、怒りと失望に満ちていた。
もとの世界に帰る方法など、どこにもない。
勝手に呼び出して、散々働かせたくせに、最後まで面倒すら見ようとせずに…捨てるとかさ。
「全部、元に戻してやる。いや、全部…なかったことにしてやんよ?」
ユウは魔王から奪った“虚無の魔法”を使うことにした。
それは、存在そのものを消し去る”禁忌”の力。
まずは王国の記録から、自分の名前を消した。
次に、王都の人々の記憶から、自分の功績を消した。
「俺がいなかったことにしたら、どうなるのか…思い知るがいい」
王国は混乱した。
魔王討伐の記録が消え、人々は存在しない脅威に怯えてパニックになった。
統率が取れなくなり守りが貧弱になっていく様子を見た魔物たちが再び侵攻を始めた。
王は焦り、貴族は責任を押し付け合い、民衆は逃げ出し始めた。
高台からオレンジ色に染まる王都を見下ろし、ユウは一人…笑った。
「能天気な人間どもに、俺の恨みが今…炸裂! はは、フハハハハハハ……!!!」
ひとしきり笑い転げたあと、きれいさっぱり全てを消して…どこか遠い土地にでも行こうと決意したユウは、虚無の魔法を放つため、手をかざした。
その時、彼の前に、かつての仲間・聖女リリスが現れた。
「ユウ……あなた、本当にそれでいいの?」
リリスは涙ながらに訴えた。
「私は……あなたを庇おうとしたの。でも、王に逆らえば、民が苦しむ。だから……仕方なく……。ゼンも、シュバルツも、ごん爺だって…ものすごく抗議して、それで……」
ユウは冷笑する。
「言い訳は聞きたくないな。俺は、全部消すって決めたんだ。見てろ、あの景色すら…俺は消し去ってやんよ?」
リリスがユウの前に立ちはだかる。
「なら、お願い。私を…消して。あなたがいなかったことにするなら、私もいなかったことにして。記憶だけじゃない、命もよ」
ユウ中に、かつての絆が蘇る。
リリスだけは、最後まで…彼を信じていた。
諦めかけた時、いつもリリスが……。
「……チッ、面倒くせぇな」
ユウは虚無の魔法を止めた。
だが、王国はすでに崩壊寸前だった。
魔物の群れが王都に迫っていたのだ。
「結局、俺がいないとダメなんだな」
ユウは再び剣を手に取った。
「最後にもう一度だけ、助けてやるよ。俺の存在を、ちゃんと認めるならな」
ユウは魔物の群れを一人で殲滅した。
その姿を見た民衆は、救国のヒーローの存在を思い出した。
「英雄ユウが帰ってきた!」
「すまなかった。どうか、これからも…我が国を救ってくれ」
王は民衆の前で土下座をし、ユウに謝罪した。
固唾をのんで見守る、王族、貴族、平民の、目、目、目、目……。
ユウは言う。
「俺はもう…英雄なんかじゃない。ただの復讐者だ」
リリスがそっと手を握った。
「あなたは、私たちの…ううん、私の希望。それだけは、変わらないわ」
後にユウは虚無の魔法を封印し、王国を再建する事になる。
彼の名は、歴史に刻まれることはなかった。
だが、彼を知る者の心には、確かに…残ったのだ。
「ありがたく受け止めやがれ、俺の恨みと…俺の愛をな」
世界を救った男の、怒りと優しさが。




