注文したピザがやっと届いたと思ってドアを開けたら異世界でした、いきなり魔王になれと言われても腹が減っているので断固拒否します、早く俺にマルゲリータを食わせろください
俺、玉木勝、15歳。
中間考査最終日、脳みそをフル回転させた代償に、腹はペコペコ。
家に帰ると、テーブルの上に3000円とピザのメニュー、そして母ちゃんのメモ。
「テスト乙!これでご飯食べてね!」
手抜きかよ!と思いつつ、俺は大好物のマルゲリータを注文。
待つこと、45分。
──ピンポーン!
「キターーーッ!!」
ドアを開けると、そこにはウサギ耳の銀髪少女が立っていた。
「どーもー!魔王様、お迎えに上がりましたー!」
……は?
気づけば、俺は異世界にいた。
ウサ耳少女──名をリリィと言う──は、俺を「転生した魔王様」と呼び、民衆は「救世主」として歓迎している。
「魔王様、まずは玉座へ!」
「いや、俺はピザを食いたいんだが」
「ピザ……?それは魔法の秘宝でしょうか?」
違う。
違うんだよリリィ。
俺はただ…、マルゲリータを食いたいだけなんだ!!
なにを隠そうこの世界、トマトもチーズも存在しない。
代わりに「火竜の涙」とか「月羊の乳」とか、ファンタジー食材ばかりでさあ。
「魔王様、まずは魔王軍の再編を──」
「断る!俺は、俺は…腹が減ってるんだ!」
俺は決意した。
魔王になんてなりたくない。
でも、ピザを食うためなら──魔王の力、使ってやる!
「リリィ、魔王ってどんな魔法が使えるんだ?」
「世界改変、物質創造、時空操作などです!」
「よし、マルゲリータを創造する!」
俺は魔王の力を解放し、脳内のピザの記憶を頼りに、トマト、チーズ、バジル、そしてもちもちの生地を召喚した。
──ドォン!
目の前に現れたのは、湯気を立てる完璧なマルゲリータ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
「う、うまい……!」
一口かじったその瞬間、思わず感嘆の言葉が…おや、これは涙?
頬を伝う、温かいものが!!
とろけるチーズ、甘酸っぱいトマト、香るバジル──完璧だ。
異世界で初めてのマルゲリータは、俺の魂を震わせた。
リリィが目を丸くして声をあげた。
「これが……ピザ……!なんて神々しい料理……!」
周囲の兵士たちも、民衆も、魔族も、みんなピザに群がってくる。
俺は魔王の力で次々とマルゲリータを創造し、配りまくった。
「魔王様、我らはあなたに忠誠を誓います!ピザのために!」
「いや、俺はただ腹が減ってただけなんだが……」
その日、異世界に「ピザの神」と呼ばれる新たな伝説が生まれた。
──俺は、魔王城の厨房を改造して、ピザ専門店「マルゲリータ玉木」を開業した。
種族の壁を越え、みんながピザを囲んで笑い合う世界になった。
いつしか、長く続いていた戦争も収束していてだな。
「……って、これ、異世界転移モノで合ってるよな?」
俺は今日も焼きたてのマルゲリータを頬張りながら、異世界の空を見上げ…しみじみ思うのだ。
──ピザは、世界を救う。




