結局最後は大団円…って誰が決めた!ミリで恨んだ出来事、きっちりお返しさせていただくぜ!クリア後の世界でなあなあになった出来事を、究極A型人間の俺(勇者)が…几帳面に回収していく!
魔王を、倒した。
世界は…救われた。
王都は祝祭に包まれ、民は踊り、王様は俺に「英雄勲章」とかいう金メッキのメダルをくれた。
仲間たちはそれぞれの故郷へ戻り、王国は新たな時代へと歩み出した。
ハッピーエンドで無事終了。
悪は滅んで、みんなは救われました…ってね。
……でもな。
俺、納得してない。
「色々あったけど、結局最後は大団円…って、誰が決めた?」
俺の名前はリク=アマノ。
異世界に召喚された勇者であり、究極のA型人間。
几帳面にして記録魔である俺は、魔王討伐の旅の間、すべてを記録していた。
俺が肌身離さず持ち歩いている革張りの分厚いノートは、旅の記録帳だ。
中には、戦闘記録、物資使用履歴、借した物の覚え書き、売った恩、かけられた迷惑、その他もろもろ…、未精算項目一覧が書かれている。
・干し肉を分けてやった村人(代金未払い)
・薬草を提供した薬師(代金未払い)
・借りたタオル
・もらった泥水
・治癒魔法をかけてやった神官(代金未払い)
・相談に乗った村娘(手間賃未払い)
・宣伝してやった商人(広告料未払い)
・貸してもらった塩コショウ
・開けてもらった罠付きの宝箱
・道案内を途中で放棄した少年(過払い分未徴収)
・目の前で売り切れたAランチを譲ってもらった件
・宿屋で勝手に靴をはかれた件(迷惑料未払い)
・仲間の装備を手入れした件(労働費未払い)
・王都の門番に世間話をしたら長時間かかった件(時間拘束代金未払い)
・お茶代、会話代、その他色々……
「全部、請求する。全て、支払う。きっちり、几帳面にな」
俺は、王都の広場に立ち、巻物を広げた。
「魔王討伐にかかった経費、総額——1,283,472ゴルダ。内訳は、こちらの通りだ!! びた一文まけられない! 名前があるものは、速やかに支払うように!!」
民衆はざわついた。
「え、勇者様って、そんな細かかったの?」
「ていうか、笑顔の手間賃って何!?」
「そんなに金に困ってんのか……」
俺は言った。
「俺は、世界を救った。だからこそ、世界に“けじめ”をつける!」
英雄譚の裏には、無数の小さな犠牲がある。
誰かが差し出した干し肉、誰かが貸してくれた毛布、誰かが放った魔法、ダンジョンで飛び交った励ましの言葉。
それらを「感謝」で済ませるのは簡単だ。
だが、俺は、それを“記録”し、“精算”すると決めている。
「なあなあで済まされた“ミリ単位の恨み”、全部回収してやっからな!」
騒ぎを聞きつけ、王宮から飛んできた王様は、俺の巻物を見て顔を引きつらせた。
「勇者よ、これは……冗談か?」
「冗談だったら、こんなに細かく利息計算しない」
巻物には、各項目に対して年利5%で計算された利息が記されている。
干し肉三つ:36ゴルダ → 利息込みで42ゴルダ
薬草五束:75ゴルダ → 利息込みで86.25ゴルダ
治癒魔法:無償提供 → 感謝金として20ゴルダ(感情的価値換算)……
「俺は、世界を救った。だからこそ、世界に“誠実”でありたい…それだけだ」
王様は苦笑した。
「そなたは……変わらぬな」
「変わらないさ、身体の中に流れる血が入れ替わらない限り。俺は究極のA型人間だからな」
俺は、記録帳を手に、最初の目的地へ向かった。
エルナ村。
俺が異世界に召喚されて最初に降り立った場所であり、魔王討伐の旅の始まりでもあった。
そして今、俺の“請求の旅”の第一歩を踏み出す場所でもある。
この村で、俺は最初の仲間と出会い、最初のモンスターにビビり、そして——干し肉をツケにしてもらった。
あのときの俺は、右も左もわからない異世界初心者で、勇者としての自覚もなく、財布も空っぽだった。
腹が減ってどうしようもなくなり、雑貨屋の親父に泣きついたのだ。
「今度、魔王倒したら返すから!」
その言葉を、俺は記録帳にしっかりと書き残していた。
そして今——魔王を倒した俺は、約束を果たしに来たのだ。
村の空気は、以前と変わっていた。
魔王の脅威が去ったことで、畑には緑が戻り、子供たちの笑い声が響いている。
だが、俺の目的は“感動の再会”ではない。
「親父さん、約束通り来たぜ。干し肉三つ分、返しにな」
雑貨屋の親父は、俺の顔を見て目を丸くした。
「お、おお……勇者様!まさか本当に戻ってくるとは……」
「当然だ。俺は几帳面だからな」
俺は、巻物を広げて説明を始めた。
「干し肉三つ、当時の相場で一つ12ゴルダ。合計36ゴルダ。さらに、三年の利息を年5%で計算して——合計41.58ゴルダ。端数切り上げで42ゴルダ。はい、どうぞ」
親父は震えながら金貨を受け取った。
「……あんた、ほんとに律儀だな」
「当然だ。領収書を頼む」
「りょ、領収書!?」
「記録に残さないと、俺の心が安定しない」
親父は慌てて紙を取り出し、震える手で書き記した。
「干し肉三つ分、代金受領しました……っと」
俺は満足げにうなずいた。
「よし、次は薬草の代金だな」
領収書を封筒にしまい込んだ俺は、次の目的地へ向かった。
旅の途中、何度も助けてもらった村はずれに住む薬師の老婆——ミレーヌのもとへ。
「ミリ単位の恩でも、キッチリ返す。それが俺の、アフター勇者道だ!」
魔の森の入り口近くにある、粗末な小屋。
そこに住む、薬師の老婆——ミレーヌ。
旅の途中、何度も彼女の薬草に助けられた。
だが、代金は払っていない。
ひよっこから金が取れるかと言われて、受け取ってもらえなかったのだ。
「ミレーヌ、薬草五束分の精算に来たぞ」
俺の顔を見るなり、曲がった腰を少しのばしてヨタヨタと近付いてきた老婆は、顔をくしゃくしゃにして笑った。
「まあまあ…、勇者様。そんなこと気にしなくていいのに!」
「気にするさ。俺は、究極のA型だからな」
俺は巻物を広げて説明を始めた。
老眼鏡をかけたミレーヌが、遠慮がちに覗き込んでいる。
「薬草五束、当時の相場で一束15ゴルダ。合計75ゴルダ。三年の利息込みで86.25ゴルダ。端数切り上げで87ゴルダ。はい」
ミレーヌは、金貨を受け取らず…、俺の手をそっと握った。
「あなたが生きて戻ってきてくれた。それだけで、十分なのよ」
「……でも、俺は払いたい」
「じゃあ、こうしましょう。その金貨は、村の診療所の建設費に使わせてもらうわ」
「それなら…、まあ」
領収書には「薬草代金、診療所建設費として受領」と記された。
つぎに俺が向かったのは、村の共同井戸。
以前と変わらぬ賑わいで、村人たちが水を汲んでいる。
「井戸が枯れた時に水魔法で満たした手間賃をもらいに来た! 一人あたり5ゴルダ…キッチリ耳をそろえて払ってもらうぞ!!」
洗濯中の村人たちがやってきて、代わる代わる俺の手を握る。
「それだけでいいの?!」
「濁った水が透き通った水になって本当に感謝してる、もっと払わせて!」
「おいしい水が飲めるようになったの、ありがと」
「えっとね、この村すごく出生率が上がったから…1000人分渡すわね?!」
「いつか渡そうとためておったのじゃ、キッチリ持っていくがええ」
乳児ばかり、1000人も増えたのだろうか。
謎は多少残るが…、まあ、いい。
請求書には「井戸水の補充代金」と記しておいた。
次に向かったのは、レンギャという町の広場。
そこに、かつて道案内をしてくれた少年——トムがいる。
「トム、道案内の謝礼を渡しに来たぞ!」
「えっ!?そんなのいらないよ!」
「いや、いる。俺の心が落ち着かない」
俺は、巻物を広げて説明を始めた。
「道案内一回につき、謝礼5ゴルダ。利息込みで5.75ゴルダ。端数切り上げで6ゴルダ。それを13回分…はい」
トムは、金貨を受け取らず、押し返してきた。
俺は、その手を握って無理やり金貨をねじ込んだ。
「……ありがとう、勇者様。じゃあ…、僕はこのお金で、旅に出る事にするよ」
「そうか。なら、旅の安全を祈ろう」
俺は、記録帳に「謝礼支払い済。用途:旅費」と記した。
海を越えて帝国に向かう前に、ダンジョン化した遺跡に向かった。
相も変わらず、一獲千金を夢見る冒険者たちでにぎわっている。
「ベンジャミン!スーラ!ミナゲート!ザック!タバサ!ハイランド!ビー!ヘルク!常闇の翼!ハレルヤ!剣星の一太刀!じいさんズ!ももっぽよ!鵺の叫び!ユキオ!マリアンヌ!シェーキーズ!いるなら…出て来い!!今すぐ、癒した手間賃・助けた労働報酬その他もろもろ…払ってもらうぞ!!!」
満身創痍の冒険者、討伐に向かう直前で準備万端のチーム…相手の都合など知ったこっちゃない。
俺はキッチリ代金を請求して回った。
遺跡の中で風前の灯火だったやつらもいたが、フル回復させてから追加料金も併せて請求してやった。見かけない奴に関しては…いずれ見つけた時に払ってもらうしかないな。
「た、助かった…!!!」
「ユキオ、ユキオが息を吹き返した!!」
「有り金全部持ってって!!」
「老い先短い身じゃ、わしの財産をもらってはくれんか」
「余計な金をもらったら…なんかあった時に駆け付けなきゃいけなくなるだろ?!いらねーよ!!てめえの金は手前で使い切れ!乙!!!」
「そんなー!」
請求書をキッチリ握らせ、俺は未払いのやつらを探すべく、次の土地へと向かった。
一つ一つ丁寧に回収と支払いをしていった結果、無事“未精算項目”はすべて回収された。
俺の心は、少しだけ軽くなった。
だが、旅はまだ終わらない。
次なる目的地は、グランフィルド。
かつての仲間たちが暮らす街。
そして、俺が“感情の借り”を最も多く残した場所でもある。
「ミリ単位の恨みは、ミリ単位で返す。それが俺の、アフター勇者道だ!」
グランフィルドは王都から遠く離れた地で、魔王討伐の旅の中盤で拠点にしていた街だ。
今では、かつての仲間たちがそれぞれの役割を担いながら暮らしている。
魔法使いリゼ、盗賊カイル、神官エリナ。
俺にとって戦友であり——、請求対象でもある。
俺は、記録帳を開いた。
この街には、未精算項目が三つある。
・リゼ:魔法の補助を受けた際の魔力供給手数料
・カイル:道具袋の貸し出しに対する使用料
・エリナ:治癒魔法の施術に対する感謝金(未払い)
「友情と金は別だ。俺は、几帳面だからな」
まず向かったのは、街の魔術研究所。
リゼは、魔王討伐後も研究者として魔法理論の発展に貢献している。
俺が扉を叩くと、すぐに彼女が顔を出した。
「リク!?生きてたの!?ていうか、何、その巻物……」
俺は巻物を広げた。
「魔力供給手数料、当時の相場で1回につき3ゴルダ。計17回で51ゴルダ。利息込みで56ゴルダ。払ってくれ」
リゼは絶句した。
「……あんた、マジでそれ全部記録してたの?」
「当然だ。俺は、究極A型だからな」
彼女は笑いながら、財布を取り出した。
「はいはい、払うよ。でもさ、あんたが魔王に突っ込んでいったとき、私がどれだけ心配したか知ってる? 請求していい?」
俺は言葉に詰まった。
「……それは、記録してなかった。いくら払えばいい?」
リゼは微笑んだ。
「チャラにしといてあげる。わざわざ訪ねて来てくれたから、手間賃ね!」
金かを支払い、請求書を受け取ったリゼの表情が、ふと真顔になった。
「……リク。あんた、あの戦いのあと、誰にも連絡しなかったよね。私たち、ずっと心配してたんだよ。“あの几帳面な男が、何も言わずに消えるなんて”って」
俺は、巻物を閉じた。
「……精算のことしか考えられなくなった。俺は…みみっちいからな。小銭がもらえるのに放っておくことはできなかったのさ。自慢の仲間を…そんなことにつき合わせるわけにはいかない」
リゼは、少しだけ寂しそうに笑った。
「バカだね。でも、らしいとは思うよ」
次に訪れたのは、街の防具店。
カイルは盗賊から商人に転身し、道具屋を営んでいた。
俺が店に入ると、こぎれいになったカイルが爆笑している。
「おいおい、勇者様が金の請求に来たってか? 世も末だな!」
俺は巻物を広げる。
「道具袋の使用料、1日1ゴルダで計42日。利息込みで48ゴルダ」
カイルは笑いながら払った。
「でもよ、あの袋に入ってた干し肉、半分食ったのお前だろ?」
「……それは、記録してない」
「じゃあ、チャラだな!」
「いや、キッチリ払ってもらうぞ」
びた一文まけようとしない俺に額面通りの金貨を渡しながら、真剣な顔になる、カイル。
「リク。お前がいなかったら、俺は今頃、魔王の城で死んでた。だから…、金なんてホントはどうでもいい。お前が生きてるってだけで、十分だ。ありがとよ、会いに来てくれて。これからも…いつでも来いよな」
俺は、言葉を返せなかった。
記録帳には書けない“感情の借り”が、確かにそこにあった。
最後に訪れたのは、街の教会。
エリナは、神官として人々の心を癒し続けている。
俺が礼拝堂に入ると、彼女は静かに微笑んだ。
「リク。あなたが来るのを、なんとなく予感していたわ」
「治癒魔法の感謝金、支払いに来たぞ」
俺は巻物を広げる。
「施術回数12回、感謝金1回につき2ゴルダ。合計24ゴルダ。利息込みで27ゴルダ、それから…」
エリナは金貨を受け取らず、俺の手をそっと握った。
「リク。あの旅の間、あなたが一度も泣かなかったこと、私…ずっと気になってた」
「泣く暇があるなら、恩を売っておきたいと思ってたからな」
「今は…、泣いても、いいんだよ?」
俺は、巻物を握りしめた。
請求の旅は、俺の“未払いの感情”を回収する旅でもあったのかもしれない。
リゼの心配、カイルの笑い、エリナの祈り——それらは、記録できない。
でも、確かに俺の中に残っている。
夜、宿屋の部屋で記録帳を開いた。
そこには、精算済みの項目が並んでいた。
俺は、ページの隅に、新たな欄を作った。
「未記録感情」
・リゼ:心配してくれた時間
・カイル:命を預けてくれた信頼
・エリナ:泣いていいと言ってくれた優しさ
俺は、“記録”した。
金では測れない、感情。
でも、俺の旅には必要な項目だ。
「……次は、王様だな。勲章だけで済ませようとしたツケ、払ってもらうぜ」
記録帳を閉じた俺は、王都へ向かうことを決めた。
最後の請求先。
俺の“けじめ”をつける場所だ。
王都に戻る道は、かつての旅路と同じだ。
けれど…、景色はずいぶん違って見えた。
魔王の脅威が去った今、畑には緑が戻り、村人たちは笑い、子供たちは剣を振って遊んでいる。
俺が救った、世界。
でも、俺はまだ“終わっていない”。
王都の門をくぐると、兵士たちが敬礼した。
「勇者リク殿、お戻りです!」
「王が謁見の間でお待ちです!」
俺は無言でうなずき、記録帳を胸に抱えて前に進んだ。
王城の階段を上り、玉座の間へ。
そこには、俺に勲章を渡した王が、変わらぬ笑顔で座っていた。
「勇者よ、よくぞ戻った。世界は平和になった。そなたの功績は永遠に語り継がれるであろう」
俺は巻物を広げた。
「では、請求させてもらいます」
王の顔が引きつる。
「……請求?」
「魔王討伐にかかった経費、総額1,283,472ゴルダ。そのうち、王国が負担すべき分は——軍事支援、物資供給、情報提供の遅延による損害含めて、812,000ゴルダ」
「そ、そんな金額……!」
王の横に控えている宰相が顔色を悪くしている。
「払えないなら、“未払い”と記すだけだ。俺は、記録に残すことが目的だからな」
王は震える手で領収書にサインをした。
「勇者リク、そなたは……なぜ、そこまで几帳面に?」
俺は答えた。
「俺は、世界を救った。だからこそ、世界に“けじめ”をつけたかった。なあなあで済まされる感謝も、努力も、犠牲も——全部、記録して、残したかったのさ」
王は静かにうなずいた。
「その几帳面さで、世界を救ったのだな」
「違う。俺の“性分”だ。世界を救ったのは、俺だけじゃない。干し肉をくれた村人、薬草をくれた老婆、道案内してくれた少年、魔法を使ってくれたリゼ、袋を貸してくれたカイル、癒してくれたエリナ——彼らの支えがあったから、俺は剣を振るえたに過ぎない」
王は立ち上がり、俺の前に歩み寄った。
「ならば、我らも記録しよう。この国の歴史に、“勇者リクの請求帳”を刻む」
俺は、少しだけ笑った。
「それは……恥ずかしいな」
王は巻物を受け取り、玉座の横に置いた。
「この国は、そなたの几帳面さに救われた。だからこそ、我らも“誠実”であらねばならぬ」
俺の請求が、すべて終わった。
その夜、王都の宿屋で記録帳を開き、最後のページに、記した。
「世界は、なあなあでは回らない。誰かが細部を拾い集めなければ、真の平和は訪れない。俺は、拾い屋だったに過ぎない。そして、今日でその役目を終える」
処理済みの印が押された記録帳を、そっと閉じ……。
翌朝、俺は王都を出た。
今度は、請求ではなく——記録の旅。
世界の“その後”を見届けるために。
かつての仲間たちが築いた街。
村人たちが再建した村。
魔王の残した遺跡。
すべてを、几帳面に記録していく。
俺の旅は、まだまだ続くのだ。
誰よりも細かく、誰よりも誠実に、世界と向き合うために。




