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大腸癌に対する抗がん剤の種類はたくさんあるが、残念ながら癌を消し去るほどの優れた薬剤は、まだ開発されていない。よって、少しでも腫瘍を小さくしたり、発育を抑えることが抗がん剤治療の目標となる。治療期間に関して言えば、基本的には効果がある間はずっと投与を継続する。そして効果が乏しくなってくれば別の薬剤に切り替え、またそれが効かなくなるまで投与を継続するのだ。
彼女のように全身に転移を認める大腸癌患者に対して抗がん剤治療を行なった場合、平均の生存期間は約二年と言われている。つまり、どれだけ抗がん剤治療を頑張ったとしても、約半数の患者は二年以内に亡くなってしまう。
たとえ残されている時間が決して長くないと分かっていても、少しでも自分らしく有意義に生きるために、癌患者は葛藤や副作用とたたかいながら抗がん剤治療を受け続けるのだ。
彼女に投与する抗がん剤は、大腸がんに対して一番効果が強く、なおかつ比較的副作用がきつくないものを選択した。二週間に一度、六時間かけて点滴で投与する。他にもいくつか選択肢はあったが、髪の毛が抜けるのはできるだけ避けたいという彼女の希望を尊重しての結果だった。
二週に一度、僕の外来に受診してもらい簡単な診察と血液検査を行う。その結果に大きな問題が無いことを確認した上で、その日の抗がん剤治療を開始する。
治療を開始してから現在まで、幸いにも大きな副作用は出ること無く経過していた。
本日は三回目の治療日だった。彼女をマイクで診察室に呼び入れる。
「受付番号1209番、1209番でお待ちの患者様。外科六番診察室にお入りください」
個人情報の観点から、患者を本名で診察室に呼び入れるのは望ましくないという風潮が拡がりつつあり、今年度からは当院でも受付番号で呼ぶようにしている。
コンコンとノックをして彼女が入ってくる。
「おはようございま〜す。あ先生、髪切ってる〜」
「うん、先週にね」
この年にもなると、髪を切ったことをわざわざ指摘してくるような人間は周りにほとんどいなかったので、こういったところで逐一、彼女の若さを痛感する。
「おはよう、坂木さん。調子の方はどうかな?」
「うん、やっぱり抗がん剤をうった次の日から一週間くらいはムカムカして食欲も落ちるけど、その後は普通だよ。もらってる吐き気止めもほとんど飲んでないし」
「そう。熱はでてない? ほかに副作用は?」
「大丈夫! 病院に来る日以外は、毎日仕事にも行ってるよ。仲のいい友達には全部伝えたし。人工肛門を見せたら、さすがに少し引いてたけどね」
アハハと笑いながら彼女がそう言うのを、うなずきながら聞いた。
「血液の検査でも大きな異常は無かったし、今日も予定通り抗がん剤治療をしましょう」
「了解です。あ〜あ、今からまた六時間の点滴かあ。がんばりまーす」
白くて細い右腕を上にスッとあげながら、彼女がそうこぼす。
「うん頑張って。終わったらまた診察室に戻ってきてください」
「うわっ、ひとごとだねえ。先生も一回癌になって、抗がん剤治療を受けてみたらいいのに」
そんな縁起でもない事を、と思ったがそれを彼女に言うのも違う気がしたので、ハハっと笑って流すことにした。
彼女は、にししと笑うとまた後でね〜と、診察室を出ていった。
「可愛らしい子ですね。先生にすごく懐いている」
僕に付いてくれている外来看護師の藤村さんが、そっとそう言った。年齢も経験年数も僕よりもずっと上で、医療現場の酸いも甘いも知り尽くしている大ベテランだ。
「そうですね、とても素直な子なので僕も助かっています」
「でも、まだお若いのに可哀想。先生の見立てでは後どれくらい元気で過ごせそうですか?」
「今の抗がん剤がどれだけ効いてくれるかにもよりますが::、長くても二、三年。進行が早ければ一年以内かもしれません::」
そう言いながら、改めて自分の言葉の意味を反芻する。
――どんなに抗がん剤が効いたとしても、彼女が三十歳を迎えられる可能性は、ほぼゼロだろう。今は元気でもいつかは必ず、癌に体力を奪われ最期を迎える時が来る。
そしてその瞬間に彼女を看取ることになるのは、おそらく僕::。
「名東先生?」
「はい?」
名前を呼ばれ、我に返る。
「あの子のつらい闘病に対する一番の励みは、きっと先生だと思います」
じっと僕の目を見て、藤村さんはそう言った。真剣な表情で。
「いや、そんなことは::」
僕は思わず目をそらしてしまった。
「いえ、きっとそうですよ。そんな事は、彼女の先生を見る目を見ればすぐに分かります。それに気づけないなんて、先生もまだまだね」
再び彼女と目を合わすと、昔の漫画に出てきそうな、わざとらしい特大のウインクをひとつくれた。今日もアイシャドウがばっちりだ。苦笑いをお返ししておく。
「どうか、彼女に寄り添ってあげてね」
「はい」
「でもいくら彼女がべっぴんさんだからって、手を出してはあきませんよ」
「分かってますよ:::」
オホホホと豪快に笑うと、藤村さんは待合室にいる新患に問診を取りに行った。
――べっぴんさんか::。
たしかに彼女が、実はとても魅力的な女性であるという事は以前から分かっていた。長いまつ毛を伴った二重瞼の大きな瞳は少し垂れていて、それが彼女の柔和な人柄を端的に表わしていた。鼻は日本人らしく少し低めで丸みを帯びており、本人にとってはコンプレックスに得るのかもしれないが、彼女の可愛らしさを引き立てるのに十分な役割を果たしていた。
そしてなにより、彼女の一番の魅力は笑顔にあった。
笑うときれいな白い歯がこぼれ、大きな目がさらにフニッと垂れる。その笑顔は極めて自然で、周りにいる人間まで笑顔にしてしまうような不思議な効果があった。それは、笑おうと決めてから笑顔を作ることに慣れていた僕では、到底できない芸当だった。
とはいえ、僕が彼女をそういう目で見ることはありえないと思った。
結局いつもと同じように、昼休憩など取れるはずもなく外来はノンストップで午後四時過ぎまで続いた。この日の最後の患者は、抗がん剤治療を終えた彼女だった。
マイクで彼女の受付番号を言い終わる前に、ノックが二回鳴った。どうぞと中に呼びいれる。
「あ〜、お腹減ったよせんせ〜」
どかりと椅子に腰掛けながら彼女がわめいた。
「おつかれさま。どう? 今のところ変わったことはない?」
「副作用は全然大丈夫。ただただ、お腹が減ってやばいよ」
「あれ? 前回は点滴中に、お昼ご飯を食べたって言ってなかったっけ?」
「うん、前はね。でも、せっかく病院に来ているのに、昼食をコンビニのパンで終わらすのは勿体ないと思って」
せっかく病院に来ている、という言葉にすごく違和感を覚えた。
「で、いい事思いついたの。聞きたい?」
彼女がグイッとこちらに身を乗り出してくる。そのいい事とやらがどういったことなのか、何となく想像がついたので僕は先手を打つことにした。
「外来の日は、昼食は食べないことにしているんだ」
「ちょっと〜、なにこっちが言う前にシャットアウトしてんのよ! もうお腹減って死んじゃうよ〜」
分かりやすく子供のように足をバタバタしている。彼女の動きが止まるのを待って、こう続けた。
「じゃあ、コンビニでパンを買ってあげるよ」
「やだ〜! 地下の食堂に行きたいよ〜。先生おねがい、付き合って」
今度は彼女が両手を合わせて拝んできた。一挙手一投足がまるで漫画のようだ。
「病院内で医者が患者さんと一緒に食事をするなんて公私混同甚だしい行為は、禁じられております」
「うそだ〜! そんな法律ないじゃん!」
「医者の倫理感の問題だね」
「そんな倫理感は間違ってるよ! だってさ、例えば先生が六十年先のわたしにランチを誘われたとします。八十歳で抗がん剤治療を頑張っているおばあちゃんの誘いを、そのご立派な倫理感とやらで断るの?!」
――たしかに一理ある。相手がおばあちゃんなら、まあコーヒーぐらいは付き合うかもしれないな。
少しひるんだ僕に、彼女がたたみかけるように続ける。
「結局、先生はわたしが若くてかわいい女のコだから、周りの目を気にして断ってるんだよ! そんなの不公平だ! あんまりだ! このカッコつけ! わ〜ん!」
あまりにも白々しい泣き真似をはじめた彼女を見て、僕は困惑した。
助けを乞うように藤村さんを見る。その母親のように温かな眼差しは、付き合ってあげてもいいんじゃないのと言っていた。
「あ〜、もう分かった分かった。とりあえず一回静かにしてくれる?」
彼女はピタっと静かになると、これまた白々しく顔を覆っていた両手を、目の下までゆっくりと下げて上目遣いでじ〜と見てくる。
「食事は今日だけ付き合います。ただ地下の食堂は人目が多いし、ろくに話もできないだろうから却下。君の意見も一理あるとは思うけど、僕にも病院での立場ってものがあるからそこは理解して欲しい」
彼女の顔が分かりやすパァと明るくなる。
「理解するする! 食堂じゃなくてもいいです!」
「外来の業務を先に終わらせるから、一階のロビーで待っててくれる?」
「待つ待つ! いやったあ〜!」
彼女はそう言うと、勢いよく診察室を飛び出していった。
――おいおい、ここは病院なんだぞ。学校じゃないんだぞ。
本当に勘弁してほしいと思いながら、また藤村さんを見る。
「本当にかわいい子ね」
なぜだか、彼女まですごくうれしそうな様子だった。
思わず、ため息がこぼれる。
こんなに患者に振り回されるのは生まれて初めてかもしれないと思った。
結局、彼女の熱意に折れた形になったが、やっぱり医者が病院内で若年女性の患者と勤務時間中に食事をするのは、決して褒められたものではない。少しでも周りの目につかないように、僕は私服に着替えてロビーまで彼女を迎えに行き、コンビニで軽食を買って、病院のすぐ裏手に流れる鴨川の河川敷で食事をすることにした。彼女は嬉しそうにパンと麦茶を選び、自分用の弁当と一緒に僕が買った。結局パンを買うのかいと思ったが、いちいち指摘しなかった。
病院の中庭から鴨川の河川敷には連絡通路が設けられていて、今や院内全面禁煙となり行き場を失った愛煙家達が、追いやられるように肩身を狭くしてその一角でタバコを吸っていた。
僕はその喫煙スポットから少し離れたベンチに彼女を連れていき、腰を下ろした。ここなら病院関係者の人目につくこともないだろう。
初夏の風がさっと顔の横を通り抜け、少し遅れて鴨川のにおいが鼻をくすぐる。生臭いという人もいるけれど、僕はこの香りが好きだった。
「わ〜、こんな素敵な場所があるんだ〜。地下の食堂よりこっちのほうがずっといいよ!」
彼女は足をパタパタさせながら、いただきま〜すと、パンを頬張った。
「うん、学生の頃からここで川を見ながらぼ〜とするのが好きでね」
「あ、そうか。先生はこの大学出身だもんね」
「うん。鴨川を見ると気分が落ち着くんだ。このにおいをかぐと、副交感神経が働いて全身の力がスッと抜けていく気がする」
「え〜、川のにおいが好きなの? どっちかというと、少し、生臭くない?」
――やっぱり君もか。まあ、分かってくれとは言わないさ。
「あ、そうだ。川といえば先生、貴船って行ったことある?」
一つ目のパンを食べ終わり、入っていた袋を小さく四つ折りにたたみながら、彼女が聞いてきた。
「ああ、あの川床で有名な。医局の納涼会で一度だけ行ったことがあるな」
京都の鞍馬にある貴船では、雄大に流れる貴船川の上に『川床』と言われる座敷をおき、そこで絶景を楽しみながら食事をすることができる。外国人にも人気のある、非常に風情豊かな観光地ではあるのだが、僕が医局の納涼会で赴いたときは、総勢百人以上の大所帯での宴会がそこで開かれた。研修医や若い医者達が裸になって岩山に登ったり、川に飛び込んだりと好き放題してくれたおかげで風情もへったくれもなかった上に、医局自体がその料亭を出入り禁止になってしまったという悲しい過去があるため、貴船にはあまりいい思い出が無かった。
「わたし、行ってみたいんだよね〜」
あえてなのか、彼女が抑揚のない調子でそう言った。
「うん、それなら出町柳駅から叡山電車に乗ればすぐに行けるはずだよ」
「:::そんな事は分かってるよ」
呆れたようにそう返す彼女の方に視線を向けることなく、僕は続けた。
「じゃあ、気を付けていってらっしゃい」
返事が無かった。ゆっくりと彼女の方を見ると、予想通り僕をじっと見ている。
「先生、おねがい! 連れて行って!」
そう言った彼女は、まるでお御堂でお祈りをするかのように両手を組んでいる。
――おいおいおい。さすがにそれは駄目だろう。君は患者で僕は君の主治医。それ以上でもそれ以下でもない。医者が患者を大切に思わなければいけないのは当然だけど、必要以上に感情移入をしてしまうのは良くない事だと、医療の世界では昔から言われている。
僕は静かに首を横にふった。
「え〜。わたしとはデートできないってこと? 先生は彼女いないんだよね?」
「いないよ。ただそれが、僕が君と貴船に行く理由にはならないよね」
「先生は、そんなにわたしとデートするのがいやなの?」
「したいとか、したくないとかの問題ではない。そもそもそういう対象として僕が君を見ることは、あってはならないんだよ」
「言っていることの意味が全然分からないです」
能面のような無の表情で、彼女が静かにそう返してくる。 どうやら、一歩も引く気はないようだった。
僕は一息ついて座り直すと、彼女のほうに体を向けた。
「いいかい? 患者さんと医者が仲良くなりすぎるのは良くないことなんだよ。本当はこうやって、診察時間外でちょっとした交友をすることも望ましくない」
「なんで?」
なんでって?
たしかに::、なんでだろう。
「ほら、やっぱり患者さんと親しくなりすぎちゃうと、感情移入しちゃって適切な医療することが難しくなっちゃうだろう?」
我ながら苦しい返答だった。彼女は大きく深呼吸すると、再び口を開いた。
「じゃあ先生は自分の奥さんや子供が病気になったら、自分で治そうとせずに他の誰かに任せちゃうの?」
ぐう::。
なにも返せずにいると、彼女がさらにトーンを落として呟いた。
「わたしの今の抗がん剤治療っていつまでするのかな?」
このタイミングで君の病気の話? と思ったが、答えないわけにはいかなかった。
「効果がある間は、ずっとしていきたいと思ってるよ」
「ということは効果が無くなる時がいつかは来るってことだよね」
「それは人にもよるけど::」
「はっきり言ってほしいの」
彼女がじっと僕の顔を見る。瞳は心なしか少し潤んでいるように見えた。正直に話すしかなかった。
「いつかは効かなくなるときが来ると思う」
「その時は治療はどうなるの?」
「別の抗がん剤を始めることになると思う」
「それが効かなくなったら?」
「それは::::」
まだ別の抗がん剤が選択肢として残ってはいるが、後になるにつれて薬の効果は弱くなる。抗がん剤というものは、効果が強いものから順に使っていくのがセオリーだからだ。三番目や四番目の薬剤を使いだす頃には、体が副作用に耐えきれないくらいに体力が衰えている事も多く、その場合はあえて抗がん剤はもう使用せずに、癌と共存していくという方針を取ることもある。物は言いようで、癌の治療はもう諦めて後は病気が進行していくのをただ待つのみになると言えなくもない。
彼女は真剣な表情を崩さずこう言った。
「要するに、わたしに残されている治療は今の薬を除けば、あと一つか多くても二つってことよね」
本当に理解が早い::。僕は黙って頷いた。
「そっか::::」
「::::」
すぅ、と小さく息を吸うと彼女はささやくように続けた。
「今のお薬が続けられなくなった時、残りの寿命が半分になった気がして、わたしはきっと落ち込むと思うの」
「::うん」
「そして、もう次の新しい治療を頑張れないかもしれない」
「::うん」
「だから今の治療が駄目になったその時は、わたしのお願いをひとつ叶えて欲しいの::」
うんと頷く。ん?
彼女の顔を見る。真剣な面持ちはそのままに、潤んだ瞳はまっすぐに僕を見ている。
なんとか彼女のお願いとやらを断る方法をひねり出そうとしたが、良策が全く思いつかず、僕は最後苦し紛れにあがいてみることにした。
「そもそも、なんで君は僕と遊びに行きたいんだよ。君は若くて性格もいいし、もっとふさわしい人が周りにいっぱいいるだろう?」
自分の声が、知らず知らずのうちに上ずっていることに気付く。
彼女は瞳を閉じると、大きくため息をついた。そして意味ありげな泣き笑い顔をうかべながら、ゆっくりと口を開いた。
「あのね、先生。たしかにわたしは、若くて可愛いくて性格も良いかもしれないよ。でもそれだけじゃあ無いんだよ。体には大きな病気があって、二週間に一回抗がん剤の治療をうけていて、おなかには人工肛門もついているの。そんなわたしを受け止められる男性を、簡単に見つけ出せると思う?」
「::::」
川面に視線を落としたままなにも返事をしない僕に、彼女はさらに追い打ちをかけた。
「もし病気の事を隠して誰かと親しくなって、お互いに将来の事を考えるようになったとき、実はわたし、病気でもうすぐ死ぬかもしれないんですって言えばいいの?」
「::::」
「それだけじゃないよ。お付き合いして、いざ、そういう雰囲気になって服を脱ぐ場面になった時::、っていうかそもそもこれは先生が手術して造った:::」
「分かった分かった! もう分かったから」
彼女の言葉を遮って、僕は白旗を上げた。言っていることが正しいかどうかは別にして、何を言ったところでこの劣勢を巻き返せるとは思えなかった。
「今の治療が続けられなくなった時は、君を貴船に連れて行くことを約束するよ!」
彼女は、今までこわばっていた表情を崩して、ほんとう!?と歓喜の声をあげた。
「でもこれだけは約束してほしい。僕とどこかに行ったりすることは、絶対他人に言わないこと。このご時世、医者が患者さんと親密な関係になることをよく思わない人の方が圧倒的に多いんだ。僕が病院をクビになって、主治医が変わってしまったら君も困るだろ?」
「うんうん、それこそ治療を頑張れないよ」
こくこくと頷いている。
「本当に頼むよ。あと、きみと同じように病気とたたかっている人は他にも大勢いるんだ。だからさっきみたいに自分の体の事を卑下するのは良くない」
「そんなの分かってるも〜ん」
そう言いながら、ベーと舌を出している。
時計を見ると、もう午後六時前だった。これから外来の残り業務をして、入院患者の回診にいって、明日の手術の予習をしなければならない。
「僕はもういくよ。また二週間後ね」
「うん、楽しみにしてるね! あ、今度もお昼ご飯は勝手に一人で食べないようにね!」
「なんだよ勝手にって! ていうかそもそも昼食は食べないんだって!」
彼女に向かってそう言い捨てると、僕は早足で病院に向かった。お仕事がんばってねーとエールが飛んでくる。
なんで彼女は、そこまでして僕と遊びに行きたがるのだろうか。
全く理解が出来なかった。




