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街道筋(創作)

作者: 西端統宏

小学生の頃には町はもう寂れ始めていた。のちに「ファスト風土」なんて言われることになる、チェーン店の大型店舗が都心部の外れから郊外へ広がってるタイプのやつ。県内オンリーまたは周辺数県くらいの中小チェーンがそうした大型店舗を次々にかまえ、一時期は賑わったそうだけど、まあ良いことは長続きしないお国柄だからね。


僕が好きだった大型店舗の書店は2階がホビーセンターで、ゲームソフトやプラモを置いていた。当時大学生だったか、町在住のモデラーが作ったすごいジオラマなんかも飾られてたんだが、それも2年生の秋に閉店。営業最終日には店長さんが、子供だった僕にも握手して「今までありがとう」って。


その後書店跡は更地にもならず、太くもないチェーンが緊張感の無い立入禁止を訴えてるくらいのものだった。この周辺も家電店が社名何回か変わった後放置、ファミレスが閉店してその後が入らない、みたいなのばっかりになった。カー用品と紳士服が結構粘ってて、その2つはまだあるよ。


書店跡は時々、駐車場に大人が大勢詰めかけて演説会みたいなことをしていた。下校時にその演説してるのを眺めながら歩いてたから、あれ何だったんだろうか、平日の午後にあれだけ大人が集まってたわけだから、もしかしたらどこかの会社の行事みたいなもんだったのかな。

演説は同じ人じゃない、毎回声も喋り方も違っていた。何回かは、ここの地方の訛り方じゃない、明らかに違うんだけどテレビのアナウンサーみたいな標準語でもなければバラエティの芸人みたいな近畿のアクセントでもない、変わった喋り方の人だった覚えがある。似た訛りはここでしか聞いたことがない。


演説会をやってたのは親世代も覚えてる人がかなりいて、うちの親なんかだと営業で回ってたからあちこちで質問したりされたり。少なくとも地元の政治家が把握してる政治団体ではなかったらしく、かといって新興宗教でもない。演説会に潜入してみた人もいたらしいが、環境保全や政治改革みたいなことも言ってはいたけど主題ではなく、何だかわからないお話だったという。


話が気味悪くなるのはここからで、実は当時この書店跡を管理していた不動産会社に同級生が就職したんだが、古い帳簿を見てて偶然この演説会の利用料を見つけたと。場所はまさにあの書店跡で日時も僕たちの下校時と重なる。そして団体名は「―.」つまり書かれてない。格安ではあるから資金洗浄とか裏金とかでもなさそうなんだけど。

何度もあったはずの演説会だけど、見つかったのは1件だけ。もちろん保管年限はとうに過ぎてるから、もしかしたら処分忘れだったのかもしれない。


この同級生はこの話を教えてくれた次の月、失踪した。不動産会社の上司さんがうちまで来て、何か知らないかと尋ねられたんだけど、ああいう社外秘そうな話をしたのが最後と言うわけにも行かず、今月出るゲームを楽しみにしてて対戦の約束をしてたのだけ言って、連絡があったら情報共有することになった。


あの演説会は1回だけ、ホビーの店長さんが聴衆に混じってたのを見た覚えがある。僕と握手してくれた時は優しそうな顔だったが、演説を聞いてる顔は何の表情も無かった。声はかけなかった。その後は一度も見ていない。

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