Stage10-2 盗賊
「サイコブレイクッ!」
バレットは短剣を振り落とし、紫色と水色の混ざった球体は真っ二つになった。球体はバレットを避けるように空へと消えていった。
「神足!レザーテントッ!」
バレットは姿を消すほどの速さで襲い掛かる。直感でサイコキネシスを放つも、防御不能技で弾き返される。俺は僅かに傷を負ってしまった。
【神足】・・・【俊足】の更に上の加速技。選ばれた者にしか使いこなせない。【俊足】はアジリティアップのみだが、【神足】はアジリティ底上げに合わせた攻撃も可能。
【レザーテント】・・・武器をメタリック加工し、鋼の硬さを誇る攻撃技。攻撃力こそ高くないが、防御や回避を跳ね返す重さがある。
「どうしたぁ?その程度か。」
確かに強い。神足と言われるだけの実力はある。
「…流石ですよ。アジリティだけ見ればお手上げです…アジリティだけ見ればね。」
「いつまで生意気な事言ってられるかなッ!」
バレットは再び【神足】で襲い掛かってきた。それに合わせて後方に退くも、その間さえ埋めてしまう程の速度で距離を詰めてきた。
「アルミさんッ!」
「終わりだァッ!!!」
バレットの攻撃によって、俺の身体は真っ二つになり消え去った。
「…そんな…アルミさん…。」
「これが実力の差さ。前回はドジ踏んだが今回は圧勝だ。」
バレットは高らかに笑う。しかし、周囲が謎の霧に包まれ始めた。霧の隙間には小さな稲妻が走っている。
「…なんだこれは。」
白い霧は次第に赤みを帯び、船全体を囲むように渦巻く。
「お、おい!女!お前なんかしたのか!?」
「何もしてませんよ!」
バレットとさーたーが困惑していると、バレット目掛けて稲妻が落ちる。バレットは瞬時にかわすも、僅かに麻痺を受けてしまった。
「…今回は…何だって?」
「…お前…何者だ…。」
「誰?俺だよ…アルミだよ。」
アルミは派手な赤と白の巫女のような姿をしており、綺麗な白髪に赤い尻尾を揺らしていた。そう、彼は狐のような凛とした佇まいでバレットを見下ろしていた。
「…アルミ…さん?」
「…何なんだよその姿…このゲームでそんな姿になる奴見たことねぇよ!」
得体の知れない恐怖は、バレットの脳からは離れなかった。
「…天の花園。何者かが放った稲妻が落ちた。俺はそれを喰った。」
「…喰った…だと?」
「…無駄話が過ぎた…終わりにしようか。」
アルミはバレットにすら追えない速度で姿を消した。焦ったバレットは急いで神足で逃げ回る。
「…遅いな。」
気が付いた時には、赤い尻尾で薙ぎ払われていた。船外へ飛ばされ海に落ち掛けたバレットの背後にアルミが回り、そのまま尻尾で上へと薙ぎ払われた。空へ放たれたバレット目掛けて、アルミは宙に浮いた状態で銃口を向けるように指を構えた。
「バーンッ。」
アルミの指から赤い弾丸が放たれ、バレットの心臓を貫通した。ノイズ掛かったバレットは苦しむ間もなく姿を消した。
「…あれ?」
「アルミさんッ!」
アルミは元の姿へ戻るもそのまま海へ落下した。それを見ていたさーたーは海へ飛び込み、アルミの救出へと迎った。
「…ミ…ん……ルミさ……アルミさんッ!」
さーたーの声で俺は意識を取り戻した。
俺もさーたーも全身が濡れた状態…。
「…ケダモノッ!」
「違うわよっ!」
冗談はさておき、俺は【紅と白夜】という能力を手に入れていた。この能力を手にした者は、狐の精霊を呼び覚ましてしまい、その狐の精霊が体内に憑依するらしい。全ては偶然が生み出した状況という事だ。
「じゃあさっきのが【紅と白夜】によって現れた狐なんですね。」
「そういうこと。まあ由来はキタギツネとアカギツネなんだろうけど、結構強いし見た目も悪くないんだよね。」
「…いや、むしろ強すぎなくらいですよ。」
しかし、【紅と白夜】の反動は大きく、数時間動けなくなってしまうのだ。
『ガタンッガタガタガタッ!』
突如船内から何者かの足音らしき音と何かが崩れ落ちるような音が響き渡った。
「何だ…?」
「…ちょっと私見てきますね。」
さーたーは慎重に船内の探索へと向かった。
さーたーが探索へ行って十五分程経過した頃、船内から爆発音が響き渡った。
「なんだなんだ!?」
船内の一部が炎に包まれ、その中から杖を持ったさーたーが舞い戻って来た。
「さーたー!何事だ!」
「侵入者です!」
すると、煙の中から二人の足音が近付いて来ていた。
その姿は徐々に見え、次第に太陽の光で顔が照らされた。
「…まくとぅ…メグミ。」
火災部分からは更に爆発音が響き、その中から特大の熱されたムカデが姿を表した。言葉では表せない程の奇声をあげ、二本の牙を動かしている。
「…ムカデはね強いの。熱さにだって負けない。あなた達のお宝は頂いた。」
「メグミは何もしてないけど、まくとぅさん凄い強いです!お兄ちゃん、覚悟してくださいね!」
俺は二人の言っている事がよく分からなかった。確かにお宝は魅力的だが、わざわざ盗む必要があったのだろうか。
「…なぁまくとぅ、メグミ。何故わざわざ盗んだ?状況が全く見えないんだが。」
「…そうです、一体何が目的ですか。このゲームでは、無駄な争いは不要なはずです。」
俺達の問いに二人は答えてはくれなかった。しかし、推測出来る事もある。先程出現したミッション、一つは復讐の鬼、バレットを倒せ。二つ目は船内の宝を守りきれと書かれていた。この時点で分かる事、それは既に何かしらのゲームが始まっているという事だ。
「…まくとぅとメグミが盗み…盗賊?…てことは、俺とさーたーは…。」
「…海賊という事ですか?」
謎多き状況ではあるが、困惑している時間はなかった。
奇声を上げた特大ムカデがこちらへ突進して来たのだ。
まくとぅとメグミは瞬時に回避し、さーたーも避けようとしたその時だった。
「アルミさんっ!動け…ま…す……か?」
「…それが…まだ動けないんだよねぇ。」
俺は冷や汗が止まらず、さーたーは顎が外れた。
次回もお楽しみに!




