Stage2-5 伊藤家奪還編 悲しみより愛を込めて
Stage2-4 三人家族の続編になります。
【新ミッション アイネ・エッジ・キールとの旅立ち】
何度も言うが、これはVRMMOの世界。
このようにミッション通知が来ないとつい忘れてしまうが、しっかりとゲームなのである。
それだけリアルな世界観を作り出しているのだから、相当な力の入れようだ。
まあ、クリアしないと出られないというのは既にクソゲー認定されているのだが。
「私を貴方の旅に同伴させてほしいの。」
明恵さんこと、アイネ・エッジ・キールさんは何を考えているのだろうか。
ほぼ初対面の俺に、何か運命的なものを感じたのであろうか。
いやいや、仮にも既婚者だ。正気を取り戻せ。
「三郎さんと恵ちゃんはどうするんですか?」
俺は冷静に質問を返した。
「恵は連れて行きます。私の子ですし、恐らく何か能力が出るかもしれないんです。でも、反対に三郎さんはただの人間なのよ。とてもじゃないけど、あんな未来では生きていけません。」
言っていることは確かに正しい。
三郎さんが未来で生きていくにはリスクしかない。
三郎さんと生を共にしたいのであれば、明恵さんと恵ちゃんはこの世界に残らなければいけない。
だが、恵ちゃんが能力を覚醒した時、この世界で生きていくことは困難になるだろう。
「…どうするつもりですか?」
「幻想魔法を掛けようと思っています。」
幻想魔法、相手や周囲の人に幻を見せる魔法。その魔法は、使用者のみが解除出来るというもの。
「三郎さんには幸せになって欲しいもの。伊藤明恵と恵の幻想を掛けて、これからも三人家族として生きてもらうわ。」
「でも、恵ちゃんの気持ちもあるじゃないですか。」
「…恵はきっとわかってくれます。」
彼女の切ない表情は、何故か月の光よりも美しかった。
面会時間が終わり、俺は病室から立ち去ろうとした。
「…アルミさん。私なんです、畑真由美を殺したの。」
「でしょうね。あの炎は、この世界のものではないです。」
「…尚更、もうここには居られませんよ。」
彼女は悲しみを押し殺して、苦笑いを浮かべていた。
あれから一週間が経った。
事件の結末としては、結局畑大貴の殺人と焼身自殺となったそうだ。
表上、伊藤一家は無罪という形で幕を閉じた。
俺と明恵さんのみが抱える真実は、恐らくこのまま墓まで持って行く事になるだろう。
一方、明恵さんは恵ちゃんと話をしたそうで、初めは恵ちゃんも泣いていたそうだが最後は納得してくれたとの事だ。
あれだけの事件があって、最後は父と離れなければいけない。
恵ちゃんにとっては、不幸の連鎖でしか無いだろう。
それにも関わらず、しっかりと我慢をしている辺りは三郎さん譲りだろうか。
「…恵、ごめんね。」
全ては明恵さんが引き起こしてしまった事には違いない。
未来人が過去で生きていくのは、理論上無理なのである。
……そして別れの日がやってきた。
「アルミさん、色々とありがとうございました。こうして妻と娘も帰ってきてくれて本当に良かったです。この御恩は一生忘れません。」
「こちらこそありがとうございました。お元気で。」
「良かったらこれ受け取って下さい。家にずっとあるんですけど、何に使うのか分からなくて。凄く透き通って綺麗なので良かったら受け取って下さい。」
そう言って、三郎さんから透き通った青色の笛のような物を受け取った。
三郎さんと熱い握手を交わした後、俺はその場から立ち去った。
明恵さんと恵ちゃんには声をかける必要がない。なぜなら既に、幻想魔法を掛けられているからだ。
この悲しい結末が本人にとって幸せなのか、果たして不幸なのかは分からない。
知らぬが仏という言葉を叩きつけているようにも感じるが、あの二人を失うと今度は三郎さんの命も危うくなってしまう。
しかし、家族を囲む三郎さんの表情は愛で溢れていた。
「…悲しみより愛を込めて。」
幸せなまま一生を終えてくれる事を願った。
俺は、伊藤宅からこの世界で始めて転移された空き地へと向かっていた。
初めに見た本屋も今では少し懐かしい。
変わらない事といえば、猛暑で蝉がうるさい事くらいだろう。
「缶蹴りやろうぜー!」と複数ではしゃぐ子供達も、汗でびしょびしょなのがわかる。
通り過ぎるサラリーマンのワイシャツも透けている。
途中野球部も走っていたが、こんな中で水分無しの部活をさせられたりしているのだと考えると、熱中症を心配するレベルだ。
「…何でゲームなのにこんな暑いんだよ。」
あぁ、ヤバい。等々独り言を言ってしまった。
「…アルミさん、遅いですよ。」
「もう!お寝坊!」
気付けば空き地に着いていた。
既に明恵さんと恵ちゃんが待機していた。
「…もう暑くて暑くて。というか何で二人は涼しそうなの?」
二人はニヤニヤと悪巧みをしているような表情をしていた。
「恵の魔法よね?」
「うん!」
なんと、恵ちゃんが魔法を使えるようになったらしい。
「へぇ、凄いね!ちなみにどんな魔法?」
「えっとねー、凍死魔法!」
それは死んじゃってるって。
「恵ったら、氷結魔法でしょ。」
「あ、そうだった。」
どんな間違え方なのだろう。
二人が三郎さんの元を離れたのは三日前。
今回の事件を気に、恵ちゃんは明恵さんと本当の自分について知る事となった。
それが原因なのか、恵ちゃんの髪は金髪へと変わったのだ。
明恵さんも黒染めしていただけで、本来は金髪なのだとか。
この金髪と黄緑色の服装を見ると、本当に未来人なんだと改めて感じた。
「明恵さん。次の未来に行かなきゃ行けないんだけど、転移魔法とか使える?」
「使えますよ。というか私がいなかったらどうしていたんですか…。それに私はもう明恵じゃなくて、アイネ・エッジ・キールです。」
「私はね!恵改め、メグミ・エッジ・キールなの!」
「面目ない…。じゃあ改めて、アイネさんとメグミちゃん、よろしくお願いします。」
二人は同じ表情で返事をした。
歯車を動かす為に、次に会わなければいけないのは【市村清子】と【ユウヤ】の二人だ。
今は一九八五年にいるが、この二人が西暦何年を生きているのか全く検討もつかない。
宛の無い時間旅行をしていたら、いつまでかかる事やら。
「その二人に会いたいなら、まずはこの一九八五年代時点で存在しているのか調べたら良いんじゃない?」
正論を言うアイネさんに頭が上がらない。
こんな無計画に進んでいる時点でゲームをやる資格がありませんでした。
「私に任せて!」
メグミちゃんが手を挙げて俺の目の前に駆け寄って来る。
「メグミちゃん、人探しの魔法もできるの?」
「誰の子だと思ってるのかしら?」
頭が上がらないパート2を繰り出した俺であった。
「【市村清子】と【ユウヤ】だね。んーと…サーチ!」
メグミちゃんは手を前に重ねて出し、目を閉じて魔法を唱えている。
「…この街にいる【市村清子】っていう名前は二人いるよ!でも…【ユウヤ】っていう人は…多すぎて分からないよぉ。」
「じゃあ、次は私。アナライシス!」
メグミちゃんに続いて、アイネさんが魔法を発動した。
メグミちゃんと同じポーズをしているが、何をしているのかは俺にはさっぱりだった。
「…なるほどね。」
何かが分かったように、アイネさんはこちらを向く。
「【市村清子】さんはね、一人はご高齢の方。何不自由なく、旦那さんと幸せに過ごしているわね。ただもう一人の【市村清子】さんは、現在高校二年生。まあ高校生らしい悩みはありそうだけど、特別変わった事は無さそうね。一先ず、同じ場所で十五年位転移してみましょうか。」
俺も何かできないかと久しぶりにステータスを確認した。
「…なんだ…これ。」
二人は「どうしたの?」と声を重ねて、俺の背後に立った。
「…俺、ソードハンターだったのに、謎の超能力しか使えなくなっている。」
【アルミ レベル三十 超能力者】
色々調べていたが、超能力者になる必須条件は不明だった。
この不明点が多い所、このゲームの難解な点でもあった事を思い出した。
超能力というだけで、何が使えるのかは全く分からない。
つまり、今の俺はお荷物同然という事は確かだ。
今思った事をそのままアイネさんに伝えた。
「…一先ず、行きましょうか。」
アイネさん…頭…上がりません…パート3。
メグミちゃんはただただ笑っていた。
「…転移!」
何も無い空き地に転移魔法陣が浮かんだ。
しかし、今回は魔法陣が二個ある。
一つは青の魔法陣、もう一つは赤の魔法陣だ。
「なんで魔法陣が二つあるんだ。」
「…こんなこと初めてですよ。もしかしたらアルミさんの言っていた歯車というのが、影響しているのかも。もしかすると、どちらに入るかで未来がかなり変わるのかも知れません。」
未来が変わる魔法陣。
どちらが正解かも分からない。
注意して選ぶ必要があるな。
アイネさんとメグミちゃんは俺の決断を待っている。
【青の魔法陣】は、海底の神殿にでもいるような神秘的な印象。触れると優しさを感じる。
【赤の魔法陣】は、火山地帯に足を踏み込んでしまったかのような印象。触れるとピリピリとした痛みを感じる。
俺は…。
『貴方はどちらの魔法陣を選びますか?
選択した魔法陣で次の話は大きく変わります。
慎重に選んで下さい。』
次回
Stage3-1【赤】???【青】???
※本編にも記載していた通りです。
貴方の進みたい魔法陣を選んで下さい。
次回からは選択した色の話を読み進めて見てください。
貴方の選んだ魔法陣が正解か不正解か、それを決めるのはあなた自身です。




