Stage9-4 新たな門出
優希のお陰で初佳は入院していると分かった。俺はすぐに病院へ駆け付けた。
受付の案内の元、俺は初佳の病室に辿り着いた。
病室前の名札には【若林初佳様】と書かれていた。
俺は戸をノックすると、中から「はーい」と声が聴こえた。「失礼します。」と中を覗くと初佳のお母さんが立っていた。
「あら、有海君じゃない!久しぶりね!」
「…ご無沙汰しています。初佳が入院したって聞いて。」
「そうなのよ…一昨日搬送されてずっと寝たきり。これがまた不思議な話なんだけどね…」
「寝たきりって意識戻ってないんですか?」
初佳のお母さんは頷き、ベッドを囲ったカーテンを開けた。そこには痩せこけて変わり果てた姿の初佳が眠っていた。
「何かのゲームをやっていたみたいなんだけど、このゴーグル外れなくて。結局そのまま搬送されたんだけど、身体的に異常は見つからなかったの。時々脳波に異常値が見られることはあるらしいんだけど、それも問題になるような事ではなくて。」
初佳のお母さんは、初佳がやっていたであろうゲームソフトのケースを渡してきた。
「嘘だろ…」
お母さんから受け取ったゲームのケース、それは【今世は幸せでありますように!】だった。このゲームの異常さを知っている俺だからこそ分かる。初佳は意識不明、という事はまだこのゲームの世界にいる可能性が高い。
「有海君、何か知ってるの?」
お母さんにどう説明しても到底理解し得ない内容の為、俺の知る内容は伏せる事とした。その代わり、このゲーム会社に色々問い合わせてみる事を約束した。
痩せこけた初佳と窶れたお母さんに見送られながら、俺は初佳を必ず助けると決心を固めた。
その日の夜、俺はこれまでの【今あり】について振り返った。
今思えば、スタートから不可解な点は多かった。
その上、物語の進行は早めで、キャラクターの死もかなり多い。
何より俺はあの世界から出られなかったが、何故あの後輩…前原和葉だけは普通に生還出来ているのか。
結局は運営のみぞ知る事なのかもしれない。
どちらにせよ本社に行った際、確認する必要がある。
嫌な予感を抱きながらも、俺は眠りについた。
翌日、結局あまり眠れなかった俺は寝不足状態だ。
当然、授業も全く頭に入らなかった。
大翔や彩香も心配して声をかけてくれたが、正直俺の脳内は【株式会社 パワフルV】と【若林初佳】で埋め尽くされていた。
申し訳ないと思いつつも、心許ない姿を露わにしていた。
全てが片付いたら謝罪すると今一度頭の隅に仕舞った。
そして放課後、俺は【株式会社パワフルV】へ急いだ。
電車に揺られ、本社が近付くと同時に鼓動が高鳴る。
数十分で電車は到着し、駅から降りて徒歩数分程の位置に本社のビルが建っている。
超高層ビルの壁は一面シルバーにコーティングされており、一番上の社長室らしき一角には橙色で大きく【V】という看板が付いている。【V】の下には、橙色で【U】のような半円形で囲っている看板も見える。
入口で待っていると受付嬢らしき人物が外へと出て来た。
「有海浩太様ですね。お待ちしておりました。どうぞこちらへ。」
流石は超大手ゲーム会社、お客様を待たせないという姿勢が見て取れる。
エレベーターに案内され、最上階は五十階と分かった。その五十階が社長室であろう。その一つ下の四十九階にエレベーターは昇っていった。それなりの速度で昇る為、慣れていない耳は少し変になった。
【株式会社パワフルV 四十九階】
エレベーターから降りるとそこはカジノ場のような雰囲気の空間だった。中央にはエアー抽選機があり、中にはカラーボールのような物が何個も回っていた。辺りをピンクやブルーのスポットライトが行き来しており、会場は盛大に盛り上がっていた。
「今回呼ばれたお客様は全員仮面を付けておりますが、プレイヤーの方々には素顔で来場して頂いております。あと二名来られますので、それまでご自由にお過ごしくださいませ。」
受付嬢は再びエレベーターへと戻って行った。
「ようこそ、有海様。お会い出来て光栄です。」
背後からの声掛けに驚き前を向くと、ディーラーの服装をした仮面の男が立っていた。
「…こちらこそ。お招き頂きありがとうございます。」
「奥の部屋で運営開発部の寺門様がお待ちですのでご案内致します。」
ディーラーに案内され、俺はカジノの奥の部屋へと向かった。
ディーラーがノックをすると「どうぞ」と中から聞こえる。
「有海様が来場されました。」
「ふむ、入りたまえ。」
その声とほぼ同時に俺は部屋に入った。
「これはこれは有海浩太君!待っていたよ!」
寺門に視線を向けると、そこには既に五人の男女が集まっていた。そこには見覚えのある面々も揃っていた。
「ユウキ!?それに仁さんまで!」
「先輩!?」
「お前…やっぱ来たか…」
「なんで二人がここに!?」
驚いて色々問い詰めようとしていると、残りの選ばれた二名が到着した。
「寺門様、残りの二名も到着致しました。」
「入りたまえ。」
そこに立っていたのは、沖田大翔と彩香だった。
「大翔!?それに彩香まで!?」
「さぁぁぁぁッ!ショータイムだぁッ!」
奇抜な演出に俺達選ばれた八名は取り込まれていった。
これから何が起こるのか、報酬とは何か。
僕達はまだ何も知らないのだ。
次回もお楽しみに!




