Stage8-26 最期の決断
「…ユウヤ?」
「…アルミ…もう辞めよう。」
「…無理だ…なんくるが…」
ユウヤは僕の刀を弾き、刀は足元に落ちた。
ユウヤも刀を置き、なんくるの胸に手を当てる。
「…な…ん…だ?暖か…い…のに…何か…重…たい。」
ユウヤの手からは、禍々しい黒い波動が浮かび上がる。そして、なんくるの胸の中へ黒い波動が送られ始め、なんくるは電気ショックをされてるかのように数秒に一回大きく跳ね上がる。
「…うぅ…うぅ…」
明らかに苦しそうにしている兄の姿に耐え切れず、まくとぅはユウヤの手を止めてしまった。
「…お願い…もうやめて…」
「…お前は助けたくないのか?」
「…助けたくても…苦しそうで…」
まくとぅはユウヤの腕を掴んだまま俯いて鼻を啜っていた。
「…ユウヤ…説明してくれ。なんくるに何が起こっている。」
「…まあ、シンプルに出血多量もあるだろうが、破傷風にもなってるんじゃないか?」
【破傷風】・・・破傷風とは破傷風菌によって、口が開けにくくなったり、飲み込みにくくなったりするなど神経の働きが悪くなる病気のこと。土の中や犬の体内、糞の中、錆びた物等にいる菌の事。傷口から侵入し、感染を引き起こす。筋肉のけいれんや麻痺を引き起こし、最悪の場合、死に至ることもある。
「一先ず、毒を抑えて細菌の増殖を止めなければならない。俺の手を止める暇があるなら、傷口の消毒と保護をしろ。」
まくとぅは涙を拭いて、昆虫に助けを求めた。
「聖なる寄生虫!!」
現れたのは数ミリの幅で細長い寄生虫のような虫だ。僅かにだが、薄い羽や足も生えている。その寄生虫はなんくるの傷口へと入っていった。
「聖なる寄生虫は、体内に寄生するだけで消毒や解毒を行い、傷口も塞ぐ程の力を持っている。膨大な魔力を使うから…あんまり…使えない…ん…だ……け…」
まくとぅは、その場に倒れ込んでしまった。
「…充分だ。」
ユウヤは再び黒い波動を送り始めた。
「これが抑制効果なのか?」
ユウヤは何も言わないが、ニヤリと微笑んだ。
治療が終わり、ユウヤは溜息を吐く。
「一先ず大丈夫だろう。だが…」
ユウヤは下界の扉を見つめる。
「…時間的にここから出られるのは俺ともう一人だけだ。なんくるは動けず、妹は気を失っている。さぁアルミ、最期の決断だ。これからどうする?」
「…どうするって。」
【なんくる達とこの場に留まる】
【なんくる達を見捨てる】
俺の目の前に二つの選択肢が出現した。
だが、俺には長考する時間は必要無かった。
【なんくる達とこの場に留まる】
「…正気か?次いつこの世界から出られるか分からないんだぞ?」
「…それでも仲間は見捨てない。ユウヤ、助けてくれた事本当に感謝してる。聞きたいことは山ほどあるけど、今は自分の命を大事にしてくれ。」
ユウヤは驚いた表情をしていたが、笑みを零しながらその場に座り込んだ。
「別に行く宛ては無いんだ。のんびりお前達と過ごす事にするよ。それに…こいつらの事もあるしな…。」
ユウヤは胸に手を当て、少し思い詰めた表情をしていた。
「…そういやライトの姿が見えないな。」
「…この戦の中、全員生き残る方が難しいと思うぞ。」
「…そうか。」
一瞬、静かな空気が流れた所で話題を変えた。
「…で、何でお前は生きている。しかし、そんな黒い格好にまでなって。」
「俺にも分からないんだ。気付いたらこの姿で…奴等と旅をして…。」
ユウヤは突然表情を変え、もがき苦しむように頭を抱えた。
「ユウヤ!?どうした!」
「…頭がッ!割れそうだッ!」
ユウヤは再び表情を変えた。目を見開いて、何かに驚いているかのような表情だ。
声を掛けても反応は無い。そして、静かに涙を流し始めた。その姿を見て俺は声を失った。
また新たな展開を迎えようとしている中、下界への扉は完全に閉じてしまった。
またいつの日か扉が開く日を待ち、それまでは天の花園で生きていかなければならない。
意識の戻らないなんくる、気を失っているまくとぅ、何かに苦しみ絶望の表情を見せるユウヤ…
俺はこの先一体どのような展開を迎えるのか等、まだ知る由もなかったのだ。
ボーッとしていると突如視界は真っ黒に染まった。
周囲を見渡していると、目の前には下から文字のようなものが昇っていた。
「…株式会社…パワフルV…」
そう、エンドロールであった。
俺はこの時、一度も死なずにこの世界をクリアする事が出来たのだ。
一人で喜ぶも束の間、最後の展開を思い出す。
明らかにこれで終わりでは辻褄も合わず、回収出来ていない事も多々あった。
エンドロールを見続けて十分程経過した時、運営開発部門 寺門 一茶と流れてきた。
その後、派遣部門 丸山 大樹と流れる。恐らくこの二人が、アレクとバレットなのだと感じた。
そして俺は、カナディアンロッキーでのアレクとの会話を思い出した。クリアすれば分かるというのはどういう事を意味するのか、謎が深まるばかりであった。
最後に企画考案件開発者 今宮 仁太と表示され、次第に文字は消えていった。
すると画面全体に登場キャラクター達が集結し、上にはコングラッチュレーションと映し出される。
その画面が消えると、中央に注意書きが表示された。
【※このゲームをクリアした者には特典を差し上げます。来るべき日まで大切に保管しておいてくださいね。本体のメール受信箱にURLを送付致します。ご確認よろしくお願いします。改めまして、この度はゲームクリア大変おめでとうございます!】
こうして画面は再び真っ黒になり、俺の意識も遠のいて言った。
皆様、ここまでご愛読ありがとうございました!
尚、最終会ではございませんのでご安心ください!
一区切りとして挨拶させて頂きます。
改めまして、【今世は幸せでありますように!】をよろしくお願いします!




