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今世は幸せでありますように!  作者: ゆる


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Stage8-24 共闘


【アスナ神殿】

ピラミッドのように積まれた大量の石材。濁った色素は歴史を感じさせる。そんな建物の中心には、奥深くに入れる入口があった。俺は何も考えず、神殿の中へと入っていった。

中はカビ臭く、苔も生えている。天井の隅には蜘蛛の巣が大量にある。壁掛け松明が辺りを灯すも、それは不気味さを倍増させていた。

ただひたすら前に進み続け、かなり奥深くまで進むと一つの扉が目の前に現れた。その扉は赤く、所々錆や傷が目立ち始めていた。俺はその扉をゆっくりと開いた。

鉄と石の摩擦音に鳥肌がたつも、通れる程の隙間が出来た。その瞬間に俺は中へと入った。


そこは王の間のように広く、全体的に明かりが灯されている。

その空間の中心には見覚えのある格好の人物が立っていた。

その男は短髪でヘアバンドを付けている。そして、緑色の上着に黒のタイツ。腰には双剣を装着している。


「…バレットさん。」

「来たか。」

「バレットさん、一つ教えてくれませんか?」

バレットは不思議そうにするも、「なんだ?」と返答した。

「何故偶数側に付いたんですか?それに貴方は仕事でここに来ているんですよね?何の目的があるんですか?」

バレットは呆れたように頭を掻き始めた。

「お前に教えるメリットがあるのか?」

「無いかもしれませんね。でも俺にはこの世界を知る権利がある。」

「…ほぉ。なら倒してみるんだな。」

バレットは双剣を抜き、両手で持ち直した。そして戦闘態勢状態になったと思いきや、既にその場から姿を消していた。正確には見えない速度で踏み込んだのだ。

俺は意識を集中させ、バレットの位置を推測した。目で見えないなら、感覚を研ぎ澄ますしかない。

「右斜め…四十五ッ!」

叫んだ位置に念動波を放つ。僅かにもバレットはかわしてしまったが、体勢を崩し後退した。更には頬に傷までも付けた。


「…ほぉ、強くなったようだ。俺と本気でやり合ってくれるって事で良いんだよな?」

「ええ、今更逃げる理由も無いですし。勝ったらさっきの質問の答え教えて下さいね。」

「…オーケー…約束は守ろう。」

バレットは再び双剣を構え、俺は胸の前で忍者のような手つきでのおまじないを披露した。

「絶対防御の術ッ!」

「…何だそれは。ふざけているのか?」

「本社の派遣でも、この技は流石に知らないんですね。絶対防御の術は、特別クエストの報酬なんですよ。まともにプレイをしていないのなら、分からなくても仕方ありません。」

どうやら俺の言葉は、バレットさんの逆鱗に触れたようだ。

「随分と馬鹿にしてくれるな。あぁそうさ、知らないさ。こんなクソみたいなゲームをやり込む要素が何処にあるんだ。仕事じゃなかったらこんな所来てないさ!」

怒りの言葉を投げた瞬間、バレットは最高速度で俺にに斬りかかってきた。

反応は出来なかったが、絶対防御の術によりダメージは無かった。当然傷も出来ない。

「バレットさん、言ってましたよね。この世界での痛みは貫通するって。」

「それがどうしたァッ!」

バレットは何度も斬りかかって来る。しかし、絶対防御が破られる事はなかった。

「…クソっ!」

バレットさんは息を切らしながら、俺を睨み付ける。

「終わりにしましょう。サイコ・クロックッ!」

詠唱と共に地一面に紫色に輝く線が時計を映し出す。大きく描かれた時計は一秒単位で長針が進む。

「サイコ・クロックだと!?ふざけるな!俺は本社の人間だぞ!この世界でこんな技まともに喰らったら…」

「…神経を通した痛みで貫通するのであれば最悪死さえあるかもしれませんね。」

動揺を隠せないバレットさんは、俺の元へと小走りで近付いて来た。

「…な、なぁ頼むよ…その絶対防御教えてくれよ…じゃないと俺死んじまうよ…。偶数組の弱点とか…なんなら奇数に乗り換えても良い!俺よ、防御力はそんなに無いんだ…スピードこそ命だと思ってたからよ。だからお願いだ…助けてくれ…。」

しかし、俺は聞く耳を持たなかった。良いように東京代表組を利用した挙句、死にそうになるとこれだ。死ぬかもしれない、なのにこの男は俺を殺そうとしていた。あれは殺意に溺れた快楽の眼だ。

「…ここは命が掛かった世界。生きて帰れるかはその人の力、運が試される。どんな物語を通ってきたかで、誰かは生きて誰かが死ぬということ。俺は既に何人もの仲間が犠牲になっている。皆、尊敬できる仲間達だ。でも貴方は違う、自分に甘い殺人に飢えたクズだ。現実世界でのストレスが原因ですか?ゲームの世界とはいえ、神経痛による貫通ダメージが残るこの世界で…貴方は俺を殺そうとした。助ける理由、教えてくださいよ。」

俺の言葉にバレットは膝から崩れ落ちた。その間にも時計は時刻を進め、既に四十五秒が過ぎた。

「…さようなら。せめて痛い思いをせずあの世に行ける事を願っています。」

俺はアスナ神殿から姿を消した。

「嫌…嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

俺が消える瞬間にバレットが飛びかかってきた。

しかし、間に合わず六十秒が経過した。


サイコ・クロック・・・時の紋章を刻み、一週間前から現在までで自分が受けたダメージの倍の痛みを時間差で与える。


時計の呪縛から出られるのは術者のみ。時計の中に入れられればそれが最後。

アスナ神殿自体に影響が出る事は無い。

あるとすれば、血で染る事くらいだ。


バレットの断末魔が俺に届く事はなかった。



次回もお楽しみに!

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