Stage2-4 伊藤家奪還編 三人家族
Stage2-3 伊藤明恵 の続編になります。
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ガタガタと揺れる部屋の中。
俺は地震かと思い、目を覚ます。
しかし、そこは見覚えのない狭い部屋の中。
動いたり止まったりしている事からトラックの荷台だと推測した。
よく見ると頑丈な鍵はなく、カバーを掛けるだけのタイプになっている。
急ブレーキをされたら吹っ飛んでしまいそうだ。
そんな事よりも、何故俺はトラックの荷台に乗せられているのだろうか。
昨日の記憶が無く、全く思い出せない。
「…アルミさん、目を覚ましましたか?」
振り返るとそこには伊藤三郎が立っていた。
自身の身体を見ると、アルミの姿に戻っていた。
「…あなた、未来から来ましたね?」
「…どうしてそれを?」
三郎さんは何かを知っているかのように微笑んだ。
「いえ、昔同じような経験をしたものですから。普通なら有り得ない事ですが、私はあの日の事を信じています。あれが夢だと言うのなら、今のあなたも幻想でしょうか?」
「…三郎さんも過去に行ったんですか?」
「いえいえ、あなたのように未来から来た女性が居たんですよ。その女性は正義感が強くてね、この街で警察官として住み始めたんですよ。」
三郎は「懐かしいなぁ」と思い出話を進めた。
「私はその方に惹かれていたんですけど、別の方と結婚して子供にも恵まれて。あの時は幸せそうでした。」
「…その方は今どうしてるんですか?」
「…生きていると信じています。私が必ず助けに行きます。」
三郎はこちらを向き頭を下げた。
「アルミさん、本当にありがとう。」
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目を覚ますとそこは伊藤宅だった。
以前の夢といい、さっぱり意味がわからなかった。
頭をかきながら立ち上がると、三郎の身体では無い事に気がついた。
「…まさか!」
玄関の靴を見るも、三郎と恵の靴が無い。
家中を探し回ったが、当然二人の姿は無かった。
俺は焦って家を飛び出した。
恐らく三郎さんは、恵ちゃんに畑の家を聞き出して乗り込むつもりだ。
そんな危険な所に何故恵ちゃんまで連れて行ったんだ。
相手は警察も手を出せない程の奴等なんだぞ。
息を切らしながらがむしゃらに走り続けた。
すると、途中の駄菓子屋で恵ちゃんが駄菓子を食べている所に遭遇した。
「あ、偽物のお兄ちゃん!」
「恵ちゃんッ!に、偽物?ん?お父さんは!?」
「お父ちゃん?お母さんを迎えに行くって言ってたよ?そんな事より、お兄ちゃんはどうやってお父ちゃんに変身してたの!」
初対面の俺に目をキラキラさせて言い寄ってきた。
「その話は後でしよう。お母さんのいる家まで案内してくれるかい?」
恵ちゃんは「いいよー」と手を引いて案内してくれた。
大体の場所を聞き出したら、遠くで待っていてもらおう。本当ならあんな危険な所に連れては行きたくない。
恵ちゃんの案内で畑の家の近くまで来たが、何やら騒がしかった。
通りがかりの近所の叔母さんは噂話をしていた。
「ちょっと聞きました!?畑さんとこの!」
「聞きましたよ!奥様亡くなってたんですってね。」
「息子の大貴君も最近荒れているみたいだし、魔が差しちゃったのかしらね。」
「そうそう大貴くん、警察が来たんだけど家に立て篭ってるそうよ。「俺じゃない!」ってずっと叫んでるって。」
「やだぁ、何それ。もう畑家もおしまいね。」
噂話を一通り聞いた俺は、恵を連れて畑の家へと急いだ。
家に着くと警察が畑の家を囲っている。
畑は人質に刃物を向けて、玄関の前にいた。
「動くなぁァァ!動いたら殺すぅッ!!」
これだけ自暴自棄になっていれば、母親を殺していてもおかしくないだろう。
人質になっている女性はもしかして…。
「お母さんッ!」
恵ちゃんが声を荒らげて叫んだ。
しかし、畑は恵ちゃんの声に全く反応しなかった。
これだけの事態に気が動転しているのだろう。
だが、こうなると明恵さんの命が危ない。
すると、人集りの前列に三郎さんの姿があった。
「三郎さんッ!」
気付いた時にはもう遅かった。
三郎さんは明恵さんを助けようと警察の間を抜けて、畑に向かって行った。
三郎さんが明恵さんを助けるまでの一秒が非常に長く感じた。
隠し持っていた包丁を畑の手に切り付け、明恵さんを解放した。
そして、畑は出血と痛みにより頭に血が上ったような様子で三郎さんに襲いかかった。
「死ねやぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」
「紅き心眼よ、目覚める刻がきた。悪の体内を紅蓮の炎で焼き尽くせ。インサイド・ファイアーストーム!」
畑は燃え盛る炎で包み込まれた。
炎の中からは怨念のような悲鳴が聴こえる。
近所の人集りも悲鳴と共にその場から逃げ出して行った。
次第に声は聴こえなくなり、畑は炎を纏ったままその場に倒れた。
警察は複数名で水を取りに行っていた。
有名な悪党二人は呆気なく亡くなった。
三郎さんと明恵さんは再会を喜び、抱き合っている。恵ちゃんも駆け寄り、半年ぶりに三人家族になれたのだった。
全ての問題が解決したように見えるが、夢の中で三郎さんが言っていたことを思い出した。
三郎さんは未来から来た女性がいると話していた。
恐らくそれは明恵さんの事であろう。その証拠として、あの炎は今世のものでは無いことは明らかだった。それに、明恵さんが呪文を唱えている所を俺は見逃さなかった。
そして、今世の人間と未来の魔法使いの間に生まれた恵ちゃんは、明恵さんの力を受け継いでいる可能性が高い。
この街ではまだまだ調べる事が多くありそうだ。
「三郎さんッ!」
三郎さんに駆け寄ってくる刑事さん。
「…あぁ、あの時の。」
俺も三郎さんも面識のある受付で会った若い刑事さんだった。
「…一先ずご無事で何よりです。」
三郎さんは刑事さんの前に両手を出した。
「分かってるんです。誘拐、監禁といえど人を切り付けてしまった。」
「…手錠なんて必要無いですよ。」
刑事さんは三郎さんの手を抑えながら、パトカーへと連れて行った。
俺や明恵さん、恵ちゃんも事情聴取の為、別の車で警察へと向かったのだった。
畑大貴も畑真由美も亡くなってしまい、事件は迷宮入りとなった。母親の真由美の死因は感電による心停止だそうだ。前日に大量のワインを嗜み、そのワインの中にも睡眠薬が入っていたと分かった。元々高血圧で降圧剤も飲んでいたそうだ。そんな身体に感電をさせたとなれば即死であろう。しかし、本当に息子の大貴が殺したのであろうか。
どちらにせよ、畑大貴は明恵さんへの性的暴行や誘拐、監禁の罪がある。恵ちゃんには虐待の疑いがあり、何をしでかしてもおかしくない。
そして、三郎さんは正当防衛という事で罪にはならなかった。
言うまでもないが畑一家に苦労していたのは、この街の人間ほぼ全員だ。信頼も無い畑一家は一度落ちると回復は見込めないレベルだろう。そんな一家を援護する者は誰一人いなかったのだ。
そして、俺はアメリカの警察官では無いとバレてしまった。何の証拠もないので、概ね真実を話した。結果俺は、頭のおかしい通行人という事で幕は閉じた。
三郎さんはまだ事情聴取があるとの事で、もう少し警察に残っている。
明恵さんは監禁での傷や栄養失調があり、恵ちゃんも栄養が不足しているとの事で入院となった。
恵ちゃんも疲れてしまったのか、既に深い眠りに入っている。
全ての事にかなりの時間を要し、外はもう暗くなっていた。
「アルミさん、何から何までありがとうございました。」
明恵さんは臥床しながらこちらを向いて言った。
「良いんですよ。それが僕の務めですから。」
明恵さんは微笑みながら外を眺めている。
「…明恵さんは未来の人ですか?」
数分の沈黙が続いたが、意を決したのか話を始めた。
「…アルミさんには、隠す必要もありませんね。二一二一年第三東京ネオンシティの【アイネ・エッジ・キール】と言います。廃都会と化した後、私はこの世界に逃げ込みました。いやぁ、それにしてもまだ魔法が使えるとは思いませんでしたよ。」
明恵さんは魔法を使って、傷を癒し始めた。
徐々に傷が治ると同時に身体を起こしてこちらを見つめた。
「アルミさんに折り入って相談があります。」
明恵さんは真剣な顔でこちらを見つめる。
「私を一緒に連れて行ってくれませんか?」
「…はい?」
恵ちゃんの鼾が響くも、二人の耳に入ってこなかった。
満月の光が二人を照らし、それはまるで新たな物語が始まろうとしているような光景だった。
【伊藤三郎編 ミッションクリア】
【新ミッション アイネ・エッジ・キールとの旅立ち】
次回
Stage2-5 悲しみより愛を込めて