Stage8-18 決戦に向けて
決意を固めたあの日から一週間が経過していた。
これといって何かしている訳では無い。
村の戦闘部隊は、武器やら防具やらを手入れしているが作戦会議等は全くしている様子は無い。むしろ楽しそうに雑談をしているようだ。中には村の女性とイチャつく者もいるくらいだ。
「こんなんで外の国に勝てんのか?」
「…まあでもこれで毎年引き分けているんだからな。これが彼等のやり方なんだろう。」
「…お前、なんか丸くなったな。昔だったら、罵声の一つや二つあっただろう。」
「…確かにそうかもな。」
なんくるは何かを抱えているのか、悩みの表情を浮かべていた。
その悩みは言わずとも俺には何となく分かっていた。
「…過ぎたことはあんま気にすんなよ。」
なんくるは少し驚いた顔でこちらを見たが、すぐに正面の湖を眺めた。
「…そう言ってくれるだけまだ救いさ。俺はお前とずっと居たのに隠し事をしてたんだ。仲間失格だ、一緒に旅をする資格なんて無い。」
「まあどちらにせよ、この闘いが終わればもう旅しなくて済むんだ。それぞれの世界に帰ろうぜ。」
なんくるは浮かない表情は変わっていなかった。
「なんだってんだよ!何をそんなに気にしてんだよ!」
「…まくとぅの事も。」
なんくるが何を言うとしたかは分かった。俺はその瞬間、なんくるを思い切り殴った。殴った音はそれなりに響き、近くにいた子供が驚いて村へ帰った。次第にその訴えを聞いた村人やライト達が俺達のいる所へ集まってきた。しかし、俺は目もくれず、なんくるの胸ぐらを掴んだ。
「てめぇ今何言おうとした。まくとぅは生きてたのに、リズは助けられなかったとか吐かすんじゃないだろうな。」
なんくるは、目を逸らした。図星のようだ。
「リズは…生きたいように生きて、自分の責務を全うしたんだ。リズの死を無駄にするような事言うな。」
「リズだけじゃない!ユウヤもアイネもダイスもさーたーも!誰も救えて無いんだよ…。」
なんくるは大声を出した後に涙を流した。
「…お前が思ってるほど、皆後悔してないと思うぞ。冒険者になってる時点で、死への覚悟なんてとうに出来てんだよ。お前がグダグダ泣き言言ってるだけなんだよ。」
俺はなんくるを軽く押すように胸ぐらから手を離した。
「…だったら、今この場で俺に殺されても悔いは無いって事だな?」
その言葉を聞いたライトとまくとぅが急いで止めに入る。
「お兄ちゃんッ!何言ってるの!」
「そうだよ、二人共どうしちゃったの!」
なんくるは二人の声には耳を傾けず、俺へ怒りの眼を向けていた。
「無い。」
もう無駄な言い合いは必要なかった。二人が止めに入る中、俺となんくるは既に戦闘態勢に入っていた。
「お前が俺に勝てるわけないだろッ!」
「勝負はやってみなきゃわからないさ。」
俺達は同時に足を踏み切り、拳をぶつけ合った。当然のように俺は吹き飛ばされたが、岩の壁にぶつかる事は無かった。
「お忘れのようだが、俺はサイキッカーだ!」
俺は手元で紫色と水色の混ざり合ったような球体を高速で生成し、なんくるへ投げた。
「サイコブレイクッ!」
「火龍!豪炎壁!」
なんくるは火の龍を出現させ、包み込むように俺が放った球体から身を守った。
「…分かってるよ、効かない事くらい。」
息継ぎもさせない程の早さで俺はなんくるの背後へと回った。
「蒼炎!」
俺は両手で蒼い炎を作り出し、なんくるの背に放った。
「のわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
なんくるの背は火傷を負い、膝まづく程痛みが走っていた。苦痛の表情を浮かべる間に、俺はなんくるの真上に飛んだ。
「…弱かった俺を強くしたのは…なんくる…お前だ。」
俺はサイコキネシスで宙に浮いたままうつ伏せ状態でなんくるを眺める。そして、身体を覆い隠す程の蒼い球体を生成し、なんくるのいる所へ蹴り飛ばした。
「ラスト・リゾートッ!!!」
その球体は徐々に龍へと形を変えた。
なんくるはそれに気付き、すぐに体勢を整えて技を受け止めた。受け止め続けた結果、技の力は弱まりそして少しずつ消えていった。しかし、名の通りなんくるの腕は傷だらけであった。
ラスト・リゾートは、最終手段の大技。蒼炎と龍の力を組み合わせて作り出したオリジナルの新技。なんくる相手ならば本気で闘ったが、まさか止められるとは思わなかった。
俺は地上に降り、なんくるに近付いた。
「…ラスト・リゾートは俺の新技であり、一番の大技だ。当然魔力も気力も大幅に減ってしまう。それを止められちゃ、もう俺に勝機なんて無いさ。やっぱりお前は強いよ。」
「…ハハッ…何言ってんだよ…こんなの受け止めたらもう何も出来ねぇよ。クソッ…全身が痛え。」
俺達は互いの無様な姿を見て笑い、その場に倒れ込んだ。
「…懐かしいな…この感じ。沖縄で出会った時を思い出すよ。」
「…まあその時の相手はユウヤだったけどな。」
「…あの馬鹿な。加減を知らねぇんだよ。」
軽い思い出話をしながら、微かに綺麗な青空を眺めた。
「…男って本当にわからない。」
「…結局何がしたかったのか。」
ライトとまくとぅは溜息を吐き、再び村へと帰っていった。 他の村人や子供も「何だよ、騒々しい。」等とブツブツ文句を言いながら帰って行くのが聞こえた。
「「…面目無い。」」
俺となんくるは少し大人になった?のだった。
次回もお楽しみに!




