Stage2-3 伊藤家奪還編 伊藤明恵
Stage2-2 伊藤恵 の続編になります。
急展開過ぎて自分でもびっくりしました汗
気付いたら殺人事件の展開になっていました。
引き続きご愛読よろしくお願いします!
気が付くとそこは真っ白な空間だった。
辺りを見渡すと、少し離れた所に全裸のおじさんらしき人が背を向けて座っていた。
よく見ると自分も全裸であったが、気にもせずおじさんの所へと向かった。
どこか見た事のあるその後ろ姿は痩せ細っていた。
「三郎さん。」
「…アルミさん。ここに居るという事は気付いたのですね。」
「えぇ、ある程度。」
「…明恵とは再婚だったんです。血は繋がっていませんが、恵も慕ってくれてね。私も自分の子のように思っているんですよ。」
三郎さんは遠くを見つめて思い出話を続けた。
「明恵も恵も愛してるんです。ですが、ある男とその母親が私達家族の邪魔をするんです。」
「畑さんとそのお母さんですか?」
三郎さんは顔を伏せて頷く。
「畑は明恵の元旦那なんです。不倫と虐待が原因で離婚したそうなんですが、未だに付き纏って来ましてね。ついには自身の性欲の為に明恵を襲ったりもして…。」
あの忌々しい写真の事で間違いないだろう。
写真の明恵さんはどこか心が死んでいたように感じた。決して自身の不倫ではなく、強姦だと目で訴える程に。
「…誘拐された後も表上は行方不明で通ってましたけど、畑の所にいるとは思ったんです。どちらにせよ証拠不十分でしたから、警察が調べればすぐに見つけてくれると思ってたんです。」
「そこで邪魔をしてきたのが畑の母親ですね?」
三郎さんは突然その場に立ち上がり、大声を上げた。
「あのババァは、警察の頭と繋がってたんだ!下っ端の刑事も良い顔しやがって!俺の相談したこと全て頭に喋ってるんだろ!仕舞いには警察が隠蔽だと?ふざけるなッ!」
畑とその母親は警察の頭と繋がっている事もこの辺では有名な話だそうだ。立場が危うくなれば隠蔽を依頼、そして犯罪を繰り返す。
しかし、伊藤家の誘拐事件を密かに調べて、恵ちゃんを見つけたと言ってくれたあの刑事のように潔白な警察も極小数いるらしい。
結論、伊藤家の誘拐が半年も放置されたのは畑一家と警察が原因だ。
それを察した明恵さんは何度も恵ちゃんを暴力から守っていた。自身を傷つける事になったとしても、親として身体を張っていた。そして、何度も外へ買い物へ行かせた。タイミング良く三郎さんと鉢合わせる為に。
「結婚指輪を外しているのは、せめてもの償いですか?」
「…まあそんなところです。あの男がいる限り、笑って付けていられませんよ。」
「では、手帳の結婚記念日(嘘)というのは?」
「…あぁ、あの日は畑と明恵の結婚記念日だったらしいんです。でもそれも偽り、嘘っていうことにしたんです。まあ、そもそも存在を消してやろうと思ってましたが。」
三郎さんは耐えてきた。どんなに辛かろうと、明恵さんと乗り越えてきたんだ。
傷だらけになっても、恵ちゃんだけは守るために。
「恵ちゃん、強い子ですよ。流石、お二人の子だ。」
「…あの子には幸せになって欲しいです。だからこそ守ってあげなければ。もう、恵は離さない。アルミさん、もう少しだけ協力してください。」
真っ白な空間で俺は三郎と握手を交わした。
ーーーーー
気が付くとそこは伊藤宅だった。
「…お父ちゃんッ!」
恵ちゃんが涙目で近付く。どうやら気を失っていたようだ。
「ごめんごめん、もう大丈夫だから。」
恵ちゃんは俺の身体に顔をうづめたまま頷いた。
先程の真っ白な空間は、恐らく三郎さんの心の中だろう。
本心を語り合えた事で物語は終盤へと近付いた。
どことなく歯車も動き出しているような気がした。
これから早急に片付けなければいけない事、一つ目は明恵さんの救出だ。恐らく、畑という男の家で監禁されているのだろう。なので、まずは畑の家を調べる必要がある。
二つ目は畑とその母親を取り除く事。二人がいる限り、警察は宛にならない。何か良い手はないだろうか。
どちらにせよ、今日はもう夕方だ。
恵ちゃんもそろそろ休ませてあげなければいけない。
「明恵さん。もう一日だけ耐えてくれ。」
作戦を固めて、明日決行とした。
……一方その頃。
「恵が逃げたのは、テメェのせいだろうがッ!!!」
物凄い勢いで女性の腹に蹴りを入れる男。
「…けほっごほっ…お願い…もう許…ひて」
息もまともに出来ない中、男は再び蹴りを入れる。
女性の意識は朦朧としてきていた。
そして呼吸困難の末、吐気に襲われていた。
男は舌打ちをして、椅子に寄り掛かる。
女性が苦しんでいる目の前で紙タバコを吸い始めた。
男がリラックスして吐き出した副流煙は、女性の呼吸状態を更に苦しめた。
「あぁ?俺のタバコが臭いのか?」
女性は顔面を殴られ、背中に根性焼きまでされた。
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ッッッ!!!!!!!!」
狭い部屋の中で響き渡る悲鳴は外にまで聴こえていた。
近所の住人も後退りをするほどに、【畑】という表札は拷問城への入口を現していた。
しかし、誰一人警察に連絡する事はなかった。
息切れをする女性に男は話し掛ける。
「お前の悲鳴聴いても、だ〜れも助けてくれないな。喘ぎ声なら人も集まるかもな。」
男はズボンを下ろし、女性を押さえ付けた。
もがき苦しむ女性の喘ぎ声は約一時間響き渡っていた。
そんな中、一階の居間では男の母親が夕食を楽しんでいた。
「ん〜このワイン美味しいわ。あの女の悲鳴が、更に美味しさを引き立てているわ。」
天井を見上げ、ニヤリと笑う女はまるで魔女そのものだった。
「…あと何日生きていられるかしらね。」
深夜二時過ぎ。
家の中を静かに歩き回る。
時折ギシギシと音をたてるが、誰も起きてくる事はなかった。
一階の居間を通り抜けると、奥には【畑 真由美】の寝室がある。
そこまで物音を立てずに忍び込んだ。
幸せそうな表情で眠っている畑真由美を見て怒りが込み上げる。
周囲にはワインの空き瓶やチーズ等のゴミが散らかっている。
試しに思い切りビンタをしてみよう。
パシンッ!という音が響くも起きる気配はない。
それもそのはず、昼間の誰もいない間にワインに睡眠薬を仕込んでおいたのだ。
目を覚まさない事を確認し、作業に取り掛かった。
手や足、心臓周囲の皮膚、顔に鍼灸で使用する鍼を刺していった。そして、全ての鍼に電極クリップを繋いだ。全ての電極クリップのリードの先には電極板を繋げ、そこから更に電極クリップで挟む。その先に電圧計の300Vへと繋がった。
人はその日の体調によっては30~40Vでも死に至る事もあるそうだ。
全てはネット情報によるもの、成功するかは分からない。
電圧計のコンセントを繋いだ。
「ゔゔぁぁぁ○×☆△※ぁゔぅわぁっっっあ"あ"ッ!!」
真由美の声は声にはならず、痙攣を続けて悶え苦しんでいる。
体内には大量のワイン、そして睡眠薬。そんな状態で電流を流されているのだ。
五分も経たずに畑真由美は動かなくなった。
周囲には肉の焦げたような臭いが漂っていた。
換気をすると同時に吐き気を催した。
全ての物を撤収し、水の溜まった洗面器やドライヤー等の電気用品を近辺に置いた。そして、部屋も荒らしておいた。
外からによる殺害か、酔っ払って感電死した見せるために。
この考え方は安易かもしれない。
しかし、警察はこの家には関与しないであろう。そもそもこの女の息子が通報するとは思えない。捕まる事も怖くはなかった。
何事も無かったかのように、明恵はその部屋を抜け出した。そして、監禁されている部屋に戻って行った。
次回
Stage2-4 三人家族