Stage8-10 秘められた力
「…。」
「あの!なんで無視するんですか!」
稽古が終わり俺は颯爽と稽古場を後にした…にも関わらず桃色の髪の毛を左右に揺らしながら追いかけて来る女の子を振り払えずにいた。
「…何故付いてくる。」
「勝負してくださいっ!」
彼女は腰元から竹刀をとりだした。
「あのなぁ…年の差を考えろよ。」
「私はこう見えて十二歳です!」
「…六個もしたかよ。」
この世界にきてから溜息の数が減ったように感じていたが、頭を抱える存在はどの時代にも存在するのだと改めて感じた。
「…俺の本職は武闘家だ。男と女の力量差舐めない方が良い。」
「…私は剣士になりたいんです。だから貴方に勝ちます。」
これほどに聞き分けの悪い子と会ったのは初めてであった。俺はやむを得ず、勝負を受ける事にした。だが、結果は言うまでもなかった。
「どうだ?これに懲りたら…」
彼女は涙を浮かべ、歯を食いしばりながら立ち上がった。それから何度も同じ事を繰り返し、気が付けば辺りは暗くなっていた。
「…もう良いだろう。」
もはや何戦したかも分からない。
「…まだ…ま…だ。」
彼女は力尽き、その場に倒れ込んだ。気を失ったかのように眠る彼女を担いで、俺はちむじゅら様の元へと迎った。
「ちむじゅら様、夜分にすみません。」
「なんくるか。どうした…その子は。」
「まくとぅそーけー、稽古場の見習い剣士です。」
「ほぉその子が噂の。」
「噂?」
どうやらまくとぅそーけーという女の子は、誰彼構わずに勝負を挑んで返り討ちにされている事で有名なんだそうだ。毎日ボロボロの姿で帰るが、翌日には傷もかなり癒えているらしい。
「…傷の治りが早いんですか?」
「…それだけでは無いじゃろうが、剣士になる必要のないほどに強い力を秘めているのかもしれぬのう。」
「…強い力。」
俺はまくとぅの秘めている力がどんなものなのか気になっていた。
「…なんくる、どうだろう。少しの間彼女と生活を共にするのは。」
「はい?」
ちむじゅら様はいつも何を考えているのか分からないが、今日はとことん何を考えているのか分からなかった。
「確かに力には興味ありますが、そこまでする必要あります?」
「…まあ今夜彼女を家に泊めてやりなさい。そうすればわかるじゃろ。」
そう言い残し、ちむじゅら様は去った。
俺は言われた通り、彼女を自宅へと連れ帰った。
彼女を寝床へと横たわらせ、少し離れて見守る事とした。傷だらけの彼女を見ながら再度溜息を吐いた。そのまま目を閉じ、眠りについた。
座ったまま眠っていると、何かの光が放たれていると瞼を閉じていても分かった。気が付いて目を開けると、まくとぅの身体が緑色に光り輝いていたのだ。
俺は慌てて彼女の近くへと寄った。
「…何だよこれ。」
なんと彼女の身体には様々な昆虫が纏わり付いていたのだ。よく見ると傷口付近を覆っていた。
「…まさか、虫の力で治癒を。」
聞いた事のない魔法だが、本人は未だに夢の中。本人意思で無ければ、虫達から寄ってきているという事になる。
夕方の様子からして、本人はこの力には気付いていないのだろう。まずは虫について彼女がどう思っているのか、そしてなにか思い当たる節はないのか確認する必要がある。
俺は治癒の邪魔をしないように元の位置へと戻った。
「…まくとぅそーけー。一体何者なんだ。」
次回もお楽しみに!




