Stage8-5 もう一人の私
俺は走りながら草木をかき分けてジャングルの中をぐるぐると逃げ回った。
徐々に遠くなる声を頼りに身を隠しながら進み続けた。
すると滝の音が聞こえ、ジャングルを抜けてから岩場を登った。東京の小さなビルくらいはある岩の山をがむしゃらに登り続けた。
一番上まで登るとその景色に俺は息を飲んだ。
「なんだこれ!?」
その島は全体を綺麗な海や森で囲んでいるが、それらを覆い隠すように岩場で囲っている部分があった。その中には一つの村があり、そこからは決して出られないようになっていた。滝は中と外に流れるようになっている。どこから出ている水なのかはよく分からない。
外の村と中の村。どんな関係があるのかは分からないが、先程の民族の様子を見る限りもっと凶暴な村人がいるのやもしれない。
「…鬼ごっこは終わりだぜ?」
突然背後から聞き覚えのある声が聴こえた。振り返るとそこにはバレットが立っていた。
「…バレットさん。」
「…あーあ。知っちまったのか。」
そう言うとバレットさんは、腰元から短剣を取り出した。慣れた手つきで短剣を回し、戦闘態勢に入るように構えた。
「悪いが、このまま生かして帰す訳にはいかない。」
「待ってくれバレットさん!ここは一体何なんだ!」
「知りたいなら、俺を倒してみな。」
(…クソ、参ったな。バレットさんと和解出来ないまま逃げちまったから、対立の存在に書き換えられたのか?何にせよ、バレットさんを敵には回したくない。)
俺は両手を上げ、戦闘の意思は無い事を証明した。
「…降参か?」
「違います。話をしたいんです。場合によっては、先程の助手を引き受けたいと思っています。」
バレットさんは、首元のフードで顔を隠した。表情を悟られないよう、考えているようだ。
「…何を知りたい。」
「この、岩の中と外の違いと関係について。」
バレットは短剣を収め、「ついてこい」と一言言い放った。俺は何も言わずに後を追った。
一方その頃、ライトはジャングルの中を彷徨っていた。
「…全く。雲に入ってみればこんな所に落とされるなんて。…でもまあ、助かったから良かった!」
独り言を言っているとジャングルを抜けた。すると、そこには綺麗な川が流れ、キラキラとしている草原や花が広がっていた。
「…凄い綺麗。」
野生のウサギやリスが自然の中を駆け回っている。
「こんな素敵な所だったら、動物達も過ごしやすいよね!」
空には見たことの無い美しい鳥も飛んでいる。
しかし、空を見た時一つ不振な点に気が付いた。そう、ここら一帯を大きな岩の壁で覆われていることが分かったのだ。
「…あの岩の壁はなんなの?なんだろうね?」
再び独り言を繰り返していると、背後から「…あの〜」と声が掛かった。
バッと振り返り、戦闘態勢に入るとそこには両手をあげて怯えた男女が立っていた。
「…わ、私達はこの村の者です!あ、争いはしたくありません!」
「…村?村があるの?どこ?どこ?」
私の様子に二人の村人は警戒しているようだ。それに気付いた私は、武器を収めて膝を着いた。
「…無礼な態度をしてしまってすみません。ごめんなさい。私はライト…ミと申します。気が付くとこの森で倒れていたので辺りを散策していたのです。」
二人の男女は顔を見合せて、私に駆け寄った。
「はぁ、良かった。外の回し者かと思いました。」
「…大丈夫?外から落とされたの?」
今度は心配そうな表情を見せていた。外というのはのよ岩場の奥の話であろうか。
「…あの、良かったらあの岩場と外の話を聞かせてくれませんか?実は私達何も知らないんですです。」
「…私達?」
二人の村人が困惑していると、間から一人の老人が歩み寄ってきた。
「…お主…中にもう一人おるな。」
「「長老!?」」
二人の男女は驚いて、急いで膝を着いた。
「よいよい。それよりお嬢さん、外の世界について知りたいのじゃな?わしの家に着いて来なされ。」
「はーい!」
私は長老と呼ばれていた老人の後を追った。
次回もお楽しみに!