stage8 【天の花園編】生と死
「…てことがあった。」
俺は留守にしていた理由を仲間に話した。
「そんな事があったんだね。」
「…でも、一言言って欲しかったな。」
「そうだぞ。黙っていなくなることは無かっただろ。」
ライトとなんくるは、少し怒った口調をこちらへ向けた。
「…悪かった。」
すると、ライトが俺の頭を軽くげんこつをした。
「…次からは気を付けてね。」
頬を膨らませているその姿は女神のようであった。
まさか、あのキノコの魔族がこんな美女になるとは…。
そんなことを考えていると、突然後頭部に痛みが走った。それはまるで、強い力で殴られたかのような痛みであった。
「…次からは気を付けるんだぞ。」
なんくるがライトと同じ事をした模様。
膨らませた頬に毒針を刺したくなった。
「…さて。これからどうしようか。」
「今日はゆっくり休んで、明日朝一で出ましょ。」
ライトの意見に全員が賛成した。
「あの空の向こうには何があるんだろう。」
「…さぁ。天国とかじゃないか?」
俺の言葉にメグミはワクワクした様子を見せた。流石はアイネの子、肝が据わっている。だが…
「ここからは俺の勘だが、あの階段の向こうは生と死の狭間。全員が生きて帰って来れる確率はかなり低いだろう。正直な話、メグミは行かない方が良いのでは無いかと思っている。」
なんくるの言葉にメグミは不満気な表情を向けた。
「やだっ!私も行く!」
メグミの年齢は十歳前後、とても闘える年齢でも無ければ力も年並だ。なんくるの言っていることは正論である。
「…メグミ。お前がアイネの子で凄く強い事は分かっている。」
「だったら私も闘う。」
「…ダメだ。俺もお前を連れて行く事は許可できない。」
俺となんくる二人から詰められ、涙目を浮かべたメグミはその場を去って行った。
「メグミちゃんッ!」
ライトは瞬時に反応し、メグミを追い掛けた。
「あ〜嫌われたかなぁ。俺達は悪者だな。」
「…悪者で済むなら良いだろ。」
俺となんくるは、久しぶりに乾杯をした。並々入っている酒は、津波が押し寄せるように零れる。キンキンに冷えた炭酸は、喉を瞬時に潤した。そして、アルコールは俺達の暗い感情を振り払ってくれた。
「…俺とお前、何だかんだもう何年になる?」
「出会ったのは七年前。まあすぐに離れ離れになったからな。正確に何年とか分からん。」
俺達は明日死ぬかもしれない。何が起こるか分からない旅をしている以上、仕方ないと言ってしまえばそれまでだ。死が怖くない訳では無い。それでも好きな事をして生きている。ただそれだけだ。
「…好きなことをして生きる。そして死ぬ。何がいけない?社会人なんてまっぴーらごめんなさーい!」
アルコールは全身を周り、既に俺はまともな会話が出来なくなっていた。
「ひんでだばるかぁ!」
酒癖の悪い二人であった。
…一方その頃。
「…メグミ…今なんて?」
「…何回でも言うよ。私は人間なんかじゃない。」
夜の静けさに響き渡る波の音。
波は俺達の目を逸らさないよう、何度も何度も悲劇を浜辺へ返しているようだった。
次回もお楽しみに!