Stage6-5 四つ目の歯車
「…裏切るつもりもなければ、見捨てる気もなかった。ただ俺が弱かっただけなんだ。」
ライトは少し意外そうな表情を見せていた。恐らくサン隊長の弱さを知っているからこその結末を想像していたのだろう。
「…だからといって私が魔族に落ちた事に変わりは無い。」
「…大丈夫だ。すぐに戻してやるからな。」
そう言うとサン隊長は俺の元へ向かって来た。
「…アルミ。俺を殺してくれ。」
俺とライトは同時に「は?」と言葉が漏れていた。
「…俺はどの道死ぬ運命なんだ。四つ目の歯車に指定された時点で寿命は決まっている。ならば俺は歯車と一体化する。俺の身体はライトに渡す。」
「渡すって…殺せばそうなるっていうのかよ。」
サン隊長は何も言わずに両手を広げた。指先から全身に伝わる震えは、死に対する恐怖を表していた。
次の瞬間、サン隊長の心臓の位置から手が生えた。
その手は心臓を握り、サン隊長は口から血を吐き出す。
手が抜かれると、身体の空洞から口を開けたまま涙を流すライトの姿が見えた。
サン隊長がその場に倒れ込み、辺りの草は赤黒く染まる。
「…お…にい…ちゃ…。」
サン隊長は、ライトの方を向いたまま口角を少し上げた。
そして、サン隊長の心臓を貫いた手は心臓と一体化していた。次第にそれは黒い人型のような形になっていった。俺とライトが警戒態勢でいると、その姿は徐々に薄くなっていく。
「…嘘でしょ。」
「…なんでだよ。」
そこに現れたのは、アレク・マックフォードだった。
アレクはジッとサン隊長を眺めていた。
「…醜い。」
そして、顔面を蹴り、サン隊長の顔はありえない方向へと傾いた。同時にライトの理性が崩壊する。
「…へぇ。魔族でも悲しいとかあるんだ。」
アレクはライトに近付き、キノコの帽子を剥ぎ取る。それは髪の毛をむしり取る様な痛みで、ライトは血を流しながら叫んだ。
「…ほぉ。痛みもあるのか。」
その後も腕を握り潰したり、眼を潰したりと拷問のような事を繰り返した。俺はその光景をただ見ている事しか出来なかった。
次第にライトの声は聞こえなくなり、その場に倒れ込んだ。
「えぇ!?死んだ!?嘘ォッ!弱ッ!」
俺は、アレクに殴り掛かった。
だが、当然のように受け止められた。
「アルミじゃん。久しぶりだね。」
「…あんた、本当にアレクさんなのか?」
「そうだよ。これが本当の僕さ。」
アレクは俺の左眼を抉り取った。
信じられない程の激痛に耐えきれず、言葉にならない悲鳴を上げた。
この世界はゲームの世界。では、何故現実のような痛みが走ったのか。こんな事は今まで一度も無かった。
「痛い?痛いよね!?痛い痛い痛いッ!!!」
アレクは子供のように喜んでいた。
「いやぁ、痛いのかぁ。そっかそっか。漸くこの世界に馴染んできたんだね。」
「…おま…お前…。」
「ハハッ!苦しそう!」
一体何が起こっているのか。
アレクは何者なのか。
この世界は何なのか。
何もかも謎だらけであった。
次回もお楽しみに!




