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Stage2-1 伊藤家奪還編 伊藤三郎

【今世は幸せでありますように!】

こちらの作品はStage1-4 選ばれし五人と歯車の続編になります。

いよいよ、Stage2に突入しました!

Stage2は伊藤三郎編になります!

楽しんで読んで頂けたら嬉しいです^^

気が付くと見知らぬ空き地に立っていた。

辺りを見渡すも田舎の住宅街という雰囲気を隠しきれていない。

蝉の鳴き声や鳥のさえずり、風に吹かれた森の音。

心地よい自然の音色は心を穏やかにした。

普通に考えればこの辺で何かイベントが発生するのだろうが、これはVRMMOの世界。自ら歩みを進めなければ基本的には何も起こらない。雰囲気を体感しに来るプレイヤーもいるがごく稀だ。

一先ず空き地を出て、住宅街を歩く事とした。


石で積み上げられたような塀の中に木造建築の一軒家やアパートが無数にある。

途中スーパーや郵便局なんかは目に入るが、現代のようなコンビニは至る所には存在していない。

すると小さな本屋が目に入った。

情報収集のために一先ず入ってみる事とした。


昔の本屋という事もあり、入口は左右に二箇所ある。

中に入ると両入口の中心に店員が待機しているといった構造だ。簡単に言えば昔の銭湯のようなものだ。

本屋には数人のお客さんがいる。

古本や雑誌、漫画が数多く置いてある。

僅かだが物珍しい8センチCDやレコードも普通に置いてある。


店内のカレンダーを見ると、一九八五年 九月と記されていた。

そして店内の雑誌【平凡キック 十月号】を立ち読みしてみると、【ファニコン ハイパーマニオシスターズ発売!】や【三時だよ!集団下校!放送終了!?】など当時話題になったであろう記事が掲載されている。

「…立ち読み禁止。」

店員に後頭部をはたきで叩かれた。

小声で謝罪をしてから、雑誌を元の位置に戻して店を出た。


本屋を出て再び歩き出したが、かなりの猛暑だ。

電信柱には【逃志村山(にがしむらやま)】と看板が貼ってある。

「…やっぱモデルは昔の東京かよ。」

するとここに来て初めての日陰を見つけた。

日陰で休んでいると噂話をする二人のご婦人が歩いていた。

「奥さん聞きました?すぐそこの伊藤さんのお宅の。」

「聞きましたわ、奥さんと娘さん出て行ったんですってね。」

「違うのよ!誘拐よ!誘拐!」

「えぇ!?誘拐!?」

「そうなのよ!身代金が用意出来なくて、もう半年らしいわよ。」

「半年!?それじゃあもう…。」

二人のご婦人はその後も噂話を繰返しながら去って行った。

噂話で言っていた【伊藤さん】はターゲットの【伊藤三郎】だろうか。

伊藤という苗字は無数にいる。

ご婦人が指していた方面を中心に探してみる事とした。

三人家族だったのであれば、一軒家にいる可能性も高い。

まずは表札のある家を中心に探す事にした。

探してから十五分も掛からなかった。

築年数四十年程だろうか、木造建築の一軒家の周りには小さな庭がある。そして門の表札には【伊藤 三郎 明恵 恵】とご丁寧に書かれていた。

ゆっくりと中に入り、玄関の前まで歩いた。

この時代にはインターホンもあれば呼び鈴やドアノック等がある。この家はライオンのドアノック、バンッバンッと叩く音が響く。

家の中から「どちら様?」と低音の声が聞こえる。

「伊藤三郎さんですね?お話を聞かせてください。」

こういう時は変に誤魔化すより、素直に聞いた方が良いと判断した。

ご婦人の話が本当であれば、誘拐されて半年が経っている。捜査も打ち切っている可能性が高い。

伊藤さんは今、誰の助けもない絶望状態なのではないか?と考えた。

「…どちら様ですか?何の御用でしょう?」

確かに先程「どちら様?」に大して「伊藤三郎さんですね?」と質問を質問で返した点は反省しようと思う。

「私はアルミという者です。伊藤さん…御家族の事お聴きしても宜しいですか?」

「…はぁ。警察の方ですか?」

この状況下では警察の方が良いかもしれない。

「私、先日アメリカから来ましてね。未解決事件について調査をと言われてるんです。」

警察手帳をどう誤魔化そうか考えていると、伊藤さんは「どうぞ」と中へ案内してくれた。

安堵の表情を隠しながら、孤独の家へ足を踏み入れた。


案内されたのは客間、畳上に黒の長方形テーブルが置かれている。テーブルの上には茶菓子が置いてあり、周囲には四枚の紫色の座布団。まるで旅館にでも泊まりに来た気分になった。

「そちらへどうぞ。今、お茶をお持ちします。」

「あ、お構いなく。」

伊藤三郎さん、間違いなく本人だろう。見た所年齢は三十代半ば位だろうか。御家族の誘拐は本当なのであろう、伊藤さん自身かなり痩せこけている。食事も喉が通らないのであろう。余計な物を見せたくない性格なのか、この客間にはテーブルと座布団以外は何も無い。唯一ある物と言えば縁側の柱に吊るしてある風鈴くらいだ。

「…粗茶ですが。」

「あ、ありがとうございます。」

直ぐに【人魂化】を使用しても良いのだが、まずは大体の状況を知る必要がある。

「早速なのですが、事件について話して頂けますでしょうか?そして、今はどういう状況なのかも願わくば。」

伊藤さんは表情を変えずに話をしてくれた。

「…もう、半年前ですかね。」


ーーーーー

【一九八五年 三月】

その日は雪の降る日でした。

滅多に降らない雪に娘もはしゃいでいました。

「お父ちゃん!起きて!白くて綺麗!」

「恵…もう少し寝かせてくれ。」

「こら!寝坊助!」

娘は毎朝私の上に乗り、朝の弱い私を起こしてくれました。

「あなた、恵いないと寝坊してるわね。」

「そうだな、恵は良い子だ。」

こんな私には勿体無い程の可愛い娘でね。親馬鹿なんて言われたらそれまでですが、当たり前の日常が何だか楽しかったんです。

私が都内での仕事を終えた後、普段通りバスに乗って帰ろうと思ったのですが。その日は給料日という事もあって恵にお土産をと思ったんです。

「そういえば、新しく出たキャラ物の巾着を欲しがっていたな。」

私は大型スーパーで巾着とケーキを買ってからバスに乗りました。

どんな顔をするだろうと考えながら帰ったものです。

ですが、家に着いた時には私の家は既に荒らされていました。

門からでも見えました。玄関は壊され、数ヶ所窓ガラスは割れ。私は慌てて家の中へ急ぎました。

「恵ッ!!!恵ッ!!!明恵!!!」

家中を探し回りましたが、妻と娘の姿はありませんでした。

その時は動揺していたので、あまり状況を理解できませんでした。

タイミング悪く空き巣が入っただけで、二人は出掛けているだけであろうと思うようにする事もありました。

ですが、何時間待っても二人が帰ってくる事はありませんでした。

その後すぐに警察に相談をして、捜索願を提出しました。

警察の皆さんは捜索に全力を注いでくださいました。

しかし、手掛かりや証拠が何一つ出てこなかったのです。

刑事さんもお手上げ状態でした。

警察がダメなら私は私の出来ることをやろうと全力でやって来ました。

ですが、奇跡が起こる事はありませんでした。

やがて捜索は打ち切り、未解決事件として先月幕を閉じたのです。


ーーーーー

「気が付けばもう半年経っていました。何度願った事でしょう。数え切れない程に妻と娘の夢を見てきました。もう一度妻と娘に会えるのなら私は何だってする。愛する家族を取り戻せるのであれば命を掛ける事も惜しまない。そして、こんな事をした人間を私は絶対に許さない。」

既に伊藤さんの目は恨みの眼に変わっていた。

やがて溢れる涙は、孤独そのものを現していると言っても過言ではなかった。

猛暑の中、冷たいはずの涙は焼けるように熱かった。


アルミはポケットからそっと【人魂化】を取り出した。

「伊藤さんの想い、確かに受け取りました。」

【人魂化】は蒼く光り輝き、アルミを吸収した。

そして、蒼き光は伊藤三郎の胸へと飛び込んで行ったのだった。

次回

Stage2-2 伊藤 恵

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