Stage6-3 失われた過去
「…どういうことだ。」
女性はサン隊長を離さずにこちらに目を向けた。
「四つ目の歯車を持っているのは、こいつだ。」
衝撃の事実が発覚した。しかし、理解が追い付かずに困惑した状況が続く。
「…一先ず、サン隊長を離してくれないか。内容を整理したい。」
俺は女性に休戦を求めた。女性は手を離し、サン隊長へ魔法を掛けた。
「ノーエスッ!」
ノーエスとは、詠唱者から逃げられないようにする魔法である。
「…君は何者なんだ?」
「…ライト。元サンライト捜索部隊の副隊長。そして、この人の妹。」
ライトと名乗るその女性は、サン隊長を軽く蹴りながら答える。
「…サン隊長に恨みでも?」
ライトは、込み上げるように高らかに笑った。
「恨み?そんなもんじゃ済まされないよ。なんで私がこんな姿にならなきゃいけないのさ。」
ライトが両眼から赤い光を放つと森のキノコが動き出した。それらは全て歪な形であり、猛毒であった。キノコはサン隊長の周りを囲んだ。
「…こんな猛毒を大量に体内に入れたらどうなると思う?」
ライトは赤黒い瞳をこちらに向けた。
「…落ち着いて話をしたい。まずサン隊長、あなたは妹さんに何をしたんですか。」
サン隊長は黙り込んだまま何も答えなかった。
すると、ライトはその姿を見て溜息を吐く。
「…ほんと、何も変わってないんだね。あの時のまんま。裏切って逃げて見捨てたあの時の。何、まだ捜索部隊なんて続けてたの?妹を見殺しにした奴が隊長気取りですか。」
「…悪かったと思っている。でもあの時は、どうにも出来なかった。俺が無能なばかりに。だからその責任として捜索部隊を…」
「責任?責任って何?存続する事が責任なわけ?」
二人の口喧嘩は止まらず、俺は話に割って入る事にした。
「…キリ無いんで、どちらかその時の話を教えてください。一応僕も捜索部隊らしいので。」
サン隊長は無言だったが、ライトは「わかった」と距離を置き、木にもたれかかった。
「…あんたが話しな。」
サン隊長は頷き、俯いたまま語り出した。
「…アルミやリズが捜索部隊に来る二年くらい前の話だ。」
ーーーーー
二一一九年
俺達は一人の魔族と闘った。
そいつは、見た事のない獣の怪物。緑色の身体にこげ茶色の毛を纏っていた。目は赤く、牙は鋭い。恐らく2m級の大きさであった。
「ライトッ!行けるか!」
「うん!準備万端だよ!」
「頼んだ!はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
魔族だろうが何だろうが俺は怯まなかった。
強さだけが取り柄だった。
だが、それだけじゃ誰も守れない事を学んだ。
一人の隊員が魔族の大きな手に身体を掴まれた。
「やだぁぁぁぁッ!隊長ッ!隊長隊長ッ!助けてえ!早く!ああああああああぁぁぁッ!!!!!」
「…。」
この時初めて、人間が粉々にされる姿を見た。
俺達に降り掛かったのは火の粉だけでなく、血の雨を浴びる事にもなった。
勇敢な隊員の死体が転がった。
顔、上半身、四肢と順に魔族の手から零れ落ちた。
俺は二度とあの眼を忘れられない。
あの日から彼が夢で語りかけてくる。
「…隊長。痛いよ。なんで助けてくれなかったの。」
俺は不眠症になった。目の下のクマはその頃からついている。
「サンッ!下がってッ!」
我に返ると俺は既に魔族の手に収まっていた。
徐々に強くなる握力は、先程の隊員の死を思い出させた。
恐怖で押し潰されそうだった。
「や、やだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」
俺は情けない事にバタバタと暴れた。子供のように涙を流し、唾液を垂らしながら。
それを見たライトがすぐ様魔族の手に目掛けて走った。
素早い動きに魔族は対応出来ず、手首を切り落とされた。
魔族は大声をあげ、素早い動きでライトに襲いかかった。ライトも俊敏に対応するが、腹部に深い傷を負ってしまった。
俺やライトが倒れてしまった事で、他の隊員の戦意は喪失。逃げ出したまま戻って来なかった者もその場で殺された者もいた。
そんな時唯一立ち向かった女性がいた。
その女性の名は、アレク・マックフォード。
次回もお楽しみに!




