Stage5-28 悪魔討伐編 サンライト
メグミは墓地で会った男を連れ、アルミ達の入院する診療所へと到着した。
診療所は木造で今にも崩れそうな状態だ。
診療所に入り受付の女性と目が合う。互いに軽く会釈をし、その場を横切って行く。何度も面会に来ているおかげで受付は不要となったのだ。
入院部屋をノックすると、中から「どうぞ」と聴こえた。
「お兄ちゃん、なんくるさん。」
「おお、メグミ!丁度どうしてるかって話してたんだよ!」
なんくるが明るく語り掛けるとメグミはモジモジと俺の方を見ていた。
「どうした?」
「…あの、お兄ちゃんにお客さん。」
「客?」
メグミの背後から強面の大柄男が現れた。
「…アルミ。」
俺は目を疑った。
「サン隊長!?」
俺のベッド脇にサン隊長が座り、メグミはなんくるの元へと行った。
「お久しぶりです。こっちに来てるって前にリズから軽くは聞いてました。」
「そうか。お前達、悪魔倒したんだってな。すげぇじゃねぇか。」
「…どうも。」
サン隊長は無駄な世間話をするような人ではない。俺は何かあったと察し、それとなく会話を誘導した。暫くは相槌のみだったが、徐々に進展した。
「…アレクが死んだ。」
「…あのアレクさんがですか。」
「…あぁ。」
「なんで死んだんですか?」
「…それは。」
サン隊長は口が篭り、言いにくそうにしていた。だが、何となくは分かった。以前リズに、サン隊長の独断行動が多く、捜索部隊も困っていると聞いたことがある。
「サン隊長、独断行動でもしたんですか?」
「…まあ…そうだな。」
「…そうですか。」
俺はベッドに座った状態で、サン隊長の頬を叩いた。パチンッという音が室内に響く。
「…まぁそうだなじゃないですよ。分かっているなら、何故考えを改めなかったんですか。」
サン隊長は俯いたまま、唇を噛み締めていた。
「…俺は死にかけたんだ。その際、あいつが身を呈して俺を助けたんだ。敵が悪かった、上位悪魔なんかに出くわさなければこんな事には。…でも分かってるさ、自分の誤った行動のせいだって。俺が無能なばかりに、仲間は全員死んだ。」
「…ちょっと待ってください。じゃあ生存者は、サン隊長だけなんですか?」
サン隊長は静かに頷く。絶対的勢力と戦闘に長けた捜索部隊サンライトが壊滅したと言うのだ。
「…もうサンライトを名乗る資格も立場も無いのさ。」
静まり返る空気にサン隊長は周囲を見渡す。
「…おい。そういえばリズはどこだ?」
俺はふいに目を逸らしてしまった。そんな俺を見たサン隊長は、なんくるやメグミを見るも同じ反応で察しがついた。
「…マジかよ。あのリズまで。」
「今回の悪魔討伐は多くの死者を出しました。そこにいるなんくるの仲間もメグミの母親や弟も皆死んだ。だから、サン隊長の気持ちは分かります。」
「…アルミ。」
サン隊長はこれまで堪えていた分の涙を流した。一人で抱え込んでいた重い荷物は、少し軽くなったようだ。
「それで?アレクさんの報告だけで来たわけじゃないでしょ?」
俺は病院飯を頬張りながら、サン隊長の方を向く。
「…ああ。俺は北の地からここまで歩いて来た。悪魔が消えた事で人類の抱えていた問題はめでたく解決したんだが、別の問題が浮上してな。」
「…自然破壊。」
なんくるがボソッと話を遮る。
「そう、彼の言うように自然破壊による損害が大きい。生物はほとんど死に、草木は枯れ、海や川も汚れた。お陰で希望の米や野菜なんかも育たず、食べ物が枯渇しているんだ。今は備蓄で何とか生きているが、それも限界が来るだろう。」
「それで?何がしたいと?」
サン隊長は立ち上がり、ベッド足側へと移動した。そして、その場で勢い良く土下座を披露した。
「頼むッ!浄化の手伝いをしてほしいッ!」
俺を含め、他二人も息を飲んだ。
「…なぁ、サン隊長。分かってるのか?日本を、いや世界を隅々まで見て回る事になるんだぞ。なんなら途中で死ぬ可能性だってある。なんの宛も無く、浄化だけの為に命は掛けられない。」
「…宛が無いわけじゃないんだ。」
サン隊長は険しい表情でこちらを見上げた。
同時に俺の全身の傷を見渡した。
「だが、まずは怪我を治さないとな。一ヶ月後、また来る。」
サン隊長は立ち上がり、そのまま病室を出て行った。
「…忙しないおっさんだな。」
「…一ヶ月で治るかって話だけどな。」
…一ヶ月後。
病院食をしっかり取り、適度なリハビリを重ねた結果。
「…治ったんだが。」
サン隊長も驚いた表情を浮かべ固まっていた。
「…様子を見に来るつもりだったが、まさか完治するとは。」
なんくるも当然のように横に立っていた。
そして、俺達三人はサン隊長に視点を向ける。
「…一先ず…話聞くよ。」
次回もお楽しみに!




