Stage5-25 悪魔討伐編 屍を超えた未来
「ここは…?」
そこは見知らぬ水の上であった。
何処かの湖だろうか。
風もなければ、水の音もない。
凪となった湖面は鏡のように静かで、自身の不細工な表情を反射させている。
「…誰かいないのか!」
無情にも声は遠くに消えていくだけだった。
試しに歩いてみるも、景色が一向に変わらない。
それは走っても同様であった。
何処に行っても孤独という事を表しているようで、俺はこの空間に吐き気を催した。
「…辛いの?」
突然、背後から声が聴こえた。
でも、恐怖は感じなかった。
「…大丈夫?」
それは優しく、どこか懐かしい声。
声の高さからして女性だろう。しかし、その声に聞き覚えは無かった。
振り返ろうとすると彼女は俺の頭を押さえる。
「…駄目。あなたはまだこちらを向いてはいけない。」
「…どういうことだ。」
「…大丈夫。ゆっくり目を閉じて。」
その女性に言われた通り、ゆっくりと目を閉じた。
「次に目を開けたらそこは元の世界。貴方が倒さなければいけない相手がそこにはいます。天使の後継者アルミよ、この世界の歯車を…市村を…止めてください。神の御加護があらん事を。」
再び目を開けるとなんくるとちむじゅらが血を吐きながら、傷だらけの状態で立っていた。向かい合う市村は、龍のような姿で高らかに笑っていた。
そしてアイネ達も合流しており、他の悪魔の相手をしている。
皆が闘っている中、何故俺だけ意識を失っていたのか。
そんな事を考えているとなんくるが俺に気づく。
「アルミ!無事だったのか!」
ちむじゅらやアイネ達も安堵の表情であった。
何があったかよく分からないが、苦戦している事に間違いはなかった。
「…市村清子。もう終わりにしよう。」
「フンッ!倒せるものなら!」
市村は俺に襲いかかろうとしたが、すぐに足を止めた。
「…なんだ?」
「…動きが止まった?」
なんくるとちむじゅらは戸惑っているが、俺にはどうして立ち止まったのかよく分かっていた。
俺の髪は白髪となり、背中には天使の翼が生え始めた。脳天には天使の輪が浮かび、服装は全て白へと変わった。両手を広げ、宙に浮かびながら市村と目線を合わせる。
「…流石だ。今近付いていれば、お前は死んでいた。」
「…クッ。」
市村は動揺を隠しながら、悔しそうな表情を浮かべていた。
「市村、考えてみれば長い旅だった。でも今日で全て終わるんだ。」
「終わる?貴様は何を言っている!貴様ごとき、私の敵では無いわッ!」
市村は龍の鉤爪で攻撃を仕掛けるも、今の俺に攻撃は通らなかった。
「な!?何故だ!?」
「…我が名はアルミ。熾天使だ。」
「熾天使だと!?」
【熾天使】 最上位の天使。セラフィムとも言う。
「…まさか、あいつが熾天使様になるとは。」
「全く…呆れた奴だ。」
ちむじゅらが驚く横で、なんくるは微笑んだ。
悪魔を切り続けるアイネも手を止め、アルミへ心配の視線を送った。
「…お兄ちゃん。」
「…アルミさん。」
メグミやダイスは手を止めて俺の姿をまじまじと見ていた。
「…この力は俺だけのものじゃない。ユウヤやリズ、歴代の天使達の力が培って出来たものだ。」
「熾天使になれたからと言って、お前が熾天使の力を使えるとは限らない!」
俺は市村へ手を向けた。
「…出来ることなら話し合いたかったが。」
やむを得ず、市村の首に鉄の首輪を出した。
「っ!?なんだこれは!」
鉄の首輪には光の文字が刻まれ、市村の動きを封じた。
「…我が翼の寿命を賭けて、あなたの命を頂戴する。熾天使の名において、悪魔による支配に終焉を迎えようぞ!天壊ッ!」
光は首だけでは収まりきらず、市村の身体へも影響した。顔から足の先までヒビの入った氷のようになっていた。次第に光はステージや地面、壁にまで連なった。最後には会場をも包み込むように光で埋め尽くされていた。
「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
何かが剥がれる音とガラスが割れるような音が響き渡り、俺達は光と共に飲み込まれたのだった。
次回もお楽しみに!




