Stage5-24 悪魔討伐編 紫陽花
「…悲しいな。人が死ぬのは。」
短剣を両手で抱え込んでいるとフードの男が近くに立っていた。
顔をあげるとフードの下から顔が見えた。
男は色白で青髪、そして青い眼でこちらを見つめる。その眼は、例えるならば冷酷。
「…そんな事、悪魔は思うのか?」
「そうか。君の目には私が悪魔に見えるのか。」
「どういう意味だ。」
再び顔をあげると男はフードを外していた
「なんだ……その眼は……。」
「…元は哀れな老耄でな。可能ならば君じゃなく。」
男は遠くにいるなんくるを見ていた。
俺は静かに立ち上がり、その場を離れた。
「…おい。どうした。」
なんくるは不思議そうな表情で俺を見つめていた。
「…お前をご指名だ。」
なんくるは青髪の男を凝視した。
何かを察したのか、なんくるは無言でステージの上へと上がった。
赤髪の男と青髪の男が向かい合った時、二人の身体からは炎が舞い始める。紅炎と蒼炎は時折中心で混ざり合い、間に入るように会場の隙間から陽の光が射し込んだ。光は炎を照らし、それは一輪の花が咲いたように美しく咲いた。
俺だけでは無い。それは観客さえも魅了させるパフォーマンスであった。
しかし、その二人は一言も言葉を交わさずに戦闘態勢に入った。
紅の武闘家と蒼の武闘家の闘いは、アナウンスの合図を待たずに始まった。
空中で殴り合いを繰り返し、互いにやられてはやり返してを繰り返す。
二人にしか分からない因縁の対決は、そう長くは続かなかった。
青髪の男が突然両手を挙げた。
「…参った。降参だ。」
これには会場全員が驚きの反応を示した。
闘っているなんくるや、同チームの市村でさえ予想外の表情をしている。
「どういうことです。」
「…パフォーマンスはここまでという事じゃ。それにしてもなんくる強くなったな。」
なんくるは頭を掻きながら照れ隠しをしていた。
「いや、そうじゃなくて!パフォーマンスって何ですか!」
俺はなんくると青髪の男に近付いた。
「…全てはあいつを倒す事が目的じゃろ?」
……じゃろ?
「…あの、二人のご関係は?」
二人は顔を見合せて「あ。」と声が漏れていた。
「実は、俺の故郷の元長老。ちむじゅら様。」
なんくるの村がカバネに侵略されかけた時の話に出てきた長老であった。俺はなんくるの説明で漸く思い出した。
「なんで、長老様が悪魔に?」
「…言っただろう。哀れな老耄だと。」
その一言で俺はなんくるの話を思い出した。
長老は悪魔と契約を交わした事で人間から悪魔に生まれ変わったのだ。
「とは言っても。老耄の時の記憶はさっき思い出したのだがね。」
どうやら長老は心を読み取る能力を持ち合わせているらしい。
「さっき?」
「…あぁ。先程のサスラーと闘かったあの娘。あの娘は天使の後継者じゃな。彼女の放った光には、本来の自身の姿や記憶を呼び覚ます力もあるのじゃよ。」
「なら、ちむじゅら様の他にも…。」
ちむじゅらは深く頷いた。観客席を見るとまだらではあるが、立ち上がってこちらを見続ける者が複数いた。
「…彼等は皆、何かを理由に悪魔にされた哀れな者達。どんな理由があっても、悪魔と契約してはいけないのじゃ。たとえ大切なものを守るためでもな。」
「でも、契約させてしまう状況にしたのはあいつら悪魔だ!」
なんくるの言葉は会場中に響き渡り、元人間の悪魔達を奮い立たせた。
「そうだ!俺達は好きでこんな姿になったんじゃねぇ!」
「家族を守るためだッ!」
「お前らに俺達人間の気持ちが分かってたまるか!」
「消え失せろ!悪魔ぁ!」
「あんちゃん達は人類の誇りだ!」
「市村を殺してくれぇっ!」
観客の声援は悪魔達を唸らせた。元人間の悪魔達は、微かに元の姿に戻りかけていた。
「おい!まさか人間に戻れるのか!?」
「ハハハッ、奇跡だ!」
「人類はまだ倒れてないわい!さぁ、市村ッ!決着を付けようぞ!人類か!悪魔か!」
市村は大きく黒い翼を広げ、ステージの上へと舞い降りた。その重圧感で俺達は飛ばされそうになる。耐えながらも殺意の眼を見つめ続け、最上位の悪魔と闘う決意を固めた。
「全員まとめて掛かって来いッ!皆殺しだぁぁぁ!!!」
市村は本来の姿へと戻った。その姿は、まさに悪魔の王であったが、顔容は龍のようにも見えた。
『こ、こ、これはなんという展開!悪魔チーム最後の砦、市村清子が舞い降りたぁ!しかし…何でしょう…私も元人間…だったようです。…ですが!最後までこの仕事をやりきりたいと思います!ここまでくればルールは無用です!それでは、アルミ!なんくる!ちむじゅら!人類の命運は彼等に託された!最後の闘い…開始です!』
次回もお楽しみに!




