Stage5-20 悪魔討伐編 さよならは突然に。
「…次、私が行くよ。」
さーたーはステージへと上がる。
相手は身体が大きく、見ただけで分かる程にボディビルダーのような筋肉量だった。色黒で短髪、男前な顔立ち。一言で表すのならば、消防隊員の格好をさせると映そうという感じだ。
「さぁ!お姉ちゃんが相手かい!この試合が終わったらお兄さんの部屋に来るといい!夜まで沢山試合をしよう!」
高らかに笑うその姿は、セクハラ発言をしている自覚は無さそうだ。同時にさーたーの表情は、見た事のない程の拒絶表情を晒していた。
「なんだい?声が出ない程に嬉しい?では、少し早いが…」
なんとその男は、公衆の面前で全裸になったのだ。
鍛え上げられた肉体は見事だが、その…。
さーたーの火力最大の炎は、イチモツを燃やし続けた。悶え苦しみ謝罪をする男をさーたーはただ見下ろし続けるだけだった。
イチモツが灰となる頃には、男の意識は無くなっていた。
『…ひょ、中堅戦は…さ、さ、さーたー。勝利。』
アナウンサーは、震えながら股間を押さえていた。
「…世界一無駄な闘いだったね。」
副将戦を控えたリズにさーたーは宥められていた。
『皆様!なんくると愉快な仲間たちが三勝しましたので、現時点をもってこの試合は終了とさせて頂きます!』
歓声と共に俺たち【なんくると愉快な仲間たち】の初戦は勝利で幕を閉じた。
観客席で見ていたメグミやダイスと合流し、村の酒場へと向かった。
俺達は食事を済まし、珈琲を飲みながら談笑していた。
「あの沖縄での事がつい最近に思えちまう。もう五年も前の話なんだよな。」
「…そうだな。なんくると一緒にいる事が多かったが、その後に連合隊のさーたーと出会ったんだよな。」
「懐かしいね。あの時死にかけてたからね。あなた達が来てくれて助かったのよ。」
四天王カバネ討伐の思い出話を咲かせていると、さーたーの背後にカバネが現れた。
「何やら楽しそうにしているが、いつぞやの敗北者ではないか。」
カバネは俺の顔を見て馬鹿にするように鼻で笑う。
「…何なら今からやり合うか?今ならお前をどんなようにでもしてやれるぞ。」
俺の視線にカバネは冷や汗をかいた。バレないように誤魔化しているが、目の泳ぎを見るに圧倒的なレベル差だったのだろう。「今日の所は許してやる!」と言い放ち、カバネは姿を消した。
「一応確認しておくが、ユウヤは死んだんだよな?」
「…あぁ。間違いなく死んだよ。」
「…そうか。」
ユウヤと唯一良い勝負をしていたのはなんくるだけだ。ユウヤの強さを持ってしてもあの悪魔には勝てなかった。レベルやその時の状態にもよるが、ユウヤにとって相性が悪かったのだろう。それにあのユウヤが自ら前に出たという事は、他の者では何も出来ず死んでいた可能性が高い。
無言で一点を見つめながら考え込んでいると、アイネが俺の頭を軽く叩いた。
「考えても仕方ないだろ。今は悪魔を何とかするのが先だ。」
「そうだよ!お兄ちゃんと私達ならいけるって!」
俺は二人の表情を見て少しだけきつく締められた心が緩んだ気がした。
『いらっしゃいませ~!!』
来店した客に店員が挨拶をする。その声は大きく、店内の隅々まで響き渡る。見る気などなかったが、ふと入口を見ると見覚えのある女が立っていた。そしてーーー。
「あらぁ♥みいつけた♥」
「市村ァァァァァァァァァァァァッ!!!!!」
俺は椅子を蹴り飛ばすと同時に市村清子に斬りかかった。
だが、俺の刀を片手で軽々と受け止めてしまった。
「相変わらず物騒ねぇ。」
「何故ここにいる。…まあいい、貴様を殺す為に遥々北海道まで向かおうとしていた所だ。だが、その手間が省けたよ。ここで全て終わらせてやる!」
「…良いわよ。だけど、生憎こちらは三人しかいないのよ。」
そう言い、市村清子は「あ!」とさーたーの元へと向かった。
「…なんですか。」
「…貴方の中にカバネがいるわね♥それに、あなたにはプレシャスが。」
さーたーを見た後、市村は不気味な笑みで振り返る。そして、再びさーたーと向かい合った。
「…それが何か。」
「カバネやプレシャスは裏切り者。でも、どちらかというとカバネが居るのは厄介なのよ。」
市村はさーたーの胸に手を置いた。そして…
「ごめんなさいねぇ♥」
なんと市村はさーたーの心臓を抉って取り出したのだ。
さーたーは倒れ込んだ。失った心臓の穴からの出血が止まらず、口や目からも出血し始めていた。呼吸の出来ない状態でピクッピクッと動いている。
なんくるとリズがすぐにさーたーに駆け寄り、涙目で声を掛けていた。
「さーたーぁ!しっかりしろ!さーたー!」
「やだぁ!やだよ!さーたーぁ!」
さーたーの意識が遠のいていく。さーたーは、笑顔で二人の頬に触れた。
「…タノシカッタ。」
ほぼ吐息に近い言葉を最後にさーたーは息を引き取った。
「やだあぁぁぁァァァァァァァァァッ!!!」
「…さーたー。」
リズは泣き続け、なんくるは顔を埋めたままさーたーを抱え続けている。
「…なんで殺した。殺す必要なんて無かったはずだ。」
俺は、市村に問い掛けた。
「言ったでしょ。彼女もカバネも邪魔だった、厄介だったのよ。」
「…あぁ、そうか。そんなくだらない理由でさーたーが死ななきゃならねぇなら、どんな手を使ってでもてめぇを殺したっていいよな?」
俺が市村を睨み付けると同時に、なんくるとリズもこれまでに無いほど殺意で溢れていた。
「良い目だわァ♥じゃあ、試合で決着を付けましょ。大会の運営には伝えておくから。」
そう言い、市村は店から去っていった。
なんくるはさーたーを抱え、それに続くように俺達は店を出た。
次回もお楽しみに!