Stage1-2 クソゲーじゃねぇかッ!
Stage1-1の続編です。
多くの方にお楽しみ頂けると光栄です。
市内には【わくわく大国】という新作ゲームに限らず、数多くの中古ゲームを取り扱っている大型店舗が存在する。
他にもゲームセンターや漫画、フィギュアなど全国のオタク達の宝庫のようなお店だ。
そんな宝庫が自宅から片道五分で来れるのだから、俺の財布の中はいつも寂しい。
ここの常連で何かと世話になっている訳だが、【来あり】もここで購入したのだ。
『わくわく大国へようこそ〜♪』
いつもの明るい音楽が店内を賑やかにしている。
ゲームセンターやスロットをプレイするお客さんも多く、いつでもお客さんが多い。
ゲームの販売も様々で本体やゲームソフト、コントローラーや配線関係の物まで取り扱っている。万が一故障や欠陥品があっても最悪何とかなる。
一通り紹介の終わったところで俺の目的のPiiSIVVRMMOのコーナーへと向かう。
ゲームソフトはあかさたな順に並べてあるので、今回は【か行】だけを見ていくこととする。
「今世…今世…こ、こ…あったっ!」
【今世は幸せでありますように!】
パッケージは比較的近代的な絵柄になっており、五人の男女をかっこよく描いてある。
裏にはゲームのあらすじが簡単に書かれている。
― 未来の絶望を希望へと変えるのはあなた…。
二一二一年 世界は破滅を迎える。
世界を支える宙に浮かぶ歯車。
あなたは過去へと遡り、その歯車を起動させる旅に出る。
出会うことの無い仲間や敵と闘い、ミッションや謎を解決するのです。
あなたの選択が未来を変えます。
真実を突き止めるのは、あなた自身です。
五十年の時を超えて【来あり】が【今あり】となって帰還。
さあ、あなたのアドベンチャーゲームが今始まる!
「これだ…間違いないっ!」
パッケージに夢中になっていると近くに視線を感じた。
「三日ぶりだな…お前もう【来あり】クリアしたわけ?」
「あ、仁さん!」
彼はわくわく大国の店長、斑目 仁さん。
この店の常連ということもあって、俺に適したゲームがあったらいつも紹介してくれる。
まあ【来あり】に関しては文句を言いたいレベルだが、お陰で【今あり】を知る事も出来たから良しとしよう。
「【来あり】は無理ゲーっすよ。何すかルート123通りって。その内トゥルーエンドは一個っすよ一個ッ!」
「あぁもう…うるせぇな。クソゲーやりたいって言ったのはお前だろ。」
確かに、クソゲーをご所望したのは俺だ。
普段は神ゲーばっかりやってるせいか、根性が足りなかったのかもしれない。
だが、今はそんな事はどうでもいい。
今の俺には【今あり】しか眼中に無いのだから。
「でもお陰で【今あり】に出会わせてくれたからチャラっす!早く帰ってプレイしたいんで!それじゃっ!」
「あ、お前、ちょっと…!」
斑目仁は【今あり】経験者。
このゲームの問題点については当然認知していた。
「まあ、夏休み前だろうしそんなに時間は掛からんから大丈夫か…。」
ゲームソフト購入後、有海浩太は直ぐに自宅へ戻った。
【今世は幸せでありますように!】中古750円。
自宅へ戻った俺は、直ぐに母親の元へ向かった。
「母さんただいま!新しいゲーム買ったから晩飯は後で食べるからそのまま置いておいて!」
「えっちょっと浩太!?」
母親の返事も聞かずに部屋に戻りゲームを取り出した。
ソフトをPiiSIV本体に差し込み、VR型ゴーグルとPiiSIV本体と有線で繋ぐ。
『VR型ゴーグル装着中。PiiSIV接続完了。【今世は幸せでありますように!】の挿入が確認されました。ゲームを開始しますか?』
音声と共に目の前に文字も現れる。
VR型ゴーグルを装着してのゲームは久しぶりだ。
迷わずに【はい】を選択した。
『認証完了』
目を開けるとそこは白い空間だった。
『【今世は幸せでありますように!】へようこそ。プレイヤーネームの設定をしてください。』
有海浩太のプレイヤーネームは毎回変わるが、ここ最近は一律である。
【アルミ】
始めは【ホイル焼き】と迷った。
『この世界のプロローグや操作方法を確認しますか?』
【いいえ】
アルミこと有海浩太は説明書を読まないタイプである。
『それでは、ゲームを開始致します。※注意、本作はクリアするまでゲームを終了出来ないことをご了承ください。』
「…はっ?」
聞き捨てならない事をAIが話すも、有海浩太の言葉を最後まで聞くことはなかった。
ーーーーー
【廃都会屋上】
『ミッション~此処はどこ?~』
『ミッションが発生しました。ミッションをクリアしなければ物語は進行しません。尚、アイテム等のドロップは可能です。ダメージの適応もありますのでご注意ください。』
視界には既に崩壊した大都会。
まるで、大型戦闘機に攻めて来られたかのような状態だ。
ビルの下には地割れ後の道路が見え、廃車同然の車があちらこちらに散らばっている。
曇天、黄土色の空とは尋常ではない。
「そんな事より…」
慌ててログアウトボタンを探す。
AIの言っていた通り、ゲームはクリアするまで辞められないようだ。
先程お伝えしていたように、有海浩太は説明書を読まない。本作のパッケージだけでなく、ネット情報にも注意書きはされていたのだ。
つまり、自業自得である。
「やっぱりクソゲーじゃねぇかッ!!!」
悲痛の叫びは決して空の色も変えてはくれなかった。
「やっぱりここに居た。どうしたの?」
後方から声が聞こえ振り返ると、そこには金髪美女が立っていた。年齢は高校生くらいだろうか。
「君は…」
「…こんな状況だもんね。戸惑うのは当然。私が妹って事も忘れちゃった?」
有海浩太ことアルミは心臓がきゅっと張り裂けそうになった。
「ツインテ金髪美女妹きたぁぁぁぁぁぁぁっ!」
彼は気付いていなかった。
金髪美女妹の表情が既にドン引きであったことに。
次回
Stage1-3 【悩】と【謎】、そして【事件】