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【Final Stage】心の空が表すこと


キーンコーンカーンコーンッ


このチャイムは、午後の授業の始まりのチャイム。

四時間目の体育で力を使い果たし、昼飯をたらふく食べた俺は、気持ちよく屋上で日向ぼっこをしていた。

そう、授業など鼻から受ける気はなかった。


「あ、やっぱりここに居た!」

屋上の入口から鬱陶しい声が響いてくる。

「源先生カンカンだよっ!こんな所で何してんの!」

「…美波か。水色パンツ晒して何の用だよ。」


パチンッ!!!


人の顔の真上から見下ろしているのだ、当然パンツの一枚や二枚見えるに決まっている。


「理不尽だっ!」

「うっさいばーかっ!日光に焼かれて死ねっ!」

ボロボロのドアを勢い良く閉めた事で、聞いた事のない音が響き渡った。


俺は再び屋上の真ん中に寝っ転がり、広大な空を見ていると雲が動くようにゆっくりと欠伸が出た。


「…人生つまんねぇ。」


そっと目を閉じて次に気が付いた時には、街は橙色に照らされていた。

身体をゆっくりと起こし、背中に軽い痛みを感じた。硬い床で寝ていた代償だ。


「はぁ…帰るか。」

「もう帰るのか?そんなに焦るなよ。」

俺は後方から聞こえた声に驚き、すぐ様振り返った。

屋上の入口は小さな小屋のように囲われている。その上に短髪で目つきの悪い男が足を組んでこちらを見ていた。


「…見ない顔だな?誰だあんた。」

「俺が誰とかどうでも良いんだよ。それよりお前だよ、林原仁也。」

その男は入口の屋根から飛び降り、ゆっくりと俺に近付いて来た。

「なんで俺の名前知ってんだよ。」

「そりゃあ知ってるよ、古い仲じゃないか。」

「は?俺はお前の事なんて…」

「知ってるよ、絶対に。忘れているだけだ。」

男は食い気味に話を続けた。自慢じゃないが、俺は一度話した奴の事は忘れない。間違いなくこんな男知らないのだ。


「納得いかないって顔をしてるな。よし分かった、今からお前に本当の世界を見せてやる。」

「…本当の世界?」


男は空に手を翳した。空が吸い込まれるように橙色は紫色へと変わった。そして、目の前に水色のコードや数式が無数に描かれた。それらは男と俺を包み込むように囲った。コードや数式から目が眩む程の光を放ち、俺は一瞬目を閉じてしまった。


次に目を開けた時、俺は一人の男の生活を眺めていた。

その男は目が覚めるとすぐにゲームを始めた。ゲームの世界から出てくるまでには数時間掛かり、ゲームが終わったと思えば新たなゲームを求めて店舗に行ったり、お菓子を食べたりと不規則な生活を送っていた。


「彼を知っているだろう?」

「…いや、知らない。」

男は鋭い眼差しでこちらを見つめてくる。

「…いや、本当に分からない。」

「彼の名は有海浩太、お前と同い年の高校二年生。彼と君が出会ったのは、一つのゲームだった。」

「…ゲーム?もしかして…」

男は一つのゲームの箱を取り出す。

「…そうだ、このゲーム。このゲームをやった時、同級生に彼が出てきた。そして、確か俺が…。」

「そう、君は彼を殺したんだ。最も残虐なやり方で、彼をあの世界に閉じ込めようとしたんだ。」

俺はゲームの箱を床に捨てた。

「たかがゲームだろ?それがどうしたって言うんだよ。」

「そのゲーム、もし死んでしまったら自分の力では決して出て来られない。永遠にあの世界での生活を送る。死んだらまた同じ人物としての人生をやり直す。まあ今はそれなりに楽しそうに過ごしていたけどな。まさかゲームの中でゲームをやり始めるとは思わなかったけど。」

俺は頭が追いつかない程にフリーズしていた。ゲームの中に人間が閉じ込められるなんて、アニメやゲームだけの話だと思っていた。それが現実で本当に起きてしまっている。


「ちなみに有海浩太は君と同じ学校の生徒ね。」

「いやいやっそれはないっ!」

「本当だよ。それだけ彼の記憶が無いんだろ?もう彼はあの世界に染まり始めているってことさ。」

「ちょっと待ってくれよ。だったら何だって言うんだよ。俺にもう一度そのゲームやれって?そいつを助けろって?」

男は真顔で俺の胸ぐらを掴んできた。

「知らなかったとはいえ殺す必要あったのか?また昔みたく、逃げ出すのか?」

「その昔ってなんだよ!俺はお前の事なんて知らねぇよっ!」

すると、男は幻滅したような表情を見せ、一つの冊子を床に放り投げた。俺は腰を下ろし、冊子に手を付けた。


「…このゲームの被害者にあった奴等のリストだ。約十人程、その内数人は俺が救い出した。今ならまだ間に合うはずだ、少なくとも自ら殺めたプレイヤーの命だけは救ってやれ。今、このゲームを持っているのは、全国で俺とお前だけなんだ。」


俺はこのゲームを発売した会社に何があったか、偶然知っていた。基本ゲームに興味は無いが、この会社だけは何故か目に止まった。問題大ありだと把握したこのゲームを回収し、やむを得ず廃業したとか。しかし、その回収は義務ではない、任意なのだ。任意の内、返却しなかったのは俺とこの男だけらしい。


「お前は選ばれたんだよ。このゲームに。」


正直、今すぐにでも帰りたい。こんな訳の分からない事から今すぐにでも開放されたい。だが逃げた所でこいつはすぐに俺を見つけ出す、そんな気がしてならなかった。


「…わかったよ。やれば良いんだろやれば。」

「協力感謝する、俺は丸山。」

俺は丸山という男と握手を交し、契約を結んだ。

次第に景色は代わり、元の屋上へと戻ってきた。


「目的は一つ、物語を進めて被害者を救う。これだけだ。」

「…そんなに簡単な事なのか?あのゲームをやった時、思い通りに進まなかったぞ。」

丸山という男はクスクスと小馬鹿にするように笑っていた。

「そりゃそうさ、そう簡単に上手くいくならお前を誘っていない。被害者は残り七名、当然どのタイミングでそいつらが出てくるかは分からない。」


だが、俺にその被害者を救う義務はない。


「くれぐれも危険な行動は控えるように。絶対死なない事、そして最後は被害者を連れてエンディング前に出現するゲートを潜れ。」


何故こんな面倒な事になってしまったのか。急展開に頭は全く追い付いていない。

それはまるでこの世界が既に偽りの世界で、気付かぬ内にゲームの世界に引き込まれているように。

橙色の空は次第に暗くなる。それはまるで俺の心のようであった。翌日が晴れなのか雨なのか、はたまた嵐が襲うのか。

何の保証もない厄介事に俺は足を踏み入れてしまっていたのだった。


【今世は幸せでありますように!】最終話!今までご愛読ありがとうございました!

続編作品【前世は幸せでありますように。】をお楽しみに!

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