Stage12-12 格ゲーと後輩と恋の兆し?
十二月二十四日 二十時
ふわりふわりと雪が降り、夜の街はイルミネーションの光彩がより一層輝いて見える。そう、今日はこの世界での年一回の特大イベント、クリスマスである。豪華な料理やケーキを食べ、暖かい布団の中でサンタクロースからのプレゼントを待ち侘びる子供達。カップルと過ごし特別な日にするも良し、家族で過ごすも良し、そんな素敵な時間を過ごすのが今日なのである。
そう、この男以外は…。
「この格ゲーがクリスマスイベントやるなんて、運営もどういう風の吹き回しだ?」
風に靡く青髪のロングヘアーは、引き締まったボディに目もいかない程に派手である。そんな青髪の横には、短髪の赤髪には目もいかない程に鍛え過ぎた胸筋があった。
「格ゲーって呼べる程の代物か?言っておくが、これもクソゲーの一種だからな?」
クソゲーと言いながらも胸筋ドラムロールをコントロールしていた。
【バトル・オブ・ザ・チキン!!】
VRMMO初の格闘ゲーム。発売当初は全国のプロゲーマーや腕利きが歓喜に溢れ返った。しかし、当時のネット回線では容量が重かったのか、多大なるバグが生じた。例えば、フィールドが真っ白で誰もいない、対戦相手が決まるも相手は何故か人型のタコ、武器を装備したと思えば魔法ステッキ。人類のほとんどが中断した伝説のクソゲーなのだ。
「あれから年数も経ってネット回線も良くなったんだし、もうこのゲームはクソゲーとは呼べないよ。」
「そうか?クソがマシになっただけじゃないか?」
「そんな事より、イベント開始してもう三時間経つよな?何で誰もいないんだ?」
「世の中はクリスマスイブなんだ、こんなゲームやってるのは有海、お前くらいだろ。」
呆れたように話す赤髪の大型男に俺は全力で左頬を引っぱたいた。
50ダメージッ!
「おい!殴んな!体力100しか無いんだぞ!」
「うるせぇ!全国共通だ馬鹿野郎ッ!」
謎の争いが始まった。しかし、誰かが見ている訳でもない。これが本当の醜い争いである。
「…殴り合っただけで死にかけるじゃねぇか。」
「…うるせぇよ、HP3。あとワンパンチでKOだからな?」
「お前も大した変わんねぇだろHP5。先に攻撃しておいて何で大した差が無いんだよ。」
なんやかんやで仲の良い二人は、今日もうこうして意味の無い事に全力なのであった。
「なぁ、そろそろ解散しね?多分誰も来ねぇよ。」
「そうだな。」
青髪ロングヘアー男と赤髪の大型男は、ログアウトボタンを押して姿を消した。
目を開けると見慣れた空間のベッドに横たわっていた。VRゴーグルを取り外し、溜息を吐きながらスマホを起動させる。
あの一件からもう五ヶ月が経過していた。
【株式会社 パワフルV】はあの日を境に全国の店舗からゲームソフトを回収した。人の命が掛かったゲームを作っていた事で、【株式会社 パワフルV】は廃業となった。【今あり】シリーズは、本当の伝説のクソゲーになったのだ。
そして、今回の事件の主犯格の【斑目 仁】。【株式会社 パワフルV】の通報により、【斑目 仁】は警察に連行された。しかし、ゲームの中での違法行為であり、現実で犯罪を犯した訳では無い為、数日後に釈放された。
被害にあった若林初佳の両親は、その結果に当然納得する事が出来なかった。現在は訴訟やら示談やらと大変な事になっているらしい。
一方、【斑目 仁】が店長をしていた【わくわく大帝国】も【株式会社 パワフルV】と同時期に廃業となった。お店での利益を全額、慰謝料や初佳の治療費に充てたとの噂だ。
犯罪で無いとはいえ、俺は【斑目 仁】を一生許す事は無いだろう。
『ピコンッ』
数ヶ月前の出来事を思い返していると、タイミング良くメッセージアプリに一件の通知が届いた。開くとそこには【かずは】と画面に映し出されていた。
『先輩っ!メリークリスマスです!私は今、絶賛バイトの小休憩中です(笑)二十一時には終わるんですけど、先輩今日はご予定ありますか?』
前原和葉、以前偶然話すようになった後輩だ。そして驚いた事に、【今あり】では妹のリズであった。【今あり2】で若林初佳を救出した後、あの場にいた全員が夫々連絡先を交換したのだ。
「イブに女の子と二人…夢か?」
俺は迷う事無く「暇です。」と返信した。
一分で返ってきた返事を見て、俺は颯爽と準備に取り掛かった。
街の広場、その中心には大きな一本杉が設置されている。毎年クリスマスイブが近付くと、この場所に設置されるのだ。
そして、この一本杉には言い伝えがある。
ここで告白すると成功するという伝説だ。
「…○○メモかよ。」とニヤニヤしながら、オタク全開フェイスで前原和葉と待ち合わせをしている。
「先輩っ!お待たせしました!」
「お、おう。全然待ってないよ。」
「急に呼び出してすみません。先輩に伝えないといけない事があったんです!」
こ、こ、これわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!
心の声は鼻の下を見ればダダ漏れであった。
次回もお楽しみに!