Stage11-10 必ず
ラストリゾートは、ペルビアンジャイアントオオムカデに直撃した。双剣乱舞を食らった直後ということもあり、ペルビアンジャイアントオオムカデはそのまま海へと落ちていった。更には、ラストリゾートは他の虫達も巻き込んだ為、残っている虫はごく僅かだった。
「流石はアルミ。これくらいでは効かぬか。」
まくとぅは一つのポーションを取り出した。それは桃色で鮮やかな色をしたポーションだ。
「遊びはここまでだ!」
まくとぅがポーションを割ると、すぐに効果を発揮した。
まくとぅの全身に闇が覆い、空を曇らせ大地を揺らした。自然を破壊し、全ての生物達の住処を脅かしたのだ。
「まくとぅ!こんな事もうやめろ!」
「うるさい!うるさい!うるさい!私は神になったのだ、虫の王になったのだあぁぁぁぁッ!!!」
まくとぅは全身から大きな光を解き放ち、俺とリズはそれに巻き込まれてしまった。
「…ほら…もう誰も…助ける事は…。」
次に目を覚ましたのは、現実世界だった。
「……此処は?」
見覚えのない白い空間の個室。そこにあるベッドで俺は眠っていたようだ。
「…確か俺は…まくとぅの光に。」
「全くその通りさ、有海君。」
声のする方向へ振り返ると、そこには寺門一茶と前原和葉が立っていた。
「まさか君がお手上げとは、この状況はかなり申告らしい。」
「…お手上げ?」
寺門の言っていることに困惑する様子を見た前原は、俺に状況を説明してくれた。
「先輩…私達、死んだんです。」
「…マジかよ。」
まくとぅに為す術なく、俺達は敗北したのだ。そもそもあの世界は何かがおかしかった。まくとぅが神になったと言っていた事と関係があるのだろうか。
「…一体何が起きているんです?」
「率直に言おう。今この場に生還できているのは、有海君と前原さんのみだ。他の皆は全員、あのゲームの中に閉じ込められてしまった。」
俺は驚きが隠せなかった。初佳を助けに行く為に行ったはずが、八割がゲームの世界に引き込まれたというのだ。
「君も見た通り、まくとぅは神になってしまった。もちろん他の島の神も同様の状態だろう。助ける為には、ゲームの世界へ行って勝つしかない。」
「じゃあ、もう一度送り込んでくれ!」
「…先輩…それも簡単にはいかなくなったんです。」
「…どういう事だ。」
前原の言っていることに理解できず、俺は寺門へ視線を送った。
「…実は、さっきの君達とまくとぅとの闘いの影響で、現実世界の本体サーバーにも異常が発生したんだ。つまり、直らなければ元のゲームの世界には戻れない。」
「じゃあどうするんだよ!このまま信じて待っていろとか言うんじゃないだろうな!?」
寺門は黙ったまま一つの資料を取り出した。
「…これはもう命を懸けたゲームになります。あなた方二人には、それ相応の謝礼を支払います。なのでどうか、私達を…いや、株式会社パワフルVを助けて貰えないだろうか。」
前原は一歩前に出て、「私は行く事にしました。」と真っ直ぐな視線で言った。
「…命って…いや、そもそもどうやって行くんだよ。サーバーが直るの待てとでも言うのか?」
寺門は「いや…」と言い、もう一つの資料を取り出した。
「…前作の【今あり】に今作の【今あり2】のデータを送り込みます。あるはずの無かった展開が前作でも進行することが可能になります。なのでお二人には元のデータとレベルでゲームを進行してもらいます。この世界は、有海さんが体験したように現実の感覚とリンク出来るようになっています。今回のケースはどうなるか分からない、だからキルされれば本当に死ぬかもしれません。それに、命を懸ける他にも謝礼を払わなければいけない理由があるんです。」
「…なんだよ。」
「お二人はこのゲームを買った時にゲームのあらすじを読みましたか?」
俺と前原は「多分…」と答えた。正直、基本説明書を読まない俺としては全くと言って良いほど記憶がなかった。
「そこにはこう書かれていたと思うんです。」
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本作の主人公は五人います。その五人は生きている世界線が違い、各々の【悩】【謎】を解決していきます。時折、重大事件に巻き込まれる事もあります。何故、五人の視点で物語を進めていくのか、それぞれに何の関係があるのかは伏せておきます。
気になる方はぜひプレイしてきてください!
対応機種、PiiS IVピースフォー、VR型ゴーグルをご使用ください。
※本作品は完全クリアしないとゲームの世界から出てこられない仕様になっておりますのでご注意ください。
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「…五人の主人公?悩みに謎?」
「そうです。本来このゲームは、過去から現代までを生きる五名の人物達が各世界を行き来して助け合う事を主としたゲームなんです。」
「…じゃあそれがなんでこんなバトルゲームに変わってしまったんですか?」
「…私にも分かりかねます。ただ今回の事件の犯人が何かを仕掛けていた可能性が非常に高いです。全世界で販売するゲームの内容を変える事で自分の都合の良い展開にしたかったのか。それともライトを誘拐することが必要不可欠だったのか。どちらにせよ犯人のみぞ知る領域です。この先どのような展開になるのか検討もつきません。それが謝礼を払う理由です。」
初めて出会った時の様子とは対極的に、この状況下でも寺門は落ち着いていた。
「私にも分からない点は多いです。ですが、お二人のプレイ状況は常に見張っています。セーブポイントにいけば私との会話を出来るようにしておきます。なのでくれぐれも慎重にお願いします。これからデータの移行をしますので、決心が固まったら御家族にご連絡をお願いします。」
寺門が部屋から去り、前原との無言の時間が続いた。
「…前原さんはさ、何で続行を選んだの?」
「…私、このゲームをやり始めたの有海さんからいるからって言いましたけど、もう一つ理由があるんです。その理由を、まだ何も果たしていないので続けようと思っています。」
「…命を懸けてでも?」
「…はい。必ず生きて帰ります。」
俺は彼女の決心を変えようとは思えなかった。
「…正直言えば、残りたくない。でも友達が閉じ込められたまま黙っても居られない。死ぬ覚悟で行くしかないと思っている。」
すると、前原は俺の手に触れて微笑んだ。
「…大丈夫です。二人で必ず生きて帰りましょう。」
この時、前原といれば大丈夫。何故かそう思えた。
俺と前原は各々家へ連絡した。
俺は大翔の家に泊まると嘘をついた。これが最後の会話になるかもしれない。そう思った俺は、母親へ日頃の感謝の言葉を述べた。
当然困惑していたが、最後にありがとうとも言って貰えた。正直、もう既に思い残す事はなかった。
「電話終わった?」
「うん。何か変な感じだね。」
「…戦争のあった時代はこんな感じだったんだろうな。」
「そう考えると、その時代を生きた人達凄いよね。」
恐らく、一人になると孤独や不安に押し潰れそうになっていただろう。俺と前原は、言葉に出さなくとも互いの傷を慰めあっていた。
「お待たせしました。こちらへどうぞ。」
寺門の誘導により、俺と前原は別室へと案内された。
案内された部屋は、病院の一室に似た部屋だった。真っ白な空間にベッドが二つ並んでいる。その対面には大きな窓ガラスがあり、約十名程の人が待機していた。
「…この人達何ですか?それにこの部屋。」
「彼等は特別医療班、身体異常がないか今後は彼女等が有海君や前原さんの健康を管理してくれます。そしてこの部屋は、緊急時にも対応できるよう病室を再現した部屋です。お二人にはこの後VRヘッドギアを装着し、臥床して頂きます。その上で心電図モニターや脳波に異常がないか、常に身体変化が分かるようにしておきます。」
俺と前原さんは、言われた通りに従い、ベッドへと臥床した。
「それでは、VRベッドギアを起動します。バイタル、心電図、脳波異常は?」
寺門の言葉に一人の女性看護師が窓越しにマイクで応答する。
「バイタル含め、心電図や脳波に異常ありません。」
その合図を聞いた寺門は、俺と前原さんのベッドの間に入り、顔を覗き込んだ。
「…お二人には頭があがりません。どうか無事に帰ってきて下さい。そして、皆さんを救ってください。」
寺門さんの言葉に俺達は頷きのみで反応した。
すると、VRベッドギアから音声が流れた。
『VRヘッドギア二台の起動確認しました。通信先設定、株式会社パワフルV。ネット接続問題なし。脳波異常なし。挿入ソフト、【今世は幸せでありますように!】。追加コンテンツを確認しました。プレイヤー名アルミ レベル99、リズ レベル99で開始します。』
こうして、俺と前原はアルミとリズとして、再びこの世界へと舞い戻って行った。
「…皆、必ず、助けに行く。」
いかがでしたか?
急展開が多いのが【今あり】です笑
次回もお楽しみに!