Stage11-8 奈落の底に咲く花
ポタッ……ポタッ……
洞窟内に水の滴る音が響く。
冷たい岩が頬に触れている事を感じ取る。
岩の中にはクリスタルが埋め込まれており、その反射で僅かに辺りが見える。
上を見上げるも一面闇、相当な高さから落下したようだ。体力ゲージを見るも、半分程減ってしまっている。
「…仕方無い。歩くか。」
人が通るには狭い洞窟を行く宛もなく歩み進めた。
洞窟、真っ暗、クリスタル。これ以外の言葉が見つからない程に何も無い。洞窟内も進む事に狭くなっていた。
「…行き止まりだったら泣くぜ?」
他に進む道がない為、僅かな希望を願って進み続けた。暫く進むと、洞窟の終わりが見えた。クリスタルのお陰で僅かに違う空間がある事が分かった。人が通れる限界の狭さだが、俺は穴から覗き込んだ。
すると、岩場の多い空間が広がっており、ざっくり数えて数十匹程魔物がいる事が分かった。
「…シルバーウルフが八匹に侍ゴリラが二匹か。」
二種類とも野生の魔物ではあるが、これらの魔物は決して雑魚ではない。むしろ、厄介な技を使用する魔物なのだ。
俺はサイコキネシスを使用して闘おうとしたが、何故か技を使えなかった。疑問に思い、ステータスを開いて見ると、データが少し変わっていたのだ。落下によるダメージなのか、サイコ・クロック2を使用した反動なのかは分からない。魔力最大値が極端に減り、現魔力値はほぼゼロに等しい。魔法や得意技も少し変わっており、よく使うサイコキネシスやラストリゾートは残っているが、その他の技は全て消えてしまっていた。
「…マジか。」
流石の俺も頭を抱えた。サイコキネシスも使えない今となっては、もはやそこら辺のペテン呪い師と何ら変わりないのだ。
このまま突き進んでは死んでしまうと判断した俺は、一旦その場で眠る事とした。
どれだけの時間が経ったかは分からないが、長い時間眠っていた。目を覚ますと、体力や魔力はしっかりと全回復していた。しかし、技は変わらず二つのみであった。
再び穴から覗き込むと、シルバーウルフが近くに二匹いた。俺はサイコキネシスを使用し、シルバーウルフ二匹を宙に浮かせた。そして、高い位置からシルバーウルフを落として倒すを繰り返した。
「…魔力が勿体無い。辛抱して使わないと。」
しかし、侍ゴリラはそうもいかず、ラストリゾートを使用して倒した。
「まあ、それなりに抑えたかな。」
そして俺は、 十匹の敵から落ちたアイテムを集めた。ドロップしたのは、シルバーウルフの肉や毛皮だった。残念ながら、俺に生成術は使えない為、焚き火の際に肉を焼いたりする事しか出来ない。毛皮もただ羽織る事しか出来ないのだ。
周囲を見渡すと上へ続く階段を発見した。俺はすぐにその階段を上った。俺は暫く階段を上り続けた。足腰に疲労を感じ取り、十階以上は上った気がした。階段を上り切ると、一本道が繋がっていた。そして、今度はひたすら歩き続けた。
道中、ゾンビナイトや人喰魂が現れたが、侍ゴリラに比べれば大した事はなかった。
景色こそ変わらなかったが、途中から道は徐々に傾き始めた。次第に壁掛け松明まで現れ、辺りは明るくなった。
そして、天井や壁も岩ではなく、木や壁紙へと変わった。最終的には絨毯まで現れ、突然ホテルのような豪華さに変わったのだ。
かなりの距離を歩くと、目の前に大きな扉が現れた。俺は試しにノックをした。しかし、中から返事は無かった。恐る恐る扉を開けると、中は地下牢のような所だった。
「…まるで監獄の城だな。」
ゆっくりと中に入り、ギイッとなる扉の音を出来るだけ抑えるよう閉める。
監獄は全部で二十室あり、中には獣人族やエルフ、奴隷が収監されている。順に牢屋を見て回ると全ての牢屋が埋まっており、全て女性である事が判明した。そして、最後の牢屋には十代位の若い女の子が収監されていたのだ。その娘は傷だらけの皮膚でボロボロの布を身に付けていた。布は服とは言えない程の状態で、下着がほぼ見える程の布の短さだった。恐らく拷問を受け続けて布も傷んでいるのだろう。
しかし、何故だろう…彼女とは初めて会った気がしない。
「…あの。」
俺は恐る恐る声を掛けた。
すると、俺の存在に気付いていなかったのか、彼女は物凄く驚いていた。振り返る彼女の前髪は長く、顔はよく見えなかったのだが…
「…アルミお兄ちゃん?」
俺の事をお兄ちゃんと呼ぶ人物は二人いる。
「…誰だ?」
「そうだよね、こんな汚い姿じゃわからないよね。」
そう言うと彼女は前髪を上げて顔を見せた。
「お兄ちゃん…私だよ…リズだよ。」
「…リズ…なんで…。」
奈落の底から這い上がった俺は、一つの咲けない花を見つけた。その花は蕾の状態で咲きたくても咲けない状態、既に枯れる寸前だった。しかし、俺が見つけた瞬間、その花は咲き始めた。彼女の目には、太陽が現れたように見えていた。
次回もお楽しみに!