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五話 狐の嫁入り〜鈴ノ音〜

狐の嫁入りを見てしまったカナンは、気が向いたら知らない場所にいた。そこで見た景色は、街が半分海の中に入っているかの様な光景だった。

夏の雨の日に起きた、数時間の次元異動物語。

一旦通話を終えて、先ほど渡されたゴーグルとマスクを首にかけて、カナンはイッセイと共にガレージへと向かった。


「じいちゃんの工場までは30分かかるんだ。長い時間ではないけど、考えるといいよ」

向かいながら、先を歩くイッセイがカナンに言った。そして、カナンはふと疑問に思った事を聞いた。

「そういえば、イッセイ君も、おじいちゃんも、どうして異世界の人にそんなに優しいんですか?他の方は捕まえてしまうくらいなのに」

「そんなに気になる?普通じゃない?人が人を助けるって。自分だったら助けてほしいて思うから」

「そっか。そうだね。私はイッセイ君に助けてもらえたから本当によかったけど、もし捕まってたらと思うとゾッとする。私は別に知らない間にこっちにきただけで何をしようってわけでもないのに・・・なんでそんなに異世界の人を目の敵にするんだろう・・・」

「・・・聞きたい?」

「え?知ってるの?」

イッセイの顔つき、と言うよりは目つきが変わった。

「知ってる。俺、その場にいたし」

「聞きたい・・・聞いてもいい?」

「・・・良いよ、良い話じゃないから、バイクに乗りながら話そう」



そう言って、ガレージのシャッターをイッセイは開けて中に入った。見た目はすごくシンブルなビッグスクーターのようだが、排気口みたいのがやたらついている。これがおじいちゃんが改造した後なのだろうか。そう思いながらカナンはイッセイのゴーグルとマスクを装着する。


「じゃあ、俺の後ろに乗って」

イッセイはバイクに跨るとカナンに手を差し出した。

「あれ?ヘルメットはつけないの?」

「ヘルメット?」

「車じゃなくて、バイク乗る時に頭に被らないの?頭守るもの」

「ニホンの人は慎重なんだね。何も被らないよ。このままで大丈夫」


ノーヘルかとカナンは驚いた。免許とかあるのかなと考えながら、先にバイクに乗って手を差し伸べてくれているイッセイの手をとって後ろに乗った。



カナンの家の近所では大きいバイクを所有している人はおらず、原付スクーターの音しか聞き慣れていなかった。かと言っていつも聞いていたバイクのエンジン音と今乗っているバイクのエンジン音は根本的に種類が違った。


キュイーーーーーーーーー


シュン、シュン、シュン、シュン・・・


完全なる機械音だ。パソコンでよくある、本体の熱を下げるためにモーターが回るような音に近い種類だと思いながらイッセイの肩に捕まった。


「ごめん、運転に自信はあるけど、肩だと安定しなくて落ち着かないから、お腹に手を回してもらっても良いかな」

「え・・はい」

自転車ですら二人乗りをしたことがないカナンには感覚が全くわからない。しかし、本当にこのバイクが自分が知っているバイクと同じ動きをするのかどうかまだわからない以上、振り落とされないようにしっかりと捕まらせてもらおうとお腹に手を回した。


「よし、じゃあ出発しようか」






どこまで行ってもガラスと海水。たまに陸地があって樹木が見えるが数は圧倒的に少ない。

最初に通った通路によく似た横幅が広くなった道路を走る。ずっと、トンネルを走っている感覚に近いとカナンは思った。

徐々に交通量が増えてきている。バイクは少なく、ほとんどが車であった。車の見た目はニホンの車と大差ない。ただ、トラックやダンプの類は1台も見ていない。きっとこの世界にはないのかもしれない。

そう考えていたら、イッセイが話し始めた。



「なんで、異世界の人を目の敵にするのかって話しだけど、今して良い?」

「うん、大丈夫。待ってた。」

「お待たせしました。ごめんね。あまり思い出したくないものだったから」

「そうだったんだ、ごめんなさい。無理して話さなくて良いよ?」

「いやいや、ここまで来たら話すよ。



13年前の、俺が5歳の時に初めて見たニホンから来た人の時の話しなんだけどね。その人が現れたとき、俺とじいちゃんだけじゃなくて、じいちゃんの友達とか他にも通行人とかいっぱい居たんだ。今でこそあの場所は旧道でほとんど使われてないけど、当時はそこそこ交通量も多かったんだ。

で、現れたその人は、ゴーグルもマスクもしてない。身につけていたのは頭に硬そうな黄色い被り物と、じいちゃんもよく着ている、作業用服によく似たものだった。あと、電動の回る大きな刃物を持っていたよ。


みんな、最初は突然現れたその人に驚いたけど、どこから来たのかと話しをしたんだ。

その男の人は、"住所を教えて欲しい"とか“ここはニホンじゃないのか”とか“今仕事をしていたんだ”とか“急に雨が降ったと思ったら鈴の音がした、誰もいなかったからおかしいと思ってその方向を見たら、狐の行列があった。それを見た瞬間、気づいたらここに居た”って言ってた」


カナンは思った。心当たり大ありだ。

その人も狐の嫁入りの時に聞こえた鈴の音を聞いて、音の方を見たんだ。そう思い、カナンは頭の中で思考が勝手に働いて一瞬パンクしそうになった。

そうだ、きっとあの街で狐の嫁入りの時の鈴の音の方を見るとこの世界に来てしまうんだ。きっと、今までもそういった人がいたかもしれない。でも、あの街で人がいなくなったらきっとご近所で有名な話になるに違いない。

そこでカナンは一つあることを思い出した。この世界にくる、狐を見る前、うたた寝していた時の昔の風景の夢。


保育園前の小さな掲示板に貼られた“探してます”の貼り紙。


いなくなったのは林業をやっていたおじさん。

硬い被り物は業務中に被るヘルメット。

作業用の服は、ツナギの事。

イッセイの言っていた男性とは、自分が小学校に入る前に居なくなった貼り紙のおじさんだ。


何かが繋がり、まだ繋がりそうだが怖くて、カナンは一旦思考を強制的に止めた。イッセイの話しの続きを聞く。


「ほとんどの人が興味津々に彼の話しを聞いていたよ。俺とじいちゃんは群がる人から少し離れたところで見てたんだ。じいちゃんは前にも異世界の人に会ったことがあったからね、そんなに食いつく事はなかった。

そうしたら、一人の若い男の人が、気味悪がってその男性に言ったんだ。

《突然現れて気持ち悪い、警察に連絡する。捕まえてもらう》

手に持っていた大きい刃物も気持ち悪がってた。今思えば怖かったんだろうな。ニホンの男性は、警察に連絡しないでくれと言ってたが、若い男性は聞かずに通報したんだ。そうしたらニホンの男性は怒って、持っていた電動刃物の電源を入れたんだ」


「え?もしかして・・・」

「そう、その場にいたひとを次々に斬り始めたんだ」

「信じられない・・・」

「知らない世界にきて捕まったら、きっと生きて帰れないと思ったのかもしれない。なんか顔色も良くなかったし、健康そうには見えなかった。心の病にでもかかってたのかもしれない。もしそうだとしたら、不安からきた自分を守る行動に出たんだと思う」

「イッセイ君とおじいちゃんは大丈夫だったの?」

「俺とじいちゃんは少し離れたところにいたし、彼が暴れ始めた時にすぐに避難したから大丈夫。捕まるまで近くで隠れながら見てたけど、その時に駆けつけて逮捕した警察官が今の機関のお偉いさんだよ。異世界の人は理不尽にこの世界の人を殺めると思って、システムを開発させて、毎日時間になると街ごとスキャンして異世界人がいないかを調査しているんだ。

なぜ異世界人が広まらなかったかと言うと、結局彼を見た後に生きているのは警察官を除けば離れた所から見ていた俺とじいちゃんだけだった。じいちゃんは当時既に発明家として名が知れていたから、相手側も下手に手を出せなかったみたいで、異世界人の事を他言しないという契約を交わすだけで事なきを得てる。」

「そうだったんだ・・・」

「じいちゃんが言うには、あの異世界の男の人はだけが、特別そういう人だったんじゃないかって。他にじいちゃんが見た異世界の人は面白い人が多かったって」

「もしかして、異世界からきた人でこの世界で今も暮らしてる人っているのかな」

「もしかしたらね。13年前の事があってからシステム開発の為に全国民の網膜データを取り始めたんだ。元々結構のんびりした国だったからね。13年より前にきた人だったら、戸籍も簡単に作れただろうし」

「そうなんだ。13年前のその事件を境に変わっちゃったんだね」

「日常生活で別に不便な事はないよ。むしろ事件が起きた時には犯人はすぐに捕まるからすごく便利かな。でも、カナンみたいに異世界の人が来たときは、本当にいらないシステムだなって思った。」





ほとんど長い一本道だった道路もしばらく進むと信号らしきものが見えてきた。交差点だ。ニホンにもある大きな交差点と同じぐらいだ。全方向、片側三車線だ。とても広い。信号待ちをしていたらバイクの運転席についていた液晶画面に電話が掛かってきた。


「じいちゃん、どうしたの?俺運転中だよ」

「今どの辺だ?」

「今第七交差点で信号待ち。あと10分くらいかな」

「第七交差点か。じいちゃん、ばあさんのご飯食べながら待ってるよ。あと、その辺大通りで人の目が多いとはいえ、バイクなんだし変な人に話しかけられても答えちゃダメじゃぞ、すぐに逃げなさい」

「幼稚園児じゃないんだから・・・」

「じゃ、これからお前達が着くまでの10分間は唐揚げ食べとるからな」

そう言っておじいちゃんは通話を終了した。

「おじいちゃんなんだか、過保護っぽいね」

「普段はこんなこと言わないんだけどな。でも、なんかじいちゃんが言うことってよく当たるんだよね」



そう言っていると、道路の歩道寄りで信号待ちしているイッセイとカナンの肩に誰かの手が置かれた。

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