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四話 狐の嫁入り〜鈴ノ音〜

狐の嫁入りを見てしまったカナンは、気が向いたら知らない場所にいた。そこで見た景色は、街が半分海の中に入っているかの様な光景だった。

夏の雨の日に起きた、数時間の異世界転移物語。

「え?でも、水・・・」

「俺が生まれた時にはもう窓の一部は海水が浸かってたよ。じいちゃんが子供の頃から海水位が急に上がり始めたみたいなんだ。それと同時に酸素の汚染も悪化して行ったんだって。

確かに陸地の高さがある場所に移住すれば良いのかもしれないけど、徐々にこのまま水位は上がり続けるだろうって研究結果だったみたいだから、移住したら住処の取り合いで争いが起きそうだからいっその事、今ある建物を囲って、地下を開拓しようってなったみたいだ」

「水位の上昇に酸素汚染・・・酸素汚染から身を守るためにみんなマスクをつけてるの?」

「囲われて外気と遮断されてるから、着用しているのは、この囲いの外に出る職業の人くらいかな。発明家もそう。じいちゃんは囲いの外で実験をすることがあるからね。でも、みんな常に携帯はしているよ。俺みたいに首に掛けてるのが殆どだけど。さっき出てったばあちゃんも、鞄にはゴーグルもマスクも入ってる。着用してなかったのは、完全な空調機能完備の“地下通路”を使ってじいちゃんの所に行くから。みんな携帯しているのは、囲いは分厚いとはいえガラスだし、劣化して突然割れて汚染酸素が入ってくる可能性があるからね。念の為だよ、滅多にないからね。もちろん使わないに越したことないし」

「そっか、そうなんだ。でも、だったらガラスじゃなくてコンクリートとかにすれば・・・」

「結局、形あるものは劣化するし、全部コンクリートにしちゃうと太陽光浴びれないからね。野菜育たないし、人間にも悪影響だしね」

「そうだよね。あれ?でも囲われた中で生きてて生活に必要な酸素とか、車の排気ガスとか、料理中の火とか煙は?」

「酸素自体は、世界総出でそこら中に清浄機能がついた機械が取り付けられてるよ。外の酸素を機械で綺麗にして囲いの中に入れてるんだ。あと、車の"ハイキガス"って?車は電気で動くものだろう?あれ?違う?料理も火は使わない。全部電気さ。料理から出た煙は換気扇から吸い込まれて外に排出されるよ」

「あ、全部電気自動車なんだ・・・」

「電気以外で走る車がカナンの世界にはあるの?」

「うん、原料としては石油を使って走る車があるんだ」

「石油を車に使うんだ・・・過程はわからないが、多分最終的には燃やした力を使って動かすんだろう?それは囲われたこの世界では無理だな・・・」




イッセイは丁寧にこの世界の事をカナンに話した。そして、食事に使った器を片付けると、食事をした部屋とは違う部屋に行ってしまった。ちょっと待っててと言われたので、椅子に座ったまま待っていると、いくつか荷物を持ったイッセイが戻ってきた。


「これ、俺が使ってた物で悪いんだけど、つけてもらっていい?」

カナンに差し出したのは、ゴーグルとマスクだった。

「これからじいちゃんに電話して、それから工場に行くんだけど、さっきみたいな狭い通路じゃなくて、車も通る道路を使って行くからね。さっきも話したけど、出歩く人は念の為にゴーグルとマスクを身につけてる。だから、つけていないと怪しまれる原因になるからね」

「確かに!持ってもいなかったらすぐ怪しまれて捕まっちゃうかも・・・お借りします・・・」

「うん、首にかけてくれてれば良いから。じゃぁ、じいちゃんに電話しようか」

「おじいさんに?」


イッセイはテレビと思われる大きい画面の電源を点けたと思ったらリモコンらしきもので番号を連続して押している。そして画面には『calling』と表示された。テレビ電話だろうかとカナンが思った時、かけた相手が通信開始をした。


「イッセェエエエ!!!遅ぇじゃねえか!!ばあさんが家出る時に俺に電話するようにイッセイに言ったってメッセージ貰ってから20分経っとるだぞ!!!メシ食ってたんじゃぁねぇだろうなああ!!!」


画面越しで全身で写っているわけではないので身長はわからないが、坊主頭にゴーグルを目に装着した20代の現役ウェイトリフティング選手の様な筋肉を持つ70代後半っぽいおじいさんが怒鳴っていた。


「じいちゃん、ごめん。飯食ってた」

「ワシが!!あの時から!!13年かけて!!作ってた!!アレが!!完成したって言うのに!!!」

「そう、だからそれを今から使いたいんだ。説明してくれないか?」

「今から使う?!オメーがか?!何言ってんだ説明してほしいのはこっちだ馬鹿野郎!!じいちゃんはそんな会話のキャッチボールが出来ない子に育てた覚えはありません!!」


この現役ウェイトリフティング選手の様なおじいさんがイッセイ君のおじいさんなんだ。そして、このテンションの違いはなんだろう。


怒鳴ったり奇声をあげるおじいさんに対して、一切テンションが変わらないイッセイを見てカナンは不思議な気持ちになった。

そう思って蚊帳の外の気分でいたカナンを、イッセイは画面の前に引っ張り出した。


「この子、異世界の子。完成したなら使いたい。その次元移動装置」


イッセイがカナンを画面に映しておじいさんに伝えた所から、先方画面から音も出なければ動きもしない。通信障害かと思った矢先、イッセイが画面のリモコンを咄嗟に取って“消音”を押した。


消音を押した為、音は聞こえないが通信障害と思われた止まった画面の向こう側のおじいさんが急に激しくのたうち回り始めた。近くにある発明品であろう何かがぶつかって吹っ飛んだり、床に落ちて割れたり、勝手に動き始めたりしている。


そのうち、筋肉を震わせて、坊主頭に血管を浮き出して叫んでいたであろうおじいさんが、静かになったであろう頃にイッセイは画面の“消音”を解除した。


「はぁ・・・はぁ・・・この・・・ワシの・・・大発明を・・待っていたかの・・図ったかのようなtiming!!」

「だから、この子に説明してあげて」

「ヨシ!!ワシが!説明してやる!!」


画面いっぱいにおじいさんが映った。

カナンは自己紹介から始める。


「あの、初めまして、カナンと申します。ニホンから来ました。1時間くらい前です。こっちにきてすぐにイッセイ君に助けてもらいました。ありがとうございます」

「みっともない姿を見せてすまなかったな。ワシは、イッセイのおじいちゃんやってます。おじいちゃんと呼んでくれ」

見た目と違ってかなりの茶目っ気がありそうなおじいさんにカナンはどう接して良いかわからない。しかし、おじいさんが一方的に喋るため心配は杞憂に終わる。


「ワシは発明家でな!昔からたまにお嬢ちゃんのような異世界から来る人を見てきた。お嬢ちゃんが最初に気がついた場所であろうところには、異世界の人が流れ着くことがあるんじゃよ」

「イッセイ君にも聞きました」

「でな、なぜかワシは、その場面に立ち会うことが多いんじゃ。ちなみに、この世界としては異世界人は認知されていない。隠してるんだ。だからその辺で生活している人は異世界人を知らないし、言われたとしても受け入れもしないじゃろ」

「え?でも、見つかると黒服の人に捕まるって・・」

「確かに捕まる。ただ、公には“この世界の人間で何か犯罪を犯した人”として捕まえられるんじゃ。街の至る所にある監視カメラという、自動定時網膜スキャン照合システム、警察官が1人1台持ってる小型網膜スキャン照合システム、これは、罪を犯したものをすぐに追えるようにという事で世の中には伝えているが、実際のところは、異世界からの人間をいち早くとっ捕まえる為に13年前に導入したものだ。ワシは作るの断ったんじゃけんど、他の発明家が作っちまってねー・・・勿論、ワシの方がもっと性能が良いの作れたぞ。あー。じゃなくってな、そのシステムが出来てから捕まった異世界の人が5年前に1人いたぞ」

「え、俺それ聞いてない」


イッセイが会話に入ってきた。


「お前ね、捕まったあとどうなるかわかってるんだから、そんなこと可愛い孫に言うわけなかんべ?」

「まぁ、それもそうだな」

「可愛いは否定しなさい。おじいちゃんは自己評価を高くつける人間に育てた覚えはありません」

「じいちゃん続き」


ぺぇーーーー!!っと謎の雄叫びをあげてから、おじいさんは続きを話し始めた。

「限られたごく一部の“機関”の人間だけが、異世界から人が流れてくることを知っている。

警察官ですら異世界人の事は知らされてない。警察官は機関からのお達しの通り、何かあったらすぐ網膜スキャン!すぐに身元の証明と照会!を馬鹿の一つ覚えみたいにやってるよ。本当の理由を知らずにな。万が一異世界人を見つけたとしても、端末への登録データ漏れとして警察官を納得されてるんじゃろうよ。機関の奴らは本当に異世界人を見つけて捕まえることに躍起になっている。ただ、“あの場所”から出てくる事はまだ特定されていない。

だから、ワシは“あの場所”の近くである“そこ”に家を構えたんじゃ。で、異世界の人を奴らより早く見つけて元の世界に返してあげる。それがワシが今やりたい事。

で、元の世界に返してあげる為の“次元移動装置”がやっと今日完成したのじゃ!!完璧な設計図に基づいた完璧な完成品!実験はまだしておらんしむしろ実験とか出来ない代物なんだけんどな」

「え?実験できないんですか?」

実験していない次元移動装置など不安以外の何者でもない。カナンがおじいさんに聞くと、しょぼくれた顔でカナンの質問に答えた。


「すまんのー。ばあさんの言葉を借りるなら、机上の空論ってやつじゃ。

 次元移動装置の原理として、“人”と“人が持っている物”の構造と物質が原子レベルから組み立てられた物体の構成状態や完成形で一致した時空に転送する仕組み故、この世界にはこの世界で作られた物質しかないから他の次元に送ること、すなわち実験が不可能なんじゃ・・・。まさに、机上の空論・・・」


少々雑な説明だが、この世界の者だったとしても元々物理の知識はほとんど無いし苦手分野な為、細かく説明されてもきっと理解できないとカナンは思った。とにかく、他の世界で一致する物質のところに転送する仕組み、類は友の呼ぶみたいなやり方であるなら、ここの世界にはここの世界のものしかないから出来ないと納得をした。

うまく行くかどうか、つまり、生きて帰れるか、失敗してしまうかは賭けである。

「このまま、匿うにも限度があるからなぁ・・・お嬢さん、どうするね?」

おじいさんが変わらずしょぼんとした顔でカナンに聞いた。


「ちょっと考えても良いですか?色々突然すぎて、ちょっと・・・」

「まぁそうだよな。見回りの時間すぎたら少しは外出ても安全だから、イッセイとこっちに向かいながら考えれば良い。ワシの改造バイクはビューンと面白いぞ」

「普通の運転しかしないから」

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