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【連載版】八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます  作者: 海夏世もみじ
第2-1章 居場所探しの職場体験〜王室直属騎士〜
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第10話

「あのですねぇお嬢様、僕の居場所がなくなるのでそれは――」

「裸体を見るのが死刑宣告なんでしょ? なら同衾くらいなら構わないと思わないかしら?」

「思わない。どっちもダメ、死刑」


 ……誤算だ。こんなにも好き好きオーラ全開で迫って来られるとは思いもしていなかった。鋼の精神かと思いきや、甘やかしに弱い軟弱お嬢様だった。

 今更嫌われようにも全部裏目に出そうで怖いな。


「どうせ明日にはいなくなっちゃうんでしょ……? なら、いいじゃない、別に……」

「…………」


 寂しそうな瞳で僕を見つめる。

 しかし、今回僕は鬼になる。流石に王様の愛娘と田舎出の平民が同衾するなど知られたら殺害命令が出るだろう。全部返り討ちにできると思うが、もっと面倒になるに違いない。

 だから流石に、今回は諦めてもら――


 ――コンコンッ。


『シエルお嬢様、少し部屋に入りますよ』

「「!!!」」


 部屋のドアがノックされる音の後、外から女性の声が聞こえてくる。どうやら確認に来たみたいだが、ここで僕も退出すれば問題ない。

 そう思って立ち上がろうとしたら、ぐいっと何かに引っ張られて布団の中に吸い込まれる。


「失礼します。……あら、まだ起きてらっしゃったのですか?」

「え、えぇ! 少し眠れなくて……」


 あ、暖かいし柔らかいものが当たって……? ッ!? これお嬢様の胸じゃねぇか! まずい……お嬢様に引っ張られて布団に隠されている状況みたいだ。非常にまずいことになった……!!


「お嬢様? 何やら顔が赤いような気がしますが……」

「き、気のせいよ! ふ、布団が少し暑かったくらいだから!」

「ならば替えの布団を用意しましょうか?」

「ひ、必要ないわ。すぐ寝るから早く出て行ってちょうだい。なるべく早く……」


 声が上ずって違和感しかないぞお嬢様。焦ってるのバレバレだ。


「……失礼ですがお嬢様、何か布団に隠していませんか?」

「っっ!?!?」

(言わんこっちゃない!)


 だんだんとメイドの足音が大きくなり、お嬢様の心臓の鼓動が早くなる音を直で感じる。

 そしてついに、布団に手をかけられて非情にもそれを剥がされた。


「……あ、あら? 気のせいだったみたいですね」

「ふぇ?」


 ベッドの上にはお嬢様の身一つ。僕の姿は微塵も見当たりもしない。

 間に合ったみたいだ。布団がめくられる前に【透明化】と【気配遮断】を発動させ、なんとかバレずに済んだ。


「申し訳ございませんお嬢様……。おやすみなさい」

「ふ、ふんっ! 変な勘違いしないでちょうだい!! お父様に言いつけるわよ!?」

「は、はい……本当に申し訳ございませんでした……」


 ――バタンッ。


「危ないだろ!」

「うぅ、ごめんなさい……。って、〜〜ッ!?!?」


 魔術を解いて僕の顔を見つめるお嬢様は、みるみる顔が赤くなってゆき、湯気が出ている。

 理由は単純、焦ったお嬢様が僕を思い切り抱きしめてゼロ距離になってしまっているからだ。年頃の女の子だろうし、少し刺激が強すぎるかもしれない。


「あの……恥ずかしいなら離したらいいのでは? お嬢様」

「ふぬぬぬ……! こ、好機だと思ったのよ! アッシュを引き止める、ため……!!!」

「そろそろ顔面から炎が出そうですよ」

「う、うるしゃいわよあっしゅ!」


 僕を締め付ける力が更に増し、絶対に離さないという強い意志を感じた。可愛い女の子から熱烈なハグをされて嫌なわけではないが、立場が立場だ。素直に喜べない。

 お嬢様は今にも火を吹きそうながらも、僕に必死にしがみつく。


 堕落させてやろうかと初めは思っていたが、どうやら堕としすぎてしまったようだ。だいぶ後戻りできなくなっている。

 まぁお嬢様も明日に辞めることは重々承知してるみたいだし……別に一夜過ごすくらいいいのかなぁ……? 何もしないし。


「……はぁ。ほんッと、我儘なお嬢様だ」

「ひゃっ」


 お嬢様を抱きかえし、頭を撫で始める。

 催眠魔術とかで寝かしつければいいかとも思ったが、聖眼で厄介なことになりそうだから正攻法(?)で行くことにした。

 決して下心があったわけではない。何万年と生きてる僕に子孫を残そうだとかいう欲求は無くなっているからだ。……嘘だ、めっちゃ我慢してる。


「今回だけですからね」

「……♪」


 お嬢様は小さく『ありがと』と呟くと、ニコニコしながら僕の胸に顔を埋めた。しばらく経つとスースーという寝息が聞こえてきたが、ガッチリとホールドして引き離しづらい。

 ドアの向こう側をずっと警戒していたら、すっかり日が昇り始めてしまった。

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