八話
ハダルの町
ハダルの町の駅舎の中でユリアは眠っている。
「ん…」
少女は身を捩り目を覚ました。
「目を覚ましたか」
「良かった…」
身を起こすと二人が心配した顔で自分を見ていたユリアは流石に照れる。
「な、何よ?」
「君意識を失ったんだ」
「そうなんだ」
「覚えてないのか?」
ハスウェルはポカンとしているユリアを見て。彼女が発動させた奇跡を覚えていないのか聞く。
「全く…警備員さん達が踏み込んだ所までは覚えてるんだけど…」
「…」
ユリアの言葉を聞きハスウェルは思い出す。未熟な聖女は力を使いすぎると倒れる事があるため注意せよと言われたのを。
(なるほどな、自分の大きな力に振り回されてしまうのか)
「ユリア、あまり無茶はするな、危険な場所で意識を失ったらそのまま死んでしまうかもしれん」
「うん、ごめんね?心配かけて」
ユリアは心配させてしまった事を謝る。
「ユリア、あれで覚醒をしたのかい?」
「んー…」
ユリアは鏡を探し方を映す。そこには片翼の天使の紋章が刻まれていた。
「まだみたいね、覚醒した聖女にはもう片翼の翼の紋章が現れるの」
「あれほどの力を放てるのにまだ未覚醒なのだな」
「覚醒した聖女はあの力をいつでも放てるのよ」
だからこそ自由に放てないユリアはまだ未熟なのだ。
「あれを自由に…」
「凄いな」
教会がユリアを守ろうとするわけだとハスウェルは思う。
「体は問題なさそうかい?、列車は一時間後に出発するそうなんだけど」
「大丈夫よ、待たせるわけにもいかないしね」
魔導通信で向かうと伝えているのだ。遅くなれば招待してくれた聖女を待たせる事となる。
「分かった、行こう」
「ええ」
ユリアは元気良く立ち上がると鞄を手に持った。ハスウェルとアルスも立ち上がり三人は列車に乗り込み。再び列車の旅を再開する。
客室
新しい客室にてユリアは外を眺めている。
「暗いが何か見えるのか?」
「時々見える町の明かりが綺麗だなってね」
時折見える町の光。ユリアはどんな町があるのだろう?と思いを馳せている。
「行ってみたいのかい?」
「ええ、色んな町を場所を見てみたいと思ってるわ」
そうして経験を積む事が自分に必要だとユリアは思っている。
「なら君の希望に応えて僕達も一緒に回るよ、この世界を」
「ふふふ、ありがとう」
ユリアは一緒に回ってくれると言う二人に感謝した。するとお腹が鳴る。途端にユリアの頬は赤く染まった。
「お、お腹なんてすいてないわよ!」
「嘘を言うな嘘を」
「君は恥ずかしいとか変な意地を張るよね」
「うっ、うっさい!」
ユリアは頬を染めつつハスウェルが取り出した包みを見る。
「腹が減るだろうと思って買っておいた、食べよう」
包みを開けると中にはサンドイッチが入っていた。
「わぁ!、美味しそう!」
ユリアは両手を合わせて顔の横に持って行き嬉しそうな顔を見せる。
「一人三つずつだ」
「包みまだ何個かあるじゃないの」
「これは明日の分だ」
「ええー」
三つじゃ少ないと言いたげなユリアは頬を膨らませた。
「少ないと言いたいようだが、我慢しろ」
「はぁい…」
ユリアは口を尖らせつつサンドイッチをその小さな口で食べ始める。
サンドイッチを食べ終わり二時間後。社内の明かりが消されて暗くなった。
「なんかワクワクするわね、友達と一緒の部屋で寝泊まりって」
ユリアの言葉を聞いたアルスは暗い声を出す。
「こうも暗いと幽霊が出るかもねぇ?、ほらユリアの後ろに…」
「ひゃぁ!?」
普段は気が強いが暗い場所とお化けが苦手であるユリアは悲鳴を上げてハスウェルに抱き着く。
「アルス、他の客に迷惑だぞ、驚いた時、ユリアは声がデカいのだからな」
「ごめん…」
アルスはそう言えばそうだったと思いユリアを怖がらせるのはやめる。
「…ユリア、アルスの冗談だ、離れろ」
ハスウェルはユリアに離れるように言うが。ユリアはプルプル震えており離れない。
「や、やよ、怖いものこのまま寝るわ」
そう言った瞳には涙が溜まっていた。二人はその涙に心を撃ち抜かれる。
「子供か」
心を撃ち抜かれつつハスウェルはなんとか喋る。
「子供よ!、悪かったわね!」
「…分かった、眠るまで手を握っててやるから」
「な、なら良いわ、アルスも」
「うん」
アルスとハスウェルは怖がるユリアの手を握ってやる。すると震えは収まり涙目になっていた瞳からは涙が消える。
「スースー」
暫くしてユリアは眠り始めた。ハスウェルは上着を脱ぐと彼女にかけてやる。
「意外と怖がりなんだよね、普段はかなり気が強いんだけど」
「そうだな」
たまに見せる怖がりな面も二人がユリアを好きになった理由である。
大教会
「ユリア様が旅立ったようです」
「そう」
一人の女が現れ。部屋の中で祈りの歌を奏でている大聖女に話しかけた。
「あなたの後を継ぐと啓示が出た少女、啓示通りに立派に育ってくれると良いのですが…」
「うふふ、私の跡を継ぐにしてはお転婆なようですけどね?」
大聖女はそう言うとユリアが起こした奇跡の様子を杖を振って宙に表示させる。
「とてつもない力です、あなた様が見習いであった頃はこれほどではなかったのでしょう?」
「ええ、神が啓示するだけの事はあります、素晴らしい力ですよ、この子なら世界に再誕しようとしている闇を討つ事が出来るかもしれません」
「邪神フェルドマルガ、歴代の大聖女達が封印して来た闇、ですね」
「ええ、私達聖女の因縁の相手です」
大聖女はそう言うと目を細める。邪神が復活すると言うのなら。戦う覚悟は出来ているのだ。
「さて、引き続き例のドラゴンの紋章を持つ者達を追って下さい、それと黒聖女達の動向も知っておきたいです」
黒聖女とは邪神に仕える聖女達だ。邪神が復活する度に現れ聖女達と戦って来た存在である。
「はっ」
女は胸に手を当ててから部屋から出て行く。
「…」
彼女を見送った大聖女は再び祈りの旋律を奏で始める。