七話、好敵手
列車
ガタンゴトンと言う音に耳を澄ませながらユリアはうつらうつらとしている。
「ユリア、寝るなら横になったらどうだい?」
「んー」
アルスの言葉を聞いたユリアは横になりスヤスヤと眠り始める。心地良さそうに眠る姿は見ているとほのぼのした気分になる。
「アルス、聞きたい事があるのだが」
「なんだい?」
「君はユリアが好きなのか?」
直球で聞くハスウェル。アルスは思わず椅子から落ちそうになった。
「な、な、な、何をいきなり…」
「違うのか?、俺は好きだが」
更にもう一度直球で言うハスウェル。アルスは流石に対抗する気になった。
「す、好きだよ」
「そうか、なら俺達はライバルだな」
ハスウェルはそう言うと挑発的な瞳でアルスを見る。アルスも負けじと彼の瞳を見た。
「…一つだけ言いたい、君と僕、どちらがユリアと付き合う事になっても恨みっ子なしにしてくれ、君とは友としても仲良く慣れそうな気がするから」
「そうだな、恨みっ子なしの勝負にしよう」
ハスウェルはアルスの言葉に頷く。
「でも良いのかい?、婚約破棄したのに」
「あんなもの家が勝手にやった事だ、俺には関係ない、ユリアと付き合う事が否定されたとしたら俺は家を出る、それだけだ」
「言うね、それでこそライバルだよ」
「フン、そのくらいの気持ちがなければこのじゃじゃ馬とはやって行けないだろう?」
「そうだね、とんだじゃじゃ馬だ」
だが放っておかない魅力がある。だからこそ二人はユリアが好きなのだ。
「んー?、何の話をしてるの?」
話しているとユリアが身を起こす。
「な、なんでもないよ」
「そうだ、なんでもない」
「ふぅん、ふぁ…ごめんね?、ちょっと寝ちゃって」
ユリアは目を擦りながら少し寝てしまった事を謝る。
「気にするな」
「そうだよ」
「ん」
二人の言葉に頷いたユリアは鞄から水筒を取り出すと水を飲む。
「ふぅ、目が覚めた、ここから目的地までは二日掛かるわ、体が痛くなるかもしれないけど、頑張りましょ」
「あぁ」
「うん」
「うん!、良い返事!、それじゃ私、ちょっと出て来るから」
「どうした?」
「何か買い物かい?」
「…トイレよ」
「「…」」
先程はユリアが何に怒ったのか分からなかった二人だが。これは流石に察しどうぞ行って下さいと手で示す。
「すぐに戻って来るわ」
着いて来なくて良いからね!と二人を指差したユリアは客室から出て行った。
「一瞬さっきと同じ顔をしたな?」
「僕それで分かったよ…女の子が男と同じ鞄に物入れたがるわけがないよ、下着とか見ちゃうし」
「なるほど…」
アルスとハスウェルは思う。女性との旅とは難しいものだなと。
廊下をトコトコと歩くユリア。金色の髪とその容姿が目立つため注目されているが。本人は何で見られるのかしら?と首を傾げつつトイレに入る。
「揺れるのよね…」
何回か乗ったこの魔導列車。トイレがかなり揺れるのが問題点である。
「ふぅ…」
上下に揺れつつトイレを済ませたユリアは流して外に出た。すると黒服の男達が目の前を通り過ぎて行く。
「…」
『ユリア、その者達は危険です』
その時だ。ユリアを見守る神の声が聞こえた。
「えっ…?」
ユリアがその声に反応した時にはもう彼等の姿は見えなくなっていた。
「…」
ユリアは胸に手を当てつつ先程の男達を探し始める。するととある客室の中にいるのを見つけた。
「神よ、彼等の声を私に聞き届けたまえ」
光の魔法で奇跡を起こしたユリアは怪しまれないように少し遠くの壁にもたれかかり外を眺めている振りをしながら彼等の会話を聴き始めた。
「この魔導列車の荷車を今仕掛けた爆弾で切り離すぞ」
「それで中にある金目のものを盗んでおさらばってわけですね?」
「そうだ」
どうやら彼等は爆弾を用いて荷車を切り離そうとしているようだ。爆弾が爆発した衝撃で列車が脱線するかもと考えたユリアは。踏み込もうとしたが剣がないのに気付く。
「しまった…」
トイレをするためには剣は邪魔だ。そのため部屋に置いて来てしまった。
「あのすみません」
自分の手でどうにか出来ないのならと思ったユリアは近くの職員に話しかけた。
「何か?」
「私はこう言う者よ」
ユリアは常に携帯している教会の職員証を彼に見せた。
「こ、これは!ユリア様!、失礼致しました!」
目の前の少女が聖女見習いだと思わなかったらしい職員は驚いた様子だ。
「良いの、それよりもこれを聴いて」
ユリアは職員に先程の会話を聴かせる。
「なるほど、危険行為ですね、分かりました、乗車している警備員を呼びます」
彼はすぐに警備員を呼び集める。数分後警備員がやって来て客室に踏み込んだ。
「な、何だ!?」
列車が走る場所は湖の近く。彼等は窓から飛び出そうとしていた。
「つぅ!?」
列車が大きく揺れる。後方で爆弾が爆発したのだ。その衝撃で列車は大きく揺れ脱線しそうになる。
「させるか!!」
ユリアは全力で聖女の力を使う。その瞬間にユリアの背中に魔力で作られた天使の翼が現れ列車全体を覆うように巨大化する。列車を覆った翼は脱線しそうになっていた列車を支え復帰させる。
「す、凄い…」
周りの住人も犯人達もこれで死んだと思っていたのに生きている事実に驚く。
「はぁはぁ…」
しかし…力を使いすぎたユリアはフッと意識を失い倒れた。
「ユリア!」
倒れるユリアをアルスが受け止める。
「貴様らを逮捕する、逃げれると思うなよ」
ハスウェルは軍の腕章を見せ彼等に諦めるように促した。
「…」
犯人達は計画の失敗に対し悔しそうに俯きながら大人しく拘束された。