六話(挿絵あり)、手紙
ユリア
教会
ユリアは教会にて今日も祈りを捧げている。
「不思議だな、ああして光が集まって行く光景は」
「聖女だけが出来るんだよね」
光が光を集めると神が世界にもたらした祝福を増幅させてその土地に返し。その土地は非常に豊かになると言われている。
そのためユリアが聖女の才能を持つと分かり。この教会で祈りを捧げるようになると。作物が非常に良く育つようになり。人々の心も穏やかになった。
そのためこの街で犯罪を働く者は基本的には他の街からやって来た者である。
「とても綺麗だと思うよ」
「そうだね」
ユリアが放つ光はとても美しい。見ているだけで心が癒されて行く。
「これから旅をするんだ、あの光を守るのが俺たちの役目だぞアルス」
「分かってる、あの光を絶やさないために絶対にユリアを守るよ」
二人が話しているとこの教会の大司祭が現れた。
「ユリア様」
大司祭はユリアの元に来ると片膝を着く。
「何か御用ですか?」
長く祈りを捧げていたためかユリアの喋り方はいつもと違う。三十分もすれば元に戻るため問題はない。
「これを」
「手紙ですね」
ユリアは受け取った手紙を開ける。読んでみると隣国のセラティアからの招待状であった。
「セラティア様がユリア様に会いたいようです、見習い聖女は、呼び出されたらすぐに向かう決まりなのは知ってありますね?」
「はい、自堕落な生活を始める前は良く修行をするために呼び出されていました」
新しい聖女が現れたら聖女達で協力して一人前に慣れるように修行を付ける。それが聖女達が遥か昔から続けて来た習わしなのだ。
「こちらの封筒には列車のチケットが入ってあります、すぐに向かって下さいませ」
「分かりました」
チケット入りの封筒を受け取ったユリアはアルスとハスウェルに近付く。
「今から向かいます、お二人は準備をして来て下さい、私はそこにある鞄と剣しか荷物はありませんから」
「分かった」
「すぐに戻って来るよ」
「それでは駅で待っていますね」
ユリアは大司祭と共にこの場を離れて行った。彼女は馬車で駅に向かうのだ。
「アルス、君の家までうちの馬車で送ろう」
「ありがとう、助かるよ」
アルスは馬車を出してくれると言うハスウェルに感謝し旅の準備をしに自分の屋敷に向かう。
カラミリア駅
カラミリア駅にユリアは一人で立っている。
「…」
するとチラチラと男女に顔を見られる。
「?」
見られる理由はその容姿がとても美しいからだ。聖女に選ばれるだけはありユリアは絶世の美少女である。そのため男女どちらからも注目される。
「…服欲しいわね」
ユリアは過ぎ行く同年代の少女達のオシャレな服を見て自分も可愛い服が欲しいなと思う。今持っているのは店で買った安い服だ。オシャレとは言えない。
「お金に余裕が出来てからかしらね、まずは下着から買わないと」
ユリアの胸は大きい。そうなるとブラ代は高くなるため。まだまだ貧乏なユリアの場合服に回す余裕はまだない。必須であるブラから先に買わないと色々と辛いのだ。
「これもいつまで持つかしら、毎日洗ってるからなぁ…」
そう言って服を捲り今着けているブラを見る。毎日洗えば必然的に劣化が早くなるため。普段より寿命が短くなるのだ。
「あっ」
ブラの心配をしているとアルスとハスウェルがやって来た。
「来たわね、ちゃんと軍にこの町から出るって届けた?」
「安心しろ、命令を受けた時俺がこの町から出るのは織り込み済みだと言われている」
そのため国を出る時すら報告はいらないのだ。定期的に軍と教会にユリアの無事を伝える義務があるだけである。
「そうなんだ、なら気楽に行けるわね」
「ユリアの旅に付き添うなら一々報告はいらないってのは理解出来るしね」
「そうだ、だから気にしなくて良い」
「分かったわ」
気にしなくて良いと言うハスウェルの言葉に頷いたユリアは二人にチケットを渡す。
「これで列車に乗るわ、二人はどのくらい列車に乗った事があるの?」
「僕は年に三回ほどかな」
「俺は馬車での移動が多いから数年振りだ」
冒険者でもなければ生まれ育った街で一生を過ごす者が多い。そのため列車が通っていても使う機会は少ないのである。
「そうなんだ、私は聖女の修行のために割と色んな国に行ってたから結構乗った事があるわ、だから私が隣の国、マーフス王国まで案内するわね!」
ユリアはそう言うとドヤァとしつつ腰に手を当てた。
「あぁ頼むよ」
「頼りにしているよ、ユリア」
「ええ!、それじゃこっちよ!着いて来なさい!」
ユリアは楽しげに金色の髪を揺らしながら駅に入って行く。二人はそんなお転婆元お嬢様を追って駅に入る。
駅のホーム
列車が来るまではあと五分ほどある。ユリアはベンチに座り駅の様子を眺めていた。
「ワクワクするね!魔導列車!」
「あなた魔導機械本当に好きよね」
アルスは魔導機装を見ても魔導機械を見ても魔道具を見てもなんでも興奮し始める。彼にとって非常に心惹かれる道具達なのだ。
「そりゃあ好きだからね!」
「俺も魔導機装が好きだと言う気持ちは分かるぞ、あれは男のロマンだ」
「だよね!、分かってくれて嬉しいよ!」
「あぁ!」
男二人は頷き合うとガッチリと握手をした。ユリアはその様子を見て男の子ねぇと呟く。
「ねぇお姉ちゃん」
「あら、なぁに?」
二人が語り合い始めた様子を呆れながら眺めていると少女が話しかけて来た。
「聖女様だよね?」
「あら、私はまだ見習いよ?」
「知ってる!、私もね、お姉ちゃんみたいに沢山の人を助けたいって思ってるんだ!、だからシスターになるの!」
「うふふ、そうなんだ」
ユリアは少女の言葉を聞き。あの街で自分の能力を使って様々な人々の治療を行っていたのは無駄ではないのだなと思う。目の前の小さな少女が自分の姿を見て夢を決めているのだから。
「だからお姉ちゃんも立派な聖女様になってね!」
「ええ、必ずなるわ」
「約束だよ!」
少女はユリアに手を振ると去って行った。ユリアは目を細めて彼女を見送る。
「あっ!来たよ!」
アルスが汽笛の音に反応して立ち上がる。魔導列車が近付いて来る様子を見る彼の瞳はキラキラと輝いている。
「好きね」
「うん!」
「さぁ乗るぞ」
三人は魔導列車に乗ると空いている客室を探す。
「あったわ、ここにしましょう」
「あぁ」
バルコニーに入ると三人それぞれ上にある荷物置きに荷物を置いた。
「二人とも意外と荷物少ないのね」
「魔導鞄だ、こう見えても沢山入っている」
「僕のもだよ」
「…」
魔導鞄とは空間拡張が掛けられた鞄のことである。小さなサイズからは想像出来ない程の大量の荷物を入れる事が出来る大人気商品だ。ちなみに今のユリアにとっては目が飛び出る程の値段がするため買えない。
「俺の鞄で良ければ君の荷物を入れても良いぞ?」
「!、お断りするわっ!」
ハスウェルの言葉を聞いたユリアはベーと舌を出してからプイッとそっぽを向く。ユリアは年頃の少女だ同年代の少年に自分の荷物を見られるのを嫌がるのは当然である。まだ十四歳のハスウェルはまだそう言う乙女心が分かっていないのである。アルスも首を傾げているため同じようだ。
「な、何か怒り始めたぞ」
「何かしたかな…」
「フン!」
その様子を見ていた大人の女性がクスクスと笑いながら通り過ぎて行く。二人は笑われるような事をしたのかとお互いの顔を見て考察し始めた。
(全く!男の子って何でこうなのかしら!)