五話、好きな人
宿
ユリアは金色の光を身に纏っている。聖女としての魔力コントロールの練習だ。これが上手く出来れば出来るようになるほど治癒の魔法の効力が上がる。そうすれば沢山の人々を救えるようになる。
「私の力があれば沢山の人々の命を救える、この力はそのための力、そしてそれが私の願いだった」
聖女としての素質があると分かった日。教会の本部でユリアは大聖女を見た。沢山の人々に優しく微笑みかけ歌を歌い怪我人が来たら一瞬で治してみせた彼女。ユリアは彼女に憧れ自分もあのような聖女になりたいと思ったのだ。
「大聖女様はお許しになられるかしら…、もう一度頑張り始めるって決めた私を…」
「大丈夫だよユリア」
俯くユリアにアルスが話しかけた。
「どうして?」
「大聖女様はお優しい方だ、君が再び努力を始めたと言うなら認めて下さるよ」
「私が頑張る理由は成り上がりたいからよ?」
そんな不純な理由で頑張る聖女はあまりいないのだ。
「聖女もお金がないと行けていけないだろ、特に家から追い出された君みたいな境遇ならね」
「まぁね、成り上がらないと生きていけないもの」
「そっ、だから大聖女様も君が成り上がろうとしている事を責めたりはしないさ」
そう言ってアルスは微笑む。
「ふふっありがとう、アルス、勇気付けてくれて」
不安に思う自分を勇気付けてくれたアルス。ユリアは彼に向けて微笑みかける。するとアルスの頬は赤く染まった。
「い、良いさ、僕は幼馴染として君を応援するってだけだし」
「ええそうね、これからこの街を出た後も頼りにするわ、幼馴染クン?」
そう言ってユリアはアルスの腕に抱き着く。十四歳ながらに大きな胸の感触を感じたアルスの頬は更に赤くなった。
「…なぁユリア、君って好きな相手はいるのかい?」
アルスは勢い任せでユリアに好きな相手がいるのか聞いた。
「んー、いないかしら」
ハスウェルとの婚約をしていた時もいつか好きになれれば良いやと思って接していた。そのためユリアはまだ恋を知らない少女である。
「そうか」
アルスはそれを聞いて自分にもチャンスはあると思う。
「何でそんな事を聞くの?」
「幼馴染の恋愛事情が気になっただけさ」
「あー、また変な研究でしょう?、あなたらしいわ」
ユリアはアルスに抱き着いたまま。今度はどんなレポートを書くつもり?と言う。
「研究じゃないよ…」
「ええー?」
宿から出るとハスウェルが待っていた。
「ハスウェル、君、本当に来るんだね」
「そこにいる猪の護衛が俺の任務だからな、この任が解かれるまでは着いて行くさ」
「猪アタッーク!」
猪と言われたユリアはハスウェルに向けて突進するが避けられた。
「ちぃ素早いな貴様…」
「フッ、簡単に当てれると思うな」
「…」
ユリアがいつか当ててやると頬を膨らませていると。何やら騒ぎが聞こえて来た。
「何かしら?」
「さぁな」
ユリア達は騒ぎが起こっている場所に近付くと。妊婦がお腹を抑えて苦しそうにしていた。町医者の元に辿り着く前に産気付いてしまったようだ。
「大変!」
ユリアは駆け出す。二人の少年はその姿を見て困っている人を見たらすぐに助けに行くのが聖女らしさなのだろうなと思った。
「これはこれは聖女見習い様…」
「どうも!、この状態になって何分!?」
「二分ほどです、何人かが医者を呼びに行ったのですが…」
「分かった」
ユリアは女性に治癒魔法を掛ける。すると辛そうだった女性の顔が和らぐ。
「私の魔法で産まれるのを少し遅らせたわ、誰か魔導通信で連絡を、病院にはこちらから向かうと伝えて、それと魔導車の用意も」
「用意しよう」
「連絡は僕が!」
ハスウェルが走って行き。アルスは陣を展開して魔導通信を掛けた。数分後には魔導車が着き病院に連絡も付いた。
「あ、ありがとうございます…聖女様…」
「あら、お礼なんていいわ?、そんな事よりもあなた、もう少し産むのは待ちなさい、ここで産むのは赤ちゃんに良くないわ」
「は、はい…」
ユリアは魔法で産まれるのを遅らせつつ女性に話しかけ励ます。そして数人の男に手伝って貰いゆっくりと魔導車に彼女を乗せた。
「ハスウェル!、揺らすんじゃないわよ!」
「分かっている!」
ハスウェルは出来るだけ安全運転で病院に向かう。その間もユリアは彼女を励まし続けた。
病院
暫くして無事女性は赤ん坊を産んだ。夫と共に幸せそうに子供を見つめる女性はとても幸せそうだ。
「ありがとうございます、ユリア様、ちゃんとした場所でこの子を産み落とせたのはあなた様のおかげです」
女性はユリアに感謝する。
「あら?凄いのは我慢したあなたよ、私はその手助けをしただけ、それじゃ私は行くわ、その子を立派な大人になれるように育ててあげてね」
ユリアは優しく微笑み赤ん坊の頬を撫でると二人の相棒と共に部屋を出た。
「ユリア、今日は仕事に行けそうにないね、お金は大丈夫?」
「余裕はあるわ、あら?」
話していると店で盗みを図り飛び出して来た男と鉢合わせした。この街で活動している間に何人か捕まえた結果泥棒業界ではヤバ聖女と言われているユリアを見た男は苦笑いする。ユリアもニッコォと微笑んだ。
「抵抗しないなら何もしないわ?抵抗しないなら」
「…」
男は抵抗した結果。光の魔法を撃ち込まれまくった泥棒の話を聞いているため大人しくなる。ユリアはそんな彼の肩を掴むと兵舎に連れて行くのであった。
「兵舎長もな驚いてるよ、そこら辺の衛兵よりも多く捕まえてくるからな…」
「あはは…」
数分後。泥棒を兵舎に突き出したユリアは今日もホクホク顔で宿に帰って行くのであった。