三話
兵舎
兵舎にてユリアが目を覚ます。近くにはアルスがいた。
「ユリア!目を覚ましたんだね!」
「アルス…ここは?」
「街の兵舎さ、君あの戦闘の後気絶したんだよ?」
「その割にどこも痛くないけど…」
まだボーとしているらしいユリアは額を触る。
「だ、誰かが受け止めてくれたんじゃないかな!」
「誰よそれー…」
と言いつつユリアは目を瞑る。
「大丈夫かい?」
「んー大丈夫」
「そっか、良かった」
二人で話していると部屋の扉が開く。そこには元婚約者のハスウェルが立っていた。
「今更何しに来たのよ?、私達もう婚約者じゃないわ」
「俺が兵士になったのは知っているだろ?君も、それに俺はあの婚約破棄に納得したわけじゃない」
そう言ってハスウェルはユリアに近付く。
「あなたが納得してなくても婚約はもう終わった話よ、ハスウェル、私も納得してる、あんなな生活をしてた私が悪いってね」
ユリアは自分の過ちを反省しているからこそ。自分の手で成り上がってやると決意したのだ。
「…君らしいな」
そう言ってハスウェルはユリアの髪を撫でた。アルスはそれを見て少し不満気な顔をしてしまう。その結果ハスウェルと目があった。
「「…」」
二人は男同士だ。互いに互い。目の前の男がここで目を瞑っている少女をどう思っているのかに気付く。
(敵だなこいつは)
(と思ってるんだろうな)
「…」
ユリアは目を瞑りながらなんか空気が重くなった?と心の中で首を傾げていた。
暫くしてハスウェルが仕事があると部屋から出て行くと代わりに先程の隊長が部屋に入って来た。
「ハスウェルから目を覚ましたと聞いた、大丈夫かね?」
隊長は質問しつつ思う。元気よく出されたシチューを食べている少女を見てこれは心配ないなと。
「大丈夫よ、シチューありがと、美味しいわ」
「それは良かった」
よく食べるのはいい事だと隊長は頷く。
「それでな?、あの者達についてなんだが、こんな物を持っていた、見覚えはないか?」
隊長は漆黒のドラゴンの紋章を二人に見せた。
「ないわね」
「僕もです」
「そうか…」
なら何者か分からんなと隊長は言う。
「何も喋らないんですか?」
「一言だけ、俺たちは死ぬつもりだったと言っていたよ」
「あら、そんな事言えるくらい元気なら助けた甲斐があるわ」
「だね」
二人は顔を見つめ合いクスクスと笑う。
「これは預かっても良いかな?、どうするか決める権利は彼等を倒した君達にあるのだが、国に提出して本格的な調査を始めたい」
「良いわよ、持って行って、私達はいらないわ」
「そうだね」
「分かった」
話を終えた隊長は少年と少女の髪を撫であんまり無理はするなよ?と言ってから出て行った。
「無理はしないわよね?」
「えっ?あっうん」
「…今の間は何かしら?」
「なんでもないよ!」
隊長の言葉を聞きお転婆元お嬢様が無茶をするだろうなと思っていたとは言えないのだ。
城塞都市カラミリア
兵舎を出たユリアは今日もホクホク顔をしていた。犯罪者を捕らえた協力金として30000ゴールドも貰えたからだ。
「ねぇアルス!、どこかに悪人いないかしら!」
「そう何人もいないよ…」
「…いたわ」
ユリアも冗談で言ったのだが。目の前で引ったくりが起こった。ユリアはそれを見てちょいっと足を引っ掛けて転けさせ捕まえると兵舎に引っ張って行く。数分後30000ゴールドを50000ゴールドにして帰って来た。
「何かしら、ニヤけてしまうわ、お金を稼ぐのって楽しいわね」
(楽しいがモチベーションになってくれたなら今後も大丈夫かな)
アルスはユリアの様子を見てもうあの自堕落な様子にはならないだろうと思う。今の姿は完全に聖女になるため頑張っていたユリアの姿に戻っているのだ。
「なーんかやる気出て来たし、教会に行くわよ!」
「サボっていた神への祈りを再開するのかい?」
「ええ」
聖女は週に一度教会で神への祈りを捧げる決まりがある。ユリアは面倒だからとサボっていたが。再開する気になったようだ。
「神様に怒られないかな…」
「大丈夫よ、きっと」
教会
教会に着くなりユリアは真上から降って来た水でびしょ濡れになっていた。
「すみませーん!」
「い、いいのよ…」
数歩歩くと次はレンガが欠けておりそこに足を引っ掛けて転けた。
「…」
また数歩歩くと落ちていた紙に足が滑ってまた転けた。
「帰る!!!」
「はいはい、怒らない」
怒って帰ると言い始めたユリアを宥めたアルスは女神像の前にユリアを座らせた。ユリアは全力で女神像にガンを付けつつ祈りを捧げ始める。すると上からレンガが落ちて来た。
「睨んでるんじゃねーよ!ってか!?上等よ!かかって来なさいよ!」
「女神様と喧嘩するのはやめて!!」
アルスは今の流れを見て察した女神は怒っていると。そして気が強いユリアもここまでやられて黙ってはいないと。
「…はぁ、私が悪かったのは認めてるわよ、だから祈りくらいは捧げさせてくれても良いじゃない」
「…」
ユリアの言葉を聞いた女神像が輝き始めユリアに光が纏わり付いた。暫くしてから光は消える。
「今のは女神様?」
「ええ、反省したのならこれから頑張りなさいだって」
「良かったじゃないか許して貰えて」
「ふふっそうね」
ユリアは女神像の前に座り直すと目を瞑り祈りを捧げ始める。するとユリアの体が金色に輝き始め。金色の光が空に伸びて行った。
???
「あら、おサボりな新人ちゃんが復帰したようですね」
その光に気付いた聖女がいる。光を見て優しく微笑んだ彼女は隣の国にいる聖女に手紙を出す事に決めた。
「危険な者達がいるようですし、新人ちゃんは保護しませんとね」
そう言って聖女は黒いドラゴンのマークに目をやる。
「あの者を復活させようとしているのだとしたらさせませんよ、絶対に」