婚約破棄されたし追い出されました!
エルフェルド家
アリスフェルノと言う名の世界のエルフォーナ王国にあるエルフェルド家。ここに十四歳になったばかりの一人のお嬢様が暮らしていた。
「ユリア、いい加減に働いたらどうだ?」
エルフェルド家のお嬢様ユリアの友アルスがぐうたらとクッキーを食べているユリアに働かないのか?と質問する。
「嫌よ」
ユリアは手をヒラヒラと振りつつ働くのを拒否した。
「君の父親も婚約相手の御当主様も怒ってたぞ?、働かないって」
「知らないわよ、黙ってなさいよクソジジイ」
「あっ…」
アルスは部屋の入り口を見る。そこには顔を真っ赤にした男性が立っていた。エルフェルド家の現当主でユリアの父ユーディアスだ。
「ユリア、お前はそのぐうたら生活をやめない気か?」
「ええ、やめないわ、だって私どうせもう貰われるの決まってるじゃないの」
「そうか、…お入り下さい、これが現状の娘でございます」
「…?」
ユリアは身を起こす。そこには婚約相手のスーグル家の当主がいた。
「ユリア殿、私はあなたが聖女の子孫として毎日真面目に鍛錬を行っていたからこそ、聖女として立派に成長なされると思ったからこそ、我が息子との婚約を結んだのです…」
「え、ええ…」
ユリアは猛烈に嫌な予感がして引き攣った笑顔を見せる。
「しかしあなたは我々と婚約が決まってからと言うものの、そのような自堕落な生活を始めてしまった、我々の期待を裏切って…」
スーグル家の当主はそう言うと婚約証を取り出しユリアに渡す。
「これを返したと言う事はどう言うことかお分かりでしょう?、あなたとの婚約は破棄させていただきます」
「ちょっと!待って!、い、今からやり直すから!!」
「もう遅いのですよ、ユーディアス様は何度も何度もあなたに生活を元に戻し聖女となるための訓練をするように言ったはずですよ?」
スーグル家の当主はそう言うとユリアに背を向けて部屋から出て行った。
「あっ…」
ユリアは彼に手を伸ばし何か言おうとするが何も言えなかった。自分が悪いのは明らかだからだ。
「ユリア、私からもお前に言う事がある」
「何?、お父様?」
「出て行け、お前を我が家から追放する」
「そ、そんな!お父様!待って!!」
「もう決めた事だ」
ユーディアスはユリアの手を掴むと屋敷の外に連れて行く。そして玄関まで来るとユリアだけを門の外に出して門を閉めてしまった。
「そ、そんな!お父様!私これからどうやって生きて行けば良いの!?、お父様!!」
ユリアは必死に門を叩き父を呼び止めようとするが父は振り返らず家の中に入ってしまった。
「も、門番!開けなさい!、私の命令よ!」
「話は聞いております故、あなたはもうエルフェルド家の者ではありません、従ってお屋敷に入れる事は出来ません」
「あ、あはは…」
ユリアはこの上ない絶望感を味わった。婚約が決まったからと油断し自堕落な生活を送った結果がこれかと少女は思う。顔面蒼白になった少女はトボトボと住み慣れた屋敷から離れて行った。
「あなた…ユリアは大丈夫かしら…」
ユリアの母は俯きながら屋敷から離れて行くユリアを心配そうに見守っている。
「心配するな、あの子は聖女になる素質を持った子だ、必ずこの苦難を乗り越えて立ち直る筈だ、厳しい事をしたが、確実に立ち直り我が家の次期聖女として相応しい存在となるだろう」
ユーディアスはそう言うと教会に連絡を入れる。ユリアが旅立ったと。
城塞都市カラミリア、公園
ユリアの故郷であるカラミリアの公園にてユリアは泣いていた。どうしようもない現実が悲しくて。
「…うぅ、ぐすっ、いつまでも泣いているわけには行かないわ、これから私は一人で生きて行かなければならないんだもの…」
追い出された事でユリアは婚約前の必死になって聖女になろうと頑張っていた頃の自分に戻っていた。このまま泣いていても野垂れ死ぬだけだと言う思いから。
「生きる方法は沢山ある、働くか、冒険者になるか、そのどちらかよ」
ユリアは近くの掲示板に見つけた。
『日雇い!、日給1500ゴールド!』
と言う求人の紙を。
「まずは働いてみましょう…」
紙をよく見て求人をしている場所を把握したユリアは綺麗な金色の髪を揺らし。公園から出て行くのであった。
「出て行け!」
三十分後。今まで皿洗いなどした事がなく。皿を割りまくったユリアは追い出されていた。本日二回目である。
「こ、こんなに出来ないなんて…」
皿洗いなら出来ると思っていた。しかし全く出来なかったユリアは地面に手を着き自分の何も出来なさに絶望する。
「後、私に出来る事と言ったら…」
ユリアは手に灯る光を見る。それこそユリアの力聖女の力。まだ覚醒前だがユリアは優秀な光の魔法の使い手だ。そして剣士としての教育も受けている。自堕落な生活を始めてからはどちらも練習していないが。
「良し!、私、冒険者になるわ!」
冒険者なら皿洗いなどの家事を教わっていないと出来ない仕事はやらなくても良い。そう思ったユリアは冒険者になると決めた。
「やるわよ!私!、そして私を追い出したお父様や、婚約破棄をしたスーグル家の当主を見返せるくらいの存在になってやるわ!、見てなさいよー!!」
ユリアの叫びが街に響く。その声が反響して戻って来たのを聴いたユリアは恥ずかしくなり。その場をそそくさと離れて冒険者ギルドに向かう。
冒険者ギルド
「ごめんくださーい…」
初めて入る冒険者ギルド。不安である少女は胸に手を当てながら中に入った。
「あら、エルフェルド家のご令嬢様じゃない、なんでこんなところに?」
どうやらユリアが追い出された事はまだ知られていないようだ。ユリアは普通ならこう言う事はすぐに公表してあっという間に魔導通信で広まる筈なのにな?と首を傾げる。数日前も他の家のお坊ちゃんが追い出されたと新聞に載っていたのを見ているのだ。
「…」
(まっいっか、そんな事より仕事しないと今日の寝床すらないのだし)
必死なユリアは何故公表していないのか?などと考える余裕はない。とにかく仕事をしなくてはならないのだ。
「ちょ、ちょっと冒険者ギルドで働いてみたくなったのよね、ダメかしら?」
「構いませんよ、冒険者ギルドはどなたでも歓迎いたします!」
誰でも受け入れて誰でも仕事を与える。冒険者ギルドとはそう言う場所だ。
「そ、そう?、良かった…」
これで働けるし寝床にもあり付ける。そう思ったユリアはホッと胸に手を当てた。
「それではこちらに手を、冒険者登録を済ませちゃいましょう!」
「ええお願い」
登録用の魔導具に手を置くとチーンと気持ち良い音が鳴りユリアの情報が表示された。
『ユリア・エルフェルド、十四歳、クラス聖女見習い』
「流石ユリアさん、クラスに聖女と表示されている人は初めて見ましたよ!」
聖女は世界に覚醒前のユリアを含めて十人いる。九人しかいなかった聖女が十人になるしとある事情もありユリアは期待されているのだ。
「あ、あはは…」
(追い出され聖女って出なくて良かった…)
ユリアはホッと胸に手を当てつつ出来上がった冒険者カードを受け取る。
「そのカードは冒険者カードです、手を当てると様々な依頼が表示され、そのカードから依頼を受ける事が出来ます、無くすと五万ゴールド再発行をするときに必要になりますのでお気を付けてください!」
「五万って…」
絶対に無くせないわとユリアは思った。
「それでは良い冒険者ライフを!」
「ええ」
ユリアは受付のお姉さんに手を振り分かれると。椅子に座り依頼を見る。
「これね、スライム討伐、1500ゴールド、私ならやれる筈…」
ユリアは初めての戦闘に緊張しつつギルドから出てカラミリア平原に向かう。
カラミリア平原
カラミリア平原。自然豊かな平原であり初心者冒険者にとって比較的安全に冒険者としての練習が出来る場所だ。
「良し…」
スライムを見つけたユリアは手頃な棒を探す。聖女であり剣士であるユリアはその光の力を剣に纏わせて戦う。そのために急拵えの武器として棒を探しているのだ。
「あった、これが良いわ」
トコトコと歩いて見つけた大きな木を持ったユリアは光を纏わせる。
「良い子ね、これから暫くお願いね!」
この丈夫そうな棒は暫くの間ユリアの相棒となる。ユリアは棒を優しく撫でてから光を纏わせた。
「スライム君!覚悟!!」
そして木の身を食べているスライムに襲いかかる。
「!!」
スライムは驚いた様子だが。逃げる暇なくユリアの光を纏わせた棒に殴られ絶命した。
「はぁぁ…倒せたわ…」
ユリアはスライムを倒せてホッと安心する。自分も割と戦えるじゃないかと。
「やれるのが分かったし、どんどん狩って行くわよ!」
おー!と手を振り上げた少女は近くのスライムを見渡す。スライム達は一斉に逃げ出そうとするが。次期聖女として優れた身体能力を持つユリアからは逃げられず。距離を取れた者もユリアの左手から放たれた光弾に命中して帰らぬスライムとなった。
「チーン、って、なるほど目標数を倒したのね」
気持ち良い音が鳴りなんだ?と思うと冒険者カードから鳴った音のようだ。取り出すとクエストクリア!と表示された。
「やったわ!、流石私ね!」
追い出されて失っていた自信を依頼を達成した事で取り戻したユリアは腰に手を当ててドヤ顔を見せる。
「もう夕方ね、街に戻って宿を見つけないと」
とりあえずはお金が必要である。心許ない木の棒をいつまでも持っているわけにはいかないのだ。
城塞都市カラミリア
安い宿に泊まりあまり美味しくない夕ご飯を食べたユリアはあまり良くないベッドに横になっている。
「…」
一人でベッドに横になっていると感じるのは寂しさ。ついさっきまでは家族がすぐそばにいてくれたのに今は一人だ。その現実はまだ幼さの残る少女にとってとても寂しいものだ。
「泣いてる暇はないわよユリア、明日から頑張らないと野垂れ死ぬんだからね!!」
頑張らなければ死ぬ。その事実がユリアを奮い立たせる。
「絶対に成り上がるわよ!ユリア!!、えいえいおー!」
決意を露わにして声を張り上げると隣の部屋の者にドン!と壁を叩かれた。ユリアはその音にひぅ!?となり涙目になる。
「寝よう…」
明日もあるのだ。早めに寝ようと思ったユリアは目を閉じて眠り始めた。
???
薄暗い部屋に六人の者達がいた。
「聖女、あの方を封印している結界を維持している者達、現在は十人いる彼女達を殺さなければならん」
「そうね、あの忌々しい女どもを早く八つ裂きにしてやりたいわ」
「ヒヒヒ、どんな味がするんだろうねぇ」
六人それぞれが宿敵である聖女を殺す瞬間を想像して目を怪しく輝かせた。
「とりあえず、一番狩りやすいこの少女に暗殺者を送った、覚醒前のガキだ、すぐに殺せるだろう」
そう言ってリーダーらしき男はユリアの写真を机の上に投げる。
「フン、こんなガキ相手にしてもつまらないわ、暗殺者に殺されて終わりで十分ね」
「ヒヒヒ、そうだねぇ」
六人の者達は確実に死ぬであろうユリアの事は忘れて他の九人の聖女をどうやって殺すかについての会議を始めるのであった。