61.迫る壁
「まずはセイレーンを探さないとな」
ゼドは壁を手のひらで叩きながら、ため息混じりに呟いた。
「レイナさんのことも心配です。あ、あと、オリヴァーさんも」
「レイナ? オリヴァー……?」
ついさっきまで話をしていたはずなのに、ゼドは2人の名前を初めて聞いたかのように、眉を寄せて首を傾げた。
「はいはーい! アタシは覚えてますよ。剣士さんと、槍使いさんですよねぇ」
「剣士と槍使いなんて呼んだ覚えはないが」
「またゼドさんの記憶からは消えてるんですか……。そもそも、おかしいと思いませんか。セイレーンの危険なクエストにこの面子って」
「それもそうだな。黒魔法使いをひとり連れて行くとして、お前を選ばないだろう」
自分で言ったことだが、完全に同意されるとそれはそれでリコは複雑だった。
「アタシは何で呼ばれたんですかねぇ?」
「お前は……。……全く思い出せない。そもそもお前の役職は何なんだ?」
「んー、何でしょうねぇ。司令塔、的な? いや、秘密兵器かな?」
「ゼドさん、その子は何もできないですよ」
ロッテがややこしいことを言い出すより先に、リコは遮った。
「何もできないって、魔法も……剣技も?」
「はい、もう、全く」
「……なぜ俺はこいつを選んだんだ。やはり記憶を改ざんされているのか」
「やっと気づいてくれましたか?」
ゼドが頭を抱えると、ロッテはふふん、と鼻を鳴らした。
「アタシが何もできないことが役に立ちましたね!」
なぜロッテが得意げになるのか、リコは理解不能だった。しかし呆れている時間ももったいない。
次にゼドが灯した火が消えたら、何が起こるのか。
想像しただけで恐ろしかった。
「まずはここから脱出できるかですよね」
そう言いながらリコは辺りを見渡してみたが、やはりあるのは壁だけで、天井もあと少しで頭がつきそうなほど低い。
というよりは、さっきよりも低くなっているような気がした。
「ゼドさん、もしかして」
「あぁ、リコも気が付いたか?」
2人の間でロッテだけは不思議そうに首を傾げている。
「どうかしましたかー?」
ロッテの声に重なって、ズズズズ、と何かを引きずるような音が聞こえた。
それと同時にまた、天井、そして壁が近づき、更に空間は狭くなった。
「少しずつ壁が迫ってきているんです。このままだと壁に挟まれて……」
「ええっ、ぺちゃんこですか!?」
「えぇ。だから早く出ないと」
とはいえ壁でも破らない限りは、簡単に出られそうになかった。
「攻撃魔法は私使えないんで……地道にゼドさんの短剣で掘ってみますか?」
「いや、安易に壁を壊すのはやめておいたほうがいいだろう。ダンジョンが崩れてしまうかもしれない」
「それじゃあ、どうやってここから……」
「ひとつ、考えが有る」
ゼドは腰から短剣を引き抜いた。
その視線の先には……リコがいる。
「ゼドさん……?」
「すまない、リコ」
「えっ」
ゼドは一度天井に向けて探検を掲げてから、勢いよくリコの胸に突き立てた。