59.土人間襲来
「嘘!? 確か、ええと……この辺りから入ってきましたよね!?」
レイナは槍で指した壁へと、駆け寄ろうとした。
しかしすぐに汗だくのオリヴァーに腕を掴まれてしまった。
「無闇に動かない方がいい。俺たちは今、惑わされているんだ」
「それは……はい。そうですね」
泣きそうな声でレイナは呟き、その場にしゃがみ込んで、膝を抱えた。
オリヴァーの言うとおりだ。目の前のものが全て真実に見えるけれど、私たちは今確かに惑わされている。
だからこそ冷静にならなければならない。
リコは首のアクセサリーを握りしめた。ゴツゴツしたそれは、リコの柔らかい皮膚を突き、薄く血を滲ませた。
「あっ、でもでも! 入ってくる場所がないってことは、モンスターも出てこないってことじゃないですか? ね? ね?」
同意を求めるように、ロッテが早口で捲し立てる。
その奥でセイレーンが、怪しく目を光らせたようにリコは見えた。
「そうとも言い切れ……」
ため息混じりにゼドが呟いたそのとき、壁がもこもこと蠢きだした。
リコがその不気味な光景に目を離せずにいると突然、ボコッ、と土色の手が突き出てきた。
手が壁を押し上げたと思うと、続いて顔、体が浮き上がってきた。
壁を突き抜けて……というよりは壁から生まれたような土人間たちが、ぐるりとリコたちの周りを囲んでいた。
「〜〜〜♪」
いつのまにか水面から顔を出していたセイレーンはまた、声高く歌っていた。
セイレーンの声に引き寄せられるようにして、土人間たちが直進してくる。
「配置につけっ、レイナはリコを護衛して、リコはモンスターどもの足止めをしろ。それから、ええと……君は……」
オリヴァーが剣を構えて土人間に突撃しようとしたところで、ふとロッテを見た。
「大丈夫です、アタシ、何もできないんで!」
「この子は何もできないんで、無視してください!」
ロッテとリコが同時に叫ぶと、オリヴァーは頷き、前進した。
土人間たちは他のヒトガタよりも脆く、オリヴァーの一振りで一気に3〜4体が消え去ってしまうほどだった。
それでも数が多く、全てを倒し切るのに相当の体力を使ってしまった。
「きゃはははっ」
ぐったりしている人間たちを見て、セイレーンは甲高く笑った。
鱗の色はほとんど変わりきっている。
「そろそろ終わりにしないとな」
全員が地面に座り込み……なぜか何もしていないはずのロッテまでもが寝転んでいる中、ゆっくりゼドだけが立ち上がった。