5、パーティ内恋愛?
それからは好き勝手な、トーリスの悪口大会だった。
「あのー……いいですかね?」
ウェイターが運んできた飲み物は、氷が溶けて薄まっている。
ふたりが盛り上がりすぎていて、置くタイミングを完全に逃したのだ。
「吐き出すって大事ですね。明日、膨張豚鼻野郎……じゃなくて、トーリスさんに会ったら、笑っちゃいそう」
「ぶふっ、もう、レイナさんったら」
共通の敵を作ることで、レイナとリコは前よりもずっと結束力を固めたのだった。
「豚鼻も大概っすけど、私、結構オリヴァーさんにもムカついてます」
調子づいたリコは、続いてのターゲットを定めた。またふたりで盛り上がれる……そう思ったのだが、微かにレイナの顔はこわばった。
さっきまでの騒ぎが嘘のように、しん、と静まる。
やばい、余計なこと言ったか……?
一筋の汗が、リコの眉間を伝っていった。
「あ……あ〜、オリヴァーさん、ね。確かに偉そうですよねぇ」
一瞬ぼんやりとしていたレイナは、ぱっ、と瞬きをすると、さっきまでの間を埋めるように早口で捲し立てた。
「だ、だよね」
「はい! でもまぁ、オリヴァーさんは、悪い人ではないと思うんですよね!」
悪い人ではない。
その言い回しに、レイナはオリヴァーを悪くいう気はないのだと、リコは察した。
「……ですね!」
そう答えながらも、リコの意識は完全に別のところへと飛んでいった。
なぜレイナはオリヴァーを庇うのか、純粋に勇者である彼を尊敬しているのか……それとも。
リコの頭の中で下世話な想像が広がるばかりだった。
「そろそろ行きましょうか。明日もありますし」
突然レイナは立ち上がった。
まだ謎の飲み物は、半分以上残っている。
「うん。……そうですね。今日は楽しかったです。ありがとうございます」
リコのほうも、ほとんどミルクティーを口にしていなかったが、レイナに続いて立ち上がった。
レイナはどこかほっとしたような表情をしていた。
「それでは、お疲れさまです」
「はい、また明日」
ふたりは店の前で手を振って別れた。
同じ街なのだろうが、リコはレイナがどこの宿に常駐しているのか、知らなかった。
「ねー、レイナさんとオリヴァーさんってさ、ヤッてんのかな」
食事も入浴も終え、ベッドの上でダラダラ寝転びながら、リコはニセモモに話しかけた。
「そんな話、キミが子どものころの親友にするの、悲しくならない? ワン」
「……いいの、あんたはニセモノなんだから
」
リコはモモが無邪気に走り回る姿を思い起こし、微かに罪悪感をおぼえた。
「ふたりのこと、きになる?」
「んー、気になる、っていうか、気を使うっていうか?」
「じゃー、羨ましいの?」
「は!? ないない! あんなカタブツゴリラ、ぜんっ、ぜん好きじゃないし」
「そうじゃなくて、恋人関係を結んでいたとしたらさ」
「はぁぁぁ? もっと意味わかんないっ」
「リコは誰かを、愛したいって思わないの?」
リコはすぐさま、鼻で笑って否定しようとした。
恋をしたい相手なんていない……周りの男といえば、オリヴァーとトーリスのふたりだけだ。
そのはずなのにニセモモの愛という言葉で、なぜかリコはかつて武器職人を目指していたころの、師匠の顔が浮かび顔が熱くなった。
師匠は若手人気武器デザイナーで、割とイケメンで……しかし頑固すぎるが故に、弟子はリコひとりだった。
「師匠もないからっ! そもそも、今更顔見せれないし」
「……ふーん?」
ニセモモはニヤニヤと……実際にシミが表情を変えられるわけがなかったが、笑っているような気がして、枕を構えた。
しかしつい昨日シミの上で見た死体が浮かび、手を止めたのだった。