58.首のない身体
「生きてたんだよな……死んでたのが、嘘だったんだろう。なあ、何とか言ってくれトーリス!」
取り乱すオリヴァーの様は、数日前にトーリスを探していたときとまるで同じだ。
オリヴァーの言うとおり、死んだということが嘘だったら、どれほどいいだろうか。
けれど何も答えずに突っ立っているだけのトーリスが、全てを物語っているようにリコは思えた。
「えいっ」
突然、ロッテがトーリスを肘で突いた。
「えっ、ちょっ」
「あれー、幽霊って、触れるんですね……あれぇ?」
ロッテが気の抜けるような声をあげると、トーリスは身体の真ん中を不自然な形で、くの字に曲げた。
「あっ、アタシ、そんなに強く押してないですよ!」
慌てるロッテを横目に、トーリスはヲヲヲヲヲ……と低く声をあげると、両眼を空洞にさせ、頭のてっぺんからサラサラと砂をこぼした。
徐々にトーリスの頭、顔は砂へと変わっていき、そして、首のない身体だけが、ドサッ、と地面に突っ伏したのだった。
「そうだ。俺たちはずっと、残りの……トーリスを探して……」
トーリスの身体を見て、オリヴァーはワナワナ震えていた。
首を失って数日経ったトーリスの身体は、ミイラとまではいかないが、干からびて血の色を失っている。
オリヴァーはトーリスの体に手を伸ばしかけて躊躇い、ゼドへと振り返った。
「ゼドさん、クエストの途中ですみませんが……仲間の身体を運んできてもいいですか。ちゃんと葬ってやりたいんです……すぐに戻ってきますから」
オリヴァーの言葉に、ゼドは険しい表情を浮かべた。
まさかゼドはこんなときでさえ、クエストを優先しろと言う気なのだろうか。
リコはできるだけトーリスの死体を見ないようにしながら、ゼドへ苦言を呈そうとしたが、それより先にゼドは唇を開いた。
「それは難しいかもしれない……見てくれ」
ゼドは土壁に視線を巡らせながら、呟く。リコも釣られるようにして壁を見てみた。
一見何の変哲もないように思えた……が、ぐるりと一周眺めてから、リコは青ざめた。
……ない。出口がない。入り口も、階段も何もない。
ぐるりと平な壁に囲まれているだけだ。
「閉じ込められた……?」
口にしてみて一層、リコは背筋が冷たくなるのを感じた。