56.醒めない悪夢
「リコさんっ、リコさんっ」
レイナの呼ぶ声で、リコはぼんやり覚醒した。
すごく怖い夢を見ていたような気がする。
しかし本当にあれは夢だったのか。確かめるのが怖くて、リコは寝たフリを続けようとした。
「リコっ!」
耳元でオリヴァーの聞きなれた怒声が、鼓膜を震わせる。
直後、頭から冷水を被せられた。
「うわっ!?」
リコは飛び起きて、びしょびしょになった身体を見下ろす。文句の一つでも言ってやろうと思ったが、顔を上げて見えたオリヴァーの泣きそうな表現に、言葉が出なくなった。
「良かった。目覚めないかと思った……もうあんなことは二度と耐えられない」
オリヴァーは頭を抱えた。嫌がらせかとリコは思ったが、その表情から本気でオリヴァーは心配していたのだとわかる。
被った水は少し生臭く、セイレーンの水槽から汲んできたもののようだった。
「あんなことって?」
ふぁあ……と、間の抜けた欠伸が聞こえ、リコは身体を硬直させた。
悪夢が覚めていない。
リコの隣では首と体が分離したはずのトーリスが、平然とした顔をして小指で耳をかいている。
「あば、あばば……」
「おい、こいつまだ寝ぼけてるぜ」
ひひひっ、とトーリスは、下卑た笑いを漏らした。
「トーリスさん。リコさんは体調が悪いんですよ。笑わないでください」
「そうだぞ。……といっても、あんまりゆっくりもしていられないんだがな。またいつモンスターが襲来してくるか……」
オリヴァーもレイナも普通にトーリスと話をしている。
まるで何もなかったみたいに。
「顔色が悪いな、リコ」
眉を顰めたゼドの顔が間近に迫り、リコはうへぇ、と情けない声を上げた。
「何か気づいたことがあるのか?」
リコは大きく首を縦に振った。
「……ここでは言えないか?」
ゼドの質問に、リコはただ首を振り続ける。するとゼドはリコの腕を取り、屈めていた腰を伸ばした。
「少し二人で話したい。オリヴァーさん。セイレーンを頼む」
「は、はぁ……」
オリヴァーは不思議そうに通路まで歩くゼドとリコを見ていたが、すぐに水槽の前へと進むと、律儀にじっとセイレーンを見つめていた。
「何がおかしい?」
声を落とし真剣な表情で、ゼドはリコへと尋ねてくる。リコは一度深く呼吸をしてから、乾いた唇を震わせて開いた。
「トーリスさんって、今日初めからいましたか?」
「あぁ。お前のパーティメンバーだろ?」
「はい、そうなんですけど……トーリスさんは、もう……し、死んでいるはずなんです」
「……は?」
目を見開き驚くゼドに、リコはたどたどしくトーリスが死んだ経緯を説明した。
リコが話をしている間、ゼドは信じられない様子で遠くのトーリスを見ていた。
「それじゃあ、あいつは何なんだ?」
「わ、わかりません! たくさん人も消えてるし」
「さっきの停灯でまた変化したのか。そうだな……ひとまず、その死んだ仲間のことをオリヴァーさんたちにも伝えてみるか」
「ええっ!? トーリスさんの前で? む、む、無理ですっ、怖すぎ!」
「まぁ、普通に説明するだけじゃ、信じてもらえないだろうな。まずは真実に気がつかせないと……トーリスさんが亡くなったことを証明できるようなものはないのか?」
「証明……うーん。街にお墓はありますけど……あ」
リコは胸元で光るアクセサリーを見下ろし、あることに気がついた。
「指輪……」




