55.近づく人影
リコの心の拠り所は、両手の温もりだけだった。
手を繋いでいる間は、ゼドも……ついでにロッテも、いなくならない。
そう信じて、リコは明るくなるのを待った。
シュッ、と誰かがマッチを擦ったかと思うと、ぼんやり辺りが明るくなった。
「大丈夫か?」
はじめに見えたのはオリヴァーだった。暗い中顔だけが明かりに照らされて、生首が浮いているようだ。
「大丈夫です。……覚悟しててもびっくりしましたね」
オリヴァーにレイナが答える。
「全く、面倒な能力だな」
ため息混じりにゼドが呟いた。リコは低く耳をくすぐるようなその声で、彼が消えていないことを確信し、胸を撫で下ろす。
「点灯ー!」
少し離れたところでロッテが叫んだ。
再びランプに一つずつ、光が灯っていく。
そしてフィールドの全貌が明らかになっていくにつれ、さっきまでの穏やかな気持ちから一変して、リコは愕然とした。
いない……誰もいない。
ゼド、自分のパーティメンバー、そしてロッテ以外、全員が消えていたのだ。
だだっ広いフィールドには、ポツンと5人だけが散らばり、その真ん中にセイレーンの水槽があった。
水槽から顔を出したセイレーンは、得意げに頬杖をついて微笑んでいる。
「どうだ、リコ。何か変わったことはあったか?」
ゼドが尋ねてきた。
何か、どころではない。
「き、気づかないんですか?」
「あぁ。暗くなる前と何も変わっていない……と俺は思う」
リコがどこから説明しようか迷っていると、ふぁあ……と、ダンジョンの更に奥へと続く道から欠伸が聞こえていた。
「お前!? どこへ行ってたんだ?」
オリヴァーが呆れたような声をあげる。
誰だ?
なぜかリコの心音は大きくなり、嫌な予感がした。
欠伸の聞こえたオリヴァーの振り返る方へ、リコは視線を向ける。
瞬間、膝から崩れ落ちた。
「リコさん!?」
駆け寄るレイナに支えられて、リコは何とか意識を保った。
レイナが心配そうに覗き込んでくる。
「あ、あれ……なんで……」
リコは震える指で目の端に映る人影をさした。
その人は馬鹿にしたようにリコを鼻で笑い、近づいてきた。
「どうしたんだよ、リコ。幽霊でも見たような顔してさ」
ニヤけ面でリコの目の前まできたのは、紛れもなくトーリスだった。
生首だけになった、かつての仲間の……。
「あ、あ……あ……」
リコはまともに息ができなくなり、レイナの腕の中で気を失った。