54.握った手
「ふざけているわけじゃないよな?」
「あ、当たり前です!」
ゼドは指で顎に触れ、少し考えたあと、長いため息を吐いた。
「多分、お前の言うことは正しい」
「信じてくれるんですか!?」
「あぁ。お前を、というか……」
リコのほうへと、ゼドは指を伸ばした。
長年武器を作った功績で、その指は無骨で荒れている。しかし何故か甘い匂いがして、リコの体は緊張した。
シャラン、と胸元で鎖が鳴る。
「真実の首飾り」
「あぁ、そういえば言ってましたね。……ってことは、私以外全員がモンスターに惑わされているということですか?」
「おそらく」
リコは体から血の気が引いていくのを感じた。いっそのこと、真実なんて知りたくなかった……私ではなく、ゼドがアクセサリーをつけていればよかったのに。
ゼドの後ろで水槽のセイレーンは、また苛立たしげに水の中を旋回していた。
「さっき真っ暗になった後、人が減ったんです! 次また同じことがあれば、もっと減ってしまうかも……」
「その可能性もあるな」
「引き上げましょう!」
「簡単に言うな。もうセイレーンの鱗は8割以上色が変わっているんだ。今日を逃せばいつ鱗が手に入るかわからない……大勢の人間が病に苦しむことになるんだぞ」
「でも! ゼドさんになにかあったら元も子もないじゃないですかっ」
リコの声に周りで休んでいたパーティメンバーが振り返った。
自分よりもゼドを心配してしまったことを恥ずかしく思うと、リコは視線から逃れるように俯いた。
誰かがリコの横腹を肘で突く。
「リコさんったら〜隅に置けませんねぇ」
ニヤニヤしていたのはロッテだった。
リコは一瞬、彼女を本気で殴ってやろうかと思った。
ゼドが小さく咳払いをする。
「とにかく、いきなり切り上げることはできない。しかしできる限り自衛はしないとな」
セイレーンはガンガン水槽にぶつかり、また今にもまた不気味な雄叫びを上げそうだ。
「おーい、皆、聞いてくれー!」
ゼドが声を上げると、雑談の声がシン、と収まった。
「おそらく、また灯りが落ちる。離れないように隣人と手を繋いでくれ」
指示を送りながらゼドはリコの手を握った。
温もりと柔らかさに、不覚にもリコはドキッとしてしまう。
「アーーーーーーー!!!」
セイレーンが叫んだ。
空いていた手にも力がこもる。
「リコさん、私もいますよ」
隣にはぴったりとくっついた、笑顔のロッテがいた。
空気読め、と言いかけた瞬間、辺りは真っ暗になって何も見えなくなった。