50.そして誰かがいなくなった
「だ、誰かっ、居ますよね!?」
心細くなり、リコは思わず叫んだ。
誰かがぎゅっと、リコの手を握る。
「大丈夫。あたしがそばにいる」
手を握っていたのはロッテだった。
いや、お前だとむしろ不安しかないのだが。
身体が妙に汗ばんでくると、リコは慌てて手を振り払った。
ロッテは呑気に、ちぇー、と呟いていた。
何もできないでいると数秒間でも長く感じられたリコだったが、実際に暗闇は長くは続かなかった。
目が慣れてくる頃には、少しずつランプに火が灯され、よりハッキリと辺りが見えるようになった。
安心したのも束の間、リコはある違和感に気がついた。
人が減っている。
ランプが消える前、フィールド内はほとんど人でひしめき合っていたにも関わらず、かなりのスペースが生まれていた。
リコはすぐさま辺りを見渡した。
水槽の前にはゼドがいる。
「レイナさんっ……オリヴァーさん!」
ふたりは、いない……。
泣いてしまいそうになったそのとき、ぽん、と肩を叩かれた。
「怪我はありませんでしたか?」
心配そうにレイナが、リコを覗き込んでいた。
そのすぐ後ろにはオリヴァーもいる。
「良かった。ふたりとも無事で」
「ただの停灯で、大袈裟だな。何度目のダンジョンだ? もう少し落ち着け」
ため息をつくオリヴァーを、リコは睨みつけた。
「ただの停灯って……。人がいなくなってるじゃないですか。皆どこへ行ったんですか?」
「は?」
「停灯している間に消えてるんですよ、音もなく。勝手に帰ったってことはないでしょうし、モンスターに食べられた……とか」
「人数が減ったようには思えないが。誰がいなくなったんだ?」
「えぇ!? いや、誰って……」
問いかけられても、リコは答えることができなかった。
減っているのは明らかだが、そもそも他のパーティと接触はなく、まともに話をしたのはロッテだけだ。
「いや、でもほら、どう考えても半分くらい……」
「誰かがいなくなった、というのは本当か?」
リコとオリヴァーの間に、ゼドが割り込んだ。
「本当です。というか、ゼドさんも気づかないんですか? 明らかスペース増えてますよね?」
「さぁ。こんなもんじゃなかったか?」
オリヴァーとゼドとの感覚の違いに、リコはだんだん自分の記憶に自信が無くなっていった。
「レイナさんは……」
「すみません、私も人数が減ったように思えないです」
レイナの答えにトドメを刺されたような気がして、リコはそれ以上何も言えなくなってしまった。
「お前の勘違いかもしれないが、人数が減っていたら困るな。一度点呼をとってみるか」
ゼドはクエスト紙を開き、ひとりずつ名前を読み上げていく。
「オリヴァー、レイナ、リコ」
「は、はい」
ゼトが名前を呼ぶたび、順調に声が返ってくるのだった。