4、パーティに残る意味
レイナに覗き込まれ、リコは慌てて目を逸らした。
「いや、別に私は無理なんて……」
「そうですか? 正直ボクは無理してるんですけど」
レイナは眉を下げて笑いながら、ナイショ話をするように手のひらを添えて呟いた。
「えっ、レイナさんが……? あっ、そういえはば今日私が無理させちゃいましたね! すいません、私の不注意でっ」
リコは嫌味を言われる前にと、慌てて謝った。しかし目の前のレイナは不思議そうに首を傾げていた。
「それは全然気にしてなかったですけど。っていうか、忘れてました」
レイナはリコに気を遣っているわけでもなく、心底そのことはどうでもよさそうな口ぶりだ。
私は死にかけていたのに、レイナにとっては取るに足らない相手だったのかと思うと、それはそれでリコは実力差を思い知らされたようで辛くなった。
「リコさん。私もね、別にクエスト自体はそんなに嫌ではないんです。ただ……ちょっと苦手だなって」
冷えた水に口をつけるわけでもなく、コップを持ち上げて氷を転がしながら、レイナは続けた。
「苦手?」
「トーリスさんです」
名前を聞いて、思わずニヤけてしまいそうになるのを堪え、リコは両手を握りしめた。
レイナも同じ気持ちだったのか。
そう思うと、同情心よりも嬉しさの方が優ってしまった。
「すいません、悪口なんて聞きたくないですよね……」
「ううううう、ううん! わかるっ、私もわかるからっ! 私も大っ嫌い!」
テラスカフェの客が一斉に、リコを見た。
レイナもぽかんと口を開けている。
「リコさんも?」
「う、うん。ていうか、レイナさんはトーリスさんのこと、そんなに嫌いじゃないのかなと思ってた。そりゃ、好きではないだろーなーっていうのは、見ててわかるけど、別にどうでもいいのかなって。だからなんか、レイナさんも私と同じで苦手なんだって思うと嬉しいっていうか……ごめん、私、何言ってるんですかね……」
視線に気がつき、さっきよりもリコは声を抑え、早口で話した。
一度に吐き出しすぎたリコは喉がカラカラで、一気に目の前の水を飲み干したのだった。
「リコさんって、結構面白い人だったんですね」
リコがコップを机に置く頃には、レイナは笑っていた。
それがまた気恥ずかしく、リコはまともにレイナと目を合わせられなかった。
「リコさんは苦手な人がいても、パーティを抜けたいとは思いませんか?」
レイナの言葉に、リコはドキリとした。
「うーん……抜けたい……とまでは思わないですかね。今日死にかけた私が言うのも何ですけど、他のパーティに入るよりは、クエストランク的にも安全性高いですし。何より慣れた仕事だけこなしていればいいっていうのが、気持ちも楽で……だから対人関係は我慢すべきなのかなと」
話しながら昨日、ニセモモに泣きついていた私が、何を偉そうに語っているのだろうとリコは恥ずかしくなった。
そんなリコの気も知らずにレイナは、真剣な表情で耳を傾け頷いている。
「そう、ですよね。ひとり嫌な人がいるからって、他に理由なく簡単にパーティを抜けるなんてこと、できないですよね」
「あ、いや、あくまで今のは私の意見で……レイナさんはパーティ抜けたいんですか?」
レイナは金髪を揺らして、首を横に振った。
「悩んでましたが……しばらくは抜けないでおこうと思います。それにリコさんに話してみて、少しスッキリしたので」
「そ、そう? いや、全然! 話ならいつでも聞きますよ。私も話したいし、なんて……!」