48.掻き回し要員
モンスターが痩けていた頬を膨らませている。フリーズでは頭から魔法が解けていくため、すでに自由がきくようだった。
「こ、こ、攻撃できないって、あれどうするんですか!?」
「んー、暇な人いないかなぁ」
「今から探しても遅いですって!」
モンスターが狙いを定めている……絶対に来る!
一か八かもう一度フリーズを唱えようとしたそのとき、モンスターの額に槍が刺さった。
「ンギィァァァァァァァ」
モンスターは断末魔を上げながら、砂に変わっていった。
リコとロッテの間で、いつのまにかレイナが肩で息をしていた。
「リコさん……大丈夫、ですか」
そう言っているレイナの方が、どう見ても大丈夫ではない。
「ありがとうございます。レイナさん!」
「いえいえ。危なかったですね。さっきのモンスター……ヒトガタドクギリです」
「ヒトガタ……ドクギリ?」
「頬の中に毒を溜め、霧状にして口から噴出させるモンスターです。毒を受けると大ダメージを受けます」
「口から噴出……お腹を爆発させるわけじゃないんですか?」
「爆発? そんな話は聞いたことありませんけど」
リコの横でロッテはワザとらしく、口笛を吹いていた。
「こら、ロッテ!」
リコがロッテを黙って睨んでいると、スラリと背が高く美人の、背中に弓矢を背負った女性が駆け寄ってきた。
「貴女ひとりで何をやっていたの? パーティから離れないでって言ったでしょ!」
女性を前にしてロッテはしゅん、と頭を下げて小さくなる。まるで親子のようだ。
ひとしきり女性はロッテを叱った後、ハッとした表情で振り返った。
「すみません。うちのロッテがご迷惑をおかけしました」
ご迷惑かけられまくりですと、リコは言い返したいところだったが、あまりに女性が申し訳なさそうに眉根を下げていたため、何も言えなかった。
「いえ、モンスター倒せましたし……倒したの私じゃないですけど」
「え、あ、すみません、ありがとうございます!」
「いえいえ」
女性、リコ、レイナは頭を下げ合い、お互いに謙遜し合った。
ふぁ、と詰まらなさそうに欠伸をするロッテへ、女性はキッ、と鋭い視線を向けたのだった。
「すみません、この子まだ本当に何もできなくて……今日はどうしてもと言うので見学に来させたんです」
見学なんてアリなのか?
ちらりとリコはゼドの方を見てみた。
モンスターはほとんど一掃されており、ほとんどが疲れ切って座り込んでいる中、ゼドは水槽に張り付きセイレーンを観察している。
今は何を聞いても生返事が返ってくるだけだと予想できた。
「邪魔しないからー。ねぇ、リコさん」
ロッテはリコに腕を絡め、女性に甘えるような声で言った。
どうして私を巻き込むんだ!? リコは口をぱくぱくさせて、声なき声を上げた。
「本当に迷惑をかけないのよ。ごめんなさいね、リコさん」
いやいやいやいや、どういうことですか!?
リコはもはや口を動かすこともできず、口をぽかんと開けたまま、背を向け去っていく女性を見送ったのだった。