39、危険なクエスト
「トーリスは……聖職者なのに、ひとりで突っ走ったからだよ」
「それ宝箱を独り占めしようとしたっていう、勝手な憶測でしょ、ワン」
「そうだけど」
「すっごく強いモンスターがいるのかも」
「こ、怖がらせないでよ!」
リコが叫ぶと、モモはクゥン、と悲しげに喉を鳴らした。
「怖がらせてるわけじゃなくて、リコが心配なんだワン」
「私もトーリスと同じように死ぬかもしれないってこと?」
「それは……」
ニセモモを問い詰めたって仕方がない。頭ではリコもわかっていた。
けれど今更クエストを断る気にはなれなかった。
ゼドと顔を合わせるのは、気が重くもあるけれど、クエストを受けないと二度と会えないような気がしたのだ。
「大丈夫。ほとんどダンジョンの地形覚えてるし、何かあってもすぐ逃げられるから」
それはトーリスも同じだったはずだけど、とはリコはあえて口にはしなかった。
ニセモモと気まずくなってから、ほとんど会話することなく、クエスト当日になった。
暇があればリコは、クエスト紙を眺めていたため、クエスト内容はほとんど頭に入っていた。
ただ、理解していたわけではなかった。
クエストの説明にたびたび出てくる、セイレーンだとかいう、聞いたことのない名前のモンスターの容姿を、想像することができなかったのだ。
「ボク、セイレーンを見るの初めてです! すっごく楽しみ!」
いつものダンジョン前で顔を合わせるなり、レイナは楽しげに話しだした。
いつも時間ギリギリに行動するゼドは、待ち合わせ時間直前になっても現れない。
不思議なのは、いつも誰よりも早く到着しているオリヴァーすら、まだ来ていないことだ。
「セイレーンって、どんなモンスターなんですか?」
「半分人間みたいな見た目で、もう半分は魚のモンスターらしいですよ」
「半分人間……ってことは、ヒトガタ、ですか」
リコが呟くと、レイナは笑顔をぎこちなくさせた。
ヒトガタにはあまり、いい思い出がない。
「あ、でもでも、セイレーンはすごく美人らしいですよ! 他のヒトガタより!」
レイナの声が妙に反響する。
モンスターが気を悪くしていないだろうかと、あらぬ想像をして、リコはダンジョンへ振り返った。
「どうかしましたか、リコさん?」
「いえ何でも」
言いかけたそのとき、ザッ、ザッ、ザッ、とダンジョンの奥から足音が聞こえてきた。