3、仲間外れティータイム
リコとしてもオリヴァーへの鬱憤を晴らしたいところだったが、トーリスの煽りには乗らずに口をつぐんだ。
そもそもトーリスと話をしたくないし、悪口を言えば、またオリヴァーにチクられるのではないかという不安もあった。
「いやー、しかし思ったよりかは早くクエスト終わったよなー。ちょうど昼の時間?」
ちらちらっ、とトーリスはレイナのほうを見た。するとレイナは突然、リコの腕にしがみつき、ニコッと笑った。
「本当、早く終わってよかったー。今日はリコさんとカフェで、新作ケーキ食べる約束してたんですよ。ね?」
パチン、とレイナはリコに向かってウインクをする。陳腐な動作だが、レイナがすると同性のリコでさえときめいてしまいそうな、不思議な魅力があった。
「えぇー……あぁ、そうなんだ。えっ、ケーキでお腹いっぱいになる?」
「なりますよー? でも男の人には物足りないかもですね」
レイナは話しながらリコの腕をひき、トーリスに向かって軽く手を振った。
笑みを浮かべながらもレイナは、トーリスに対して有無を言わせない気迫を放っていた。
「あー、うん、じゃあまた明日」
そう言ってトーリスは手を振りかえしたが、未練ったらしくずっとレイナのほうを見ていた。
うんざりした様子でレイナは、小さくため息をつく。
「ごめんなさい、リコさん。道連れにしちゃって」
「い、いやいや、全然! にしてもトーリスさん……リコさんのこと相当好きですよねぇ……」
「好きなんかじゃないですよ。トーリスさん、女性なら誰でも良いんだと思います」
笑顔でキッパリと言い切るレイナに、リコはドキッとした。一見無邪気そうな彼女だが、時折彼女は16歳とは思えないような口ぶりで、話すことがあった。
戦闘経験だけでなく人生経験も深そうだと、リコは考えていたが、レイナと込み入った話をする勇気は無かった。
「ねぇ、リコさん」
レイナは長い髪を揺らして、腕を組んだままリコを覗き込んだ。
「は、はい?」
「もし良かったら、本当にカフェ、付き合ってくれませんか?」
「えっ!? 私と?」
「はいっ!」
正直、さっさと帰って寝たい……しかし命を救ってもらったことを思うと、リコはレイナの提案を無下にはできそうになかった。
オシャレすぎてリコひとりでは絶対に足を踏み入れられないような、カフェのテラス席へレイナは平然と座る。リコもその正面へ恐る恐る腰を下ろした。
そしてレイナが呪文のような長ったるい名前の謎の飲み物を注文している一方で、リコは店員と目も合わせずにミルクティーを注文したのだった。
「はい、リコさん」
レイナはリコの前に、クエストが書かれた一枚の紙を差し出した。
クエストランクはD、内容には宝箱の回収と書かれている。
「同じ、ですね」
「えぇ、まぁ……退屈ですか?」
リコはぶんぶん首を横に振った。
退屈だなんてとんでも無い。
同じクエストで、しかもランクの低いクエストだけで報酬をもらい、リコは安全な生活を続けていきたかった。仕事内容には文句なしだ……人間関係は別として、とオリヴァーやトーリスを思い起こして、顔を顰めた。
「リコさん、無理してません?」